あの日から足が速くなった

「あ、帽子返せ!!」

学校からの帰宅中、僕は帽子を取られた。特に仲が良いとも悪いとも言えないような子たちに取られた。そんないたずらをしてくるような相手だと思ってなかった。僕自身もそんなことされるなんて思ってもいなかった。僕は1人で、あっちは2人。人数的にも不利。取ってから奴らは一目散に逃げた。帽子を取られた瞬間、僕の目からは涙が流れていた。

僕は涙を拭って必死に足におまじないをかけて「まてー!!」と追っていった。追っても追っても相手の方が足が速く、全く追い付かなかった。「あいつ、意外と早い!もっと逃げないと!」と相手が思ったのだろう。ギアが一段階上がった。「まだ、余力を残していたのか!」と僕は思った。僕の足は初めから全力疾走だった。追いつけなかった。

それでも、必死な僕の顔が怖かったんだろう。奴らは僕の帽子を捨てて、家路へと帰っていった。僕は帽子を拾い上げ、被り自宅へと戻った。自宅へ戻ってからは帽子を取られたことがあまりにショックでまた泣いてしまった。

家に帰ってから遊びに行く予定だったのに、こんな顔じゃ遊びに行けない。それでも遊ぶ約束をしたから、涙を拭って目的の公園まで自転車で走った。僕は何事もなかったかのような振る舞いで遊んだ。やっぱり楽しかった。泣いてたことは遊んでいる時だけは忘れていた。



あの時の泣きながらの全力疾走が何かを生んだんだろう。急に足が速くなった。その年からリレーでも一走目やアンカーを任されるようになった。運動会での短距離走でも1位を取れるようになった。学校の代表で市の大会に出ることにもなった。少しだけ感謝しているのかもしれない。あれ以降何かされることはなかった。それだけ足が速くなったってことなのだろう。


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