【小説】希虹の望

 小説投稿サイト『破滅派』に短編小説を投稿しました。
 https://hametuha.com/novel/86285/

題名:「希虹の望」

あらすじ

 捨てられた傘の切れ端が、元の持ち主を探しながら雨の中をさまよい、ある雨宿り場所にたどり着く。主人公「俺」は、そこで傘の切れ端をいじめる。

執筆年

2020

冒頭

 雨宿りするにはもってこいの天気さ、おかげで地面の下から這い出してきたものを踏みにじる感触も味わいやすいさ……忘れられた傘の切れ端やら、長靴の紐やら、雨とくればこちらのものと勘違いした連中が、ウロウロ、通りを歩き回っているじゃないか……雨宿りにもってこいの場所からそいつらをおびき寄せておいて、いざ足の近くまで来たと思ったら、思いっきり踏んづけてやるのはいい気分さ……雨の日のお楽しみなんて、これ以外のものははっきり言って偽物だよ、ねえ。
 持ち主の呼び声にはすり寄ってくる習性が、こいつらにはね、骨の髄まで染み付いているからね、俺が思いついた声色を一つずつ試していけば、必ずどれかに反応して何かがやってくるって寸法だよ。俺達の肩に降り掛かってくる雨は邪魔だがね、コイツラが少しでも勘違いしやすいように雨粒の一つ一つが声を張り上げていると思えば、まあ、我慢できないこともないだろう。
 声はなんて言っているか聞いてみろよ、「さあ、君たちの出番だ!
 さあ、君たちが活躍する番だ!
 さあ、君たちが外に出て、誰かの役に立つ番だ!」って、けしかけているんだよ、アイツラを。俺達はいわば、肩を濡らしながらね、とばっちりを受けているってわけさ……迷惑だと思わないか?
 ねえ、何年も前に道に捨てられた傘の切れ端に少しばかりいい思いをさせてやるためにね、こんなに水浸しにすることはないじゃないかって思わないかい、この道路も、あの屋根も、必要よりもずっと濡れちまってね、可哀想に……道に捨てられた傘の切れ端がいい思いをするためだけにね、こんなに多くのものが必要よりも濡れちまうなんて、少し迷惑がすぎると思わないかい?
 でもそんな迷惑もさ、踏みにじる瞬間の気持ちよさを準備するものだと思えば、我慢できると思わないかい?
 ねえ、だから呼びかけてやればいいんだよ、持ち主のもとに帰ることだけを思ってずっと道をあちこち漂っていた切れ端がね、どんな気持ちでこちらにすり寄ってくるか……「ああ、ようやく俺を迎えに来てくれたんだな」なんて期待しながらこちらにすり寄ってくるんだろうがね、そんな想像をしながら声色を使い分けるのは、いいぜ、いいぜえ、気持ちいいぜえ。
 俺はどんなものにも優しくするべきだって知っているからさ、切れ端に優しくしない瞬間の「裏切った」感覚が好きなんだよ。

 さあ、声色を選んでみようか。[…]


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