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業界の常識を無視したら、ビジネスの世界に飛び込んで初の成果がつかめた~戦力外Jリーガー社長の道のり10

2004年、サッカー選手である自分を手放した私が、ビジネスの世界で最初につかんだチャンスと手応えは、インターネット販売という、当時のリユース業界の常識から外れたものでした。

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インターネット通販の波とリユース業界の常識

私がリユース業界に飛び込んだ当時、商品を売るのは店内での対面販売が当たり前でした。2000年に日本で本のネット通販を始めたAmazonが徐々に取扱商品を増やし、楽天市場は多くの人にとって身近なものになっていたあの頃、「インターネット通販で物を買う」ことは、もはや珍しいことではなくなっていました。そういえば、楽天がプロ野球に参入し、東北楽天イーグルスを設立したのもちょうど2004年のことでした。

主にリユースの家電を扱っていた私たちは、こうしたネット通販の波とはまったく別のところで昔ながらのビジネスをしていました。
近隣にチラシを配り、電話がかかってくるのを待ちつつ、店先で商品を売る。不用品買い取りの依頼の電話があれば、そこに出向いて買い取る。
買い取ってきた商品は状態からしてもそれこそ“一点物”ですから、きれいに掃除し、整備したとしても、一台一台微妙にコンディションが違います。

「買う側としては、コンディションを直に目で見て買うのがいいに決まっている」

リユース業界では、誰もがそれを信じて疑わなかったのです。

新参者だからできた常識破り

私は、商品を直接手に取ることなく品物を購入するインターネット通販の波が、いずれリユース業界にも必ずやってくると思っていました。

プロサッカー選手経由でスタートが遅く、業界の新参者である自分は他人と同じことやっていてもダメだという思いが強かった私は、今の会社で誰もやっていないことをいち早くやりたいと思っていました。業界の常識に染まっていなかったことも功を奏したのかもしれません。

「リユース家電をインターネットで売る」という挑戦を静かに始めました。
静かにというのは、まだ海の物とも山の物ともわからない新規事業に、会社も大きな投資をしてくれるはずはありません。父や兄たちが「素人考えだ」とシャットアウトすることなく、挑戦させてくれたことには感謝しかありませんが、まずは自分のできることから始めようと心に決めたのです。

ヤフオクのアカウントを作り、自分で写真撮影をして始めた新規事業

最初にやったことは、当時急激にユーザーを増やしていたYahoo!オークションにアカウントを開設することでした。

自前でECサイトを作るのは難しい。でも自分でも利用したことのあるYahoo!オークションであれば、初期投資なしでリユース家電を売るショップが開設できる。

かかるコストは私の人件費だけですから、会社にとってもリスクは低い挑戦です。

最初の商品を出品するときは不安もありました。買い取ってきたばかりの商品をメンテナンスし、自分で写真を撮って出品する。まずは見てもらえるのか? 入札してもらえるのか? 緊張してパソコンのモニタを見つめていましたが、出品からほとんど間を置かずに入札者が現れ、入札価格はどんどん上がっていったのです。

初めての成功と思わぬ収穫

「リユース品でもインターネットで売れる」
ぼんやりした直感が確信に変わった瞬間でした。

この新規事業は、思わぬ効果を生みました。

当時、商品がいくらで売れたのかのデータをかなり注意して見て、いろいろな分析をしていたのですが、実店舗で売るよりも4000〜5000円高く売れる傾向にあったのです。

オークション形式なので、ほしい人が増えれば価格が上がるのは当たり前なのですが、近隣地域の限られた人に向けてだけでなく、全国の人をお客さんにしたことで、マーケットが広がった効果でした。
インターネットオークションでは、個人間の売買が主だったところに、リユース業を営んでいる店の出品するものだという安心感も価格の上昇につながりました。

「売れる」と決めて、未来がそうなるようにする

思いのほかうまくいったインターネット進出ですが、実は漠然とやってみたというわけではありませんでした。

この事業を始めるに当たって私が決めたのは、「リユース家電はインターネットで売れる」ということでした。何度も書いているように、業界の常識では「リユース家電のような特殊な商品は目で見て触って店舗で買うもの」でした。

ただ私は、自分の直感に従って、「インターネットで売れる」ことを先に決めて、それがどうしたら実現できるかを必死に考えたのです。

自分一人で始める新規事業でしたが、私は始めるに当たって周囲に「インターネットでリユース商品は売れる」と言い切り、あえてインターネット販売部門を設立して取り組み始めました。

前述の通り、リスクはほとんどありませんでしたが、「売れる」と決めたからにはもうやるしかありません。私の中での根拠はもちろんありましたが、周囲に宣言することで、未来を決めてそのために手を尽くすモードに入っていったのです。

ビジネスの楽しさに気付いたmustからwantへの変化

この成功体験から、私のビジネスに対する姿勢にも少しずつ変化が現れます。

それまでは、スタートが遅かった分勉強しなければいけない成長をしなければいけないというマインドで努力をしていましたが、一つの成果を出したことで自信が持て、またこの感覚を得たいと思うようになりました。

勉強しなければいけないではなく、もっと勉強したい! いろんなことを知りたい! もっともっと成長したい! という思いが溢れてきたのです。
それまで、must(しなければならない)と思っていたことが、want(したい)というワクワクに変わっていったことで、私はビジネスの楽しさを知ることになるのです。

その後、Yahoo!オークションは全盛期を迎え、2008年には出品商品2000万件超という日本最大のネットオークションになりました。

しかし、私はちょうどその頃、Yahoo!オークションからの撤退を決めます。
先行者利益を追い風に、飛ぶように売れていた商品もYahoo!オークションの隆盛とともに競合が増え、需要過多になってしまっていったのです。

周囲からは、これまでの実績で勝負できる、売り上げが上がっているのにもったいないという声がありましたが、現在に通じる経営哲学であり、私の生き方自体にも通じる「撤退する勇気」がここでも発揮されたのでした。

続く

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