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「言葉と得意で作る経営とは」OPEN VUILD #21

テクノロジーの力で誰もが作り手になれる世界を実現する建築系スタートアップVUILD(ヴィルド)株式会社では、多様な領域で活躍する専門家をお招きして、さまざまな経営課題や組織のあり方についてオープンな場で語り合うトークイベント「OPEN VUILD」を開催しています。

新型コロナウイルス感染拡大後からしばらくはオンラインで行っていたため、リアルイベントとしては実に3年ぶりの開催。ゲストには、Soup Stock Tokyoを生み出し、その後ネクタイ専門店「giraffe」、ニューサイクルコモンズ「PASS THE BATON」、ファミリーレストラン「100本のスプーン」、海苔弁専門店「刷毛じょうゆ 海苔弁山登り」といった事業を手掛ける株式会社スマイルズの代表・遠山正道さんと、取締役社長の野崎亙さんをお招きしました。10月にVUILDがホームページやロゴなどを刷新し、パーパスやコアバリューを設定して新しく生まれ変わるにあたって、ベンチマークとした会社の一つがスマイルズだったためです。

2023年2月に取締役社長を交代したお二人が揃って登壇するのは非常に珍しいとのこと。遠山さんがVUILDの株主の一人でもあることや、野崎さんとVUILD代表の秋吉がグッドデザイン賞の審査員でご一緒したご縁で、今回の鼎談が実現しています。この三人が、クリエイティブカンパニーを経営していくために必要なこと、課題となることをじっくり議論しました。

Text by Sayaka FELIX

野崎亙さん
京都大学工学部卒。東京大学大学院卒。2003年、株式会社イデー入社。新店舗の立上げから新規事業の企画を経験。2006年、株式会社アクシス入社。デザインコンサルティングという手法で大手メーカー企業などのビジネスプロデュースや経営コンサルティングに従事。2011年、スマイルズ入社。全ての事業のブランディングやクリエイティブの統括に加え、「100本のスプーン」のリブランディングや新業態開発等も行う。さらに、入場料のある本屋「文喫」、「ヤエスパブリック」など外部案件のコンサルティング、プロデュースを手掛ける。
*受賞歴:「グッドデザイン・ベスト100」「グッドフォーカス賞 [新ビジネスデザイン] 」
*著書:『自分が欲しいものだけ創る!スープストックトーキョーを生んだ『直感と共感』のスマイルズ流マーケティング』(日経BP)

遠山正道さん
1962年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、85年三菱商事株式会社入社。2000年株式会社スマイルズを設立、代表取締役社長に就任。現在、「Soup Stock Tokyo」のほか、ネクタイ専門店「giraffe」、ニューサイクルコモンズ「PASS THE BATON」、ファミリーレストラン「100本のスプーン」、海苔弁専門店「刷毛じょうゆ 海苔弁山登り」を展開。「生活価値の拡充」を企業理念に掲げ、既成概念や業界の枠にとらわれず、現代の新しい生活の在り方を提案している。さらには「The Chain Museum」を創業、アーティストを支援できるプラットフォーム「Art Sticker」などをスタート。2022年に還暦を迎え、「新種の老人」を名乗るほか、個人会社「とおい山株式会社」を設立。
*著書:『成功することを決めた』(新潮文庫)、『やりたいことをやるというビジネスモデル-PASS THE BATONの軌跡』(弘文堂)、『新種の老人 とーやまの思考と暮らし』(‎産業編集センター)他

それぞれの企業の、大事にしている言葉

秋吉 VUILDは起業時にビジョンを「『いきる』と『つくる』がめぐる社会へ」としています。料理では自分で作ることによって生きる、生きることに弾みがかかって更に作るという連続性がわかりやすく続きますが、住環境でもそれを実現したいと思いました。だから社名VUILDも、生きることや生命にまつわる「Living」、「Vital」の"Vi-"と、建てるという意味の「Build」とを掛け合わせたものにしています。

今回、ロゴを変え、ホームページを刷新するうえで、僕らがどこを目指すかを考えていくことが重要だと考えました。僕らはクリエイター集団ですが、自分たちのクリエイティビティのみならず、「人々の創造性を解放すること」を同時に実現したいと思い、それをパーパスに定めした。 
また今回のリブランディングで注力したのがコアバリューです。僕らがどんなチームなのかを言語化しようと考えて、PLAY<むじゃきにつくろう>、VENTURE<しぶとく挑もう>、FESTA<やわらかく繋がろう>と、3つの言葉を設定しました。

今まで僕らは自律・分散・協調という言葉を、バリューとは明示せずに使ってきたのですが、改めて具体的に言語化しようと思いました。まず、思いついたらすぐ作ってみて、その過程を楽しむ遊び心が僕らの特徴だろうと気づきました。また、僕らは当然ベンチャー起業ですから、しぶとく挑戦して、どんどん改善を図ります。さらに、その過程で気づいたことや培った経験をシェアしていく、ともに分かち合うことも僕ららしさだろうと。つまり、無邪気に0→1で生み出したものを、改良してイノベーションを起こしいき、その蓄積をもとに様々な人を巻き込んでいくことが僕らのチームらしさだなと思っているんです。

僕らはこういったことをスマイルズさんを始め様々な企業を参考に、1年かけてやってきました。また、VUILDの会社像がわかりやすいように、絵も作りました。

VUILDは1本の木のようなものだと思っています。ShopBotというハードウェアを全国に180数台以上売って、連携できる事業者とつながったところから事業が始まっているので、それが根っこです。その後、EMARFというデジタルツールの開発をし、販売した全国各地のShopBotをEMARFを使って簡単に使えるようにしました。それを元に、僕らはクリエイター集団なので、家具から建築まで幅広い領域のプロジェクトに取り組んでいます。これらのプロジェクトで培ったものを、またシステムやプラットフォームに還元していく。そうやって大きな1本の樹を育てていくという絵を今回つくったんです。

スマイルズのサイトには、「スマイルズの3つの大切なこと」と書かれたページがありますよね。遠山さんが書かれたのではないかと思うのですが、「5感」はバリューに該当しますよね。これらの3つの言葉がどんな背景で、どういうふうに作られたのかをまずはお聞きしたいと思いました。

遠山 スマイルズという会社は、2000年に三菱商事株式会社初の社内ベンチャーとしてできましたが、Soup Stock Tokyoは1999年に第1号店ができました。当初はこういった言葉はなかったのですが、事業を生み出すときに作成した物語形式の企画書があったので、それがスタッフの共通概念になっていました。でも、2003年ごろ新卒採用を初めて行おうと思った時に、理念として短くまとめた言葉があった方がいいかなと思い、私が決めました。

最初に考えたのは「生活価値の拡充」です。どうしてこういう言葉になったのか。当時、事業はSoup Stock Tokyoしかなかったけれど、飲食業だけの会社だとは思っていなくて、一般的に言えばライフスタイル全般に関わる会社のつもりでした。でもカタカナで言うのはどうも照れくさい。どう日本語に訳すかを考えて、「生活価値」としたんです。それに「拡充」とつけたのは、単に大きくなるのではなく、拡げて充たしたいという思いがあったからです。なかなかいい言葉が生まれたなと思いました。その辺りから、言葉って大事だなと思い始めました。

「世の中の体温をあげる」は、その時代の空気の影響を受けてできた言葉です。1999年、2000年あたりって、ネットバブルによって多くのベンチャー企業が上場していて、みんな鼻息が荒かったんですよね。でも私はその部族じゃないぞという気持ちがありました。摩天楼を目指すのではなく、その前後がほぼわからないぐらいの、一人一人の気持ちの中にある大切なものを目指したいと思って、こういう言葉にしてみました。

それから「5感」。スマイルズらしさを表現した、低投資高感度、誠実、作品性、主体性、賞賛という 5つの感性を表す言葉です。この中で「作品性」という言葉は不思議に思われるかもしれません。私自身が個展を開催したときに、アート作品を作るのと事業を作るのって同じだなと思ったんですよ。自分たちで発意して、自分たちで作って、世の中に直接手渡して、直接評価を得るって、アートも起業も同じことですよね。でも「アート」って言っちゃうのは照れ臭かったから、「作品性」という言葉にしました。「お客様は神様です」って言葉が今以上に使われていた時代でしたが、自分たちが何を大事にして何をお客さんに価値として提供するのかがアートと同様に重要だという思いがありました。

これらは2003年ごろに作った言葉なのですが、2005年には絵も作りました。うちの会社って当時も一定の評価はいただいていたんだけれど、利益はなかなか出なかったんです。当時の株主は三菱商事で、とてもいい親だったけれど、やはり利益を出さないと続けられないので監査役が3人もいて、ビジネスサイドのプレッシャーが強かった時でした。それで誰かに話を聞いてもらった方がいいと言われてコーチングを受けたら、「会社を始める時はどんな思いでしたか」って聞かれたんです。それでばーっと話して、「今はどうですか」と言われて、またばーっと話して、「どのぐらい実現していますか」と聞かれて、全然できてないやんけって泣きながらしゃべって、その時に描いたのがこれなんです。

ブランドを木に見立てて、だんだん木が増えたりしていくんだけど、最後には鶏1羽になってしまう。ぐるっと一巡して、矢印がこの絵を見ている人の方を指している。次の一周はあなたが回してねという気持ち、右肩上がりに成長していくのではなく、並行移動して拡充していく様子を表したかったのかな。自分でもよくわからないのですが、とにかく自分でパワポとフリー素材で絵をつくりました。

言葉を大事にしつつも、言葉に従属しない

遠山 結局、ミッションビジョンとかの言葉って、最後にできるものは同じようなものになってしまうんですよね。私は言葉をたくさん書くんですよ。最後にできあがったものだけではなく、途中のドロっとした、わけのわからない異物みたいなものも、なるべく残しておく。VUILDはロゴを変えると言っていましたよね。新しくなることの意味もあるけれど、B面みたいな感じで今までのロゴもどこかに残しておいて、ぽろっと使ってみたらいいと思う。そういう、自分たちだけの言葉みたいなものは残した方がいいし、会社の存在意義なども言語化がちょっとうまくいっていないような、よくわからないようなものでもいいんですよね。

秋吉 同じことを野崎さんにも言われました。

野崎 遠山さんと同様、僕も言葉をたくさん書くんですが、言葉の質感が大事だと思うんですよね。「5感」の5がアラビア数字なのも、遠山さんが細部の言葉の異質性を大事にしているからだと思うんですよ。

遠山 そうですね。言葉の質感は大事です。1号店の店長をやった時に、Soup for allと書いた缶バッジを作ったんです。それは当時、「ART FOR ALL(全ての人にアートを)」という言葉を掲げてユニークな絵を描く、ギルバート&ジョージというイギリスのスーツを着た紳士風の二人組のアーティストがいて、かっこいいなと思い、そこからインスパイアしたんですね。それがいまだに社内でも使われていて。言葉を置いておくと、誰かがちゃんとうまく拾ってくれて、自分の思いを積み上げていってくれるんですよね。

野崎 最近でも、スマイルズのクリエイティブチーム用の会社資料に「誰にも似てない」と書いたんですが、それはもともと、Soup Stock Tokyoの最初のスタッフの求人広告に「誰にも似てない」って書いてあったからなんですね。

遠山 それも元ネタがあるんです。JUDY AND MARYのタクヤと当時仲が良くて、「KISSの温度」に「誰にも似てないボウイフレンド」という歌詞があった。すごくいいなと思ったから、その言葉と店舗情報などだけを載せたものを作ったんです。とがっていたよね。そしたら、やっぱりそれをおもしろがる美大生などが集まってきてくれました。

野崎 この手の言葉がスマイルズにはたくさんあるんです。こういった言葉の集合体がこの会社の世界観を作っていると思うんですよね。

さらに、こういう言葉に関して大事なのは、働いている人が言葉に「従属」しないようにすることです。僕も「世の中の体温をあげる」という言葉はとても好きで、そのほかの言葉も好きなんですが、スマイルズって、それをスタッフに強要することも、社内で唱和することも全くないんですよ。

一つの言葉を聞いて「共感した」というとき、その共感の背後に「いいなあ」と上に見るような憧れのような気持ちがある場合と、「自分と一緒です」と同じ方向を見ているような気持ちがある場合の両方があります。前者の場合は一方的にただ受け入れるだけですが、後者の場合は、聞いた言葉とは違う自分の言葉で表現するかもしれない。結果的に同じであっても、それはただ聞いたことを唱えたのとは違うんですよね。スマイルズのメンバーも、聞いていると、言っている内容は遠山さんの3つの言葉とほぼ同じようなことなんです。でもそれを社員からアルバイトの子まで自分の言葉で言っている。ちゃんと意味が理解できて、自分のものにして、実践者になっているんですよね。

仕組みに大切な言葉を埋め込む

秋吉 言葉をどこかに貼っておいたり、唱和したりしているわけではないということでした。でも、スマイルズの社内には、5感などの言葉が文化として根付いていますよね。それはどうやって根づかせたのですか。採用時に選別しているのですか?

野崎 採用もありますが、仕組みが3つの言葉を体現しているんです。たとえば、うちって決裁の概念がむちゃくちゃ希薄で、決裁フローもほとんどないんです。「責任は会社が取るが、あなたはそれをやるんだろう?」と思っているので。やりたいことをやるには覚悟が必要です。その覚悟があるならいい。そのかわり、本当にやるのかということは問われ続けます。それは5感の「主体性」の現れですよね。

遠山 5感の「主体性」は、「自分ごと」とか「頼まれてもいない仕事」なんて言い方もしているんです。私は三菱商事で10年間サラリーマンをやっていて、その頃はミッションもビジョンも会社から与えられたし、毎日やることも怒涛のように降ってきて、自分の意思を発揮することを忘れるような日々だったんですね。それは悪いわけではないけれど、自分を失う感覚がありました。でも、スマイルズを始めて、自分個人の人生を利用すること、自分ごと化することが、仕事での一番良い手段だと思うようになったんです。誰からも頼まれているわけではない、「自分だったらこうするよね」というちょっとした自分なりの気づきを追加していくようなことも含めて「自分ごと」を行なっていくのが大事だと思って、5感に入れています。

野崎 「自分ごと」を大事にしているから、個々の役割も決めていません。肩書きの意味も希薄です。だから仕事は総務なのにMCをやっていたり、本職は料理人なのにプロダクトの開発PJを同時にやっていたりするんです。もっと細かく言えば、広報部門が3人いて、仕事の内容を細かく分解すると中身が3人で全く違って、業務別ではなくアメーバ状に入り組んだ仕事の仕方をしていたりするんです。そうすると同じ人がいないから、競争がなくなるんですよね。競争よりも、己が己たらしめているかどうかを問い続けられるという組織になりました。

その結果、尖っている人、個性がとても強い人が多くなりました。でも僕たちはそういう人が大好きで、尖っているということは、他の人と違うということであり、それはスマイルズでは完全な価値になるから大丈夫って言っています。

秋吉 VUILDでも、そうだといいんだけどなあ(笑)。

主体性と「得意」の関係

秋吉 本職は料理人なのにプロダクトの開発をしていたり、総務なのにMCをやっていたりする方々は「やりたい」と手を挙げたんですか?

野崎 手を挙げる人もいれば、「きみは声がいいからMCやって」などと、こちらからお願いすることも多いです。というのは、僕は「好き」より「得意」を重視しているんです。遠山さんは「やりたいこと」がたくさんある。でも、僕はやりたいことって何もないんですよ。一切ない。その代わり、人から頼まれるとめちゃくちゃやりたいんです。「やりたい」の形には色々なパターンがあって、自分が率先して思考して実行する人だけでなく、頼まれたらやりたくなる人、チームでやると決まったらやりたくなる人、誰かのためにならやりたいという人、困っている人を助けたい人など、いろんな人がいるし、それでいい。

そういういろんな人の「やりたい」を引き出すには、それぞれの人の「得意」に気づかなければなりません。「得意」はどちらかというと、自分で気づくことよりも周りの人が気づくことが多いですよね。だから、役割分担の意識が希薄な分、一人一人がお互いに何が得意かを意識的に見て、「プレゼン資料を作らせたらNO.1だよね」などと本人にも伝えています。

「好き」は変わることがあるけれど、「得意」ってほぼ変わらないんです。僕は「得意」こそがレゾンデートルだと思っているので、スタッフを見る時にもその人の「得意」しか見ていません。だからできそうだなと思ったことはやってもらうし、みんながお互いの得意を意識的に見ていると思いますね。そうすると、「ちょっといい?」とその人を呼んだだけで、仕事が始められる。ただスタッフごとに「得意」をタグ付けして公開すると、それだけで業務を依頼することになりかねません。コミュニケーションしながらやってほしいので、タグ付けはしないようにしています。

秋吉 なるほど。スマイルズのなかでは、「やりたい」のパターンではどんな割合なんですか?

遠山 いろいろな人がいます。何かやりたいことがあってゴリゴリやっていきたい人は実際はあまり多くはないですね。もうちょっといてもいいと思うんだけど。 

言い出しっぺの想いをどう引き継ぐか

秋吉 今、スマイルズでは事業を複数手がけていますよね。それは社内企業みたいな形で、やりたいと手を挙げた人がいて、作られているんですか?

遠山 そうなんです。言い出しっぺがいることは非常に大事です。言い出しっぺがいないとなかなか続けられないんですよね。利益は出ているけれど、「このあと、どうするんだっけ?」と落ち着いて考えたら、ただの仕事になってしまったことに気づく、みたいな。

野崎 最初に作った人たちには想いがあったのかもしれないですが、仕事として受け渡していく中で、熱量が小さくなっていくことも多いんですよね。今、長く残っている事業は遠山さんが手がけたものが一番多いですが、出自よりも、最初に作る時にどれだけ想いを込めているかが大事だと思うんです。その点、遠山さんのものは、想いに強度がある。単純に残したい、いいブランドだと思うことが多いです。それは、遠山さんがちゃんと真面目に考えて事業に奥行きがあるからなんですよね。

秋吉 Soup Stock Tokyoの時には非常に解像度の高い、細かいところまできっちり構築された伝説の企画書がありましたよね。他の事業もそんなふうに考えられていたということなのでしょうか?

遠山 例えばネクタイ専門店「giraffe」は、実はSoup Stock Tokyoの前に考えていて、Soup Stock Tokyoができてから満を持して着手したんです。そこには、サラリーマンへのアンチテーゼがあり、“サラリーマン一揆”が裏コンセプトになっているので、けっこう根が深いです。でもgiraffeを初めてしばらくしたら女性がプレゼントで買うシーンが多かったので、婦人服などの売り場に出店していました。ドレッシーな女性向けのアイテムも作りはじめ、売り上げの半分がレディース商品だったということに気づきました。そのときに当初のコンセプトに立ち返り、「あれ、giraffeはサラリーマン一揆だった」と思い直して、レディース商品を売るのをやめたんです。

事業が立ち上がった時の、ドロっとしたよくわからないものまで残しておくと、ちゃんと初心に帰れて事業も残るんですよね。やはり、言葉って5%くらいしか想いを伝えられないと思うので、残り95%をどう言語化するか、95%をどう共有するかが大事。その意味で、自分でも意味がわからないような言葉でも、残しておくといいですよ。

秋吉 儲けだけを考えたらできない不合理な判断も、さまざまな言葉があると振り返ることができて、ぶれずに判断できるのですね。しぶとく根差す事業を作るためには重要なことだと感じました。

事業、企業を残るものにするために、目標を低くする

野崎 僕は意外と実務派なんです。だから先ほどの残る事業のためにすることに関しては、遠山さんとちょっと違う方法も考えています。僕は利益確定させておくことを重要視しているんです。スマイルズは去年も今年も上期でその期の年間売上予算達成を確定させています。こういうふうにするのは、数字のことをそんなに考えたくないからです。確定させておけば、みんながやりたいこと、情報発信ややってみたい仕事に挑戦できます。だから僕は目標をうんと低くしているんです。

例えば、VUILDが来期、売上利益3倍を目指すと言ってしまったら、今までやってきた一番成功確率の高いものを、3倍お金をかけてやりたくなりますよね。それではVUILDらしい可能性は開けません。広告を打つしかなくなって、最終的には他の人も同じことができるようなものに寄っていってしまうかも。すると、優位性がどんどん下がってしまう。そして売上利益3倍を達成したら、また翌年はもっときつくなってしまいます。

だから110%という目標にする。そして、さっさと目標を達成して次の事業や企業のためになることに取り組むんです。失敗したっていいですしね。その失敗は後々使える資産になります。これをやると、本当に来期が楽になる。今年のために今年のことをするのって、けっこうリスクだなと思うんです。

秋吉 VUILDの株主は成長性を求めてくるわけではないですが、一応今までは50%成長くらいを目標にしています。通常、スタートアップは200%、300%成長を求められますが、50%成長でも悩ましいところはあると感じるんですよね。でも、振り返ってみると、前半は頑張って、そこから去年と横並びでどこまで行けるか試すような方法だと、もしかしたらもっとVUILDらしいことができたかもしれない。遠山さん、株主としてどうですか?(笑)

遠山 野崎戦略、すごくいいと思います。量よりも質を高めていくことですよね。今後、AIやロボットがますます進化すると、人間は暇潰しか表現しかすることがなくなると言われています。また、大きな産業はなくなって、全部プロジェクト化したり、個人化していくと言われているこの時代に、VUILDの一人ひとりの創造性を後押しするような仕事は、大きな価値を持ってくると思いますよ。

秋吉 今日改めて、自分たちらしさを失わずに事業推進していきたいと思いました。本日はどうもありがとうございました。

OPEN VUILD#22開催決定!

次のテーマは、「ビジョンを現実にする方法」。ゲストには、株式会社メルカリ・取締役会長の小泉文明さんをお招きします。
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