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ボールに触れている時間は3分以下。ビジネスに共通する「オフザボール」の重要性

崖っぷちの戦いが続くサッカー日本代表ですが、12日のオーストラリア戦は久しぶりに心が動かされる試合でした。私も現地で観戦していたのですが、持ち前のスピードで再三チャンスを演出した伊東純也選手のプレー、先制点を挙げた田中碧選手などに日本代表のポジティブな変化を感じました。

今日は、私なりに感じているサッカーとビジネスの関連性、共通点の話をしようと思います。

日本代表の痺れる戦いで思い出したことが

今回のW杯予選は決して順調とはいえず、オーストラリア戦に勝利してなお厳しい戦いが続いています。そのことがサポーターに「W杯出場が当たり前ではない」ということを改めて認識させてくれたり、メンバーが固定化され気味だった日本代表に変化をもたらしてくれている面もあります。

後半25分、あわやPKか? というプレーがVARによってFKに変更されたにもかかわらずそのFKを直接決められてしまったときは、スタジアムにもイヤな空気が流れましたが、その後に勝ち越し、勝利できたことは監督も含めて日本代表チームが「勝つしかない」とこれまでこだわっていた何かを手放せた瞬間だったようにも見えました。

日本代表といえば、サッカー選手にとって憧れの存在です。私もサッカーをプレーしているからには「いつかたどり着きたい目標」として常に気にかけていました。

ガンバ大阪入団後は、試合出場もままならない現状に「これは自分には遠い世界だな」と、日本代表に入るという夢がなかなかかなわないものだと身を持って知ることになりますが、それでも日本を代表する選手たちがどんなプレーをしているのか? 自分との差はどこにあるのか? という視点で毎試合欠かさず見ていました。もしかしたらあの数年が一番日本代表の試合を熱心に見ていたかもしれません。

中でもよくチェックしていたのが、選手がボールを持ってないときの”オフザボール”といわれる動きです。テレビ中継はボールを中心に画面が切り替わるため限界がありますが、ボールに触っていないときに選手たちがどんなポジションを取って、どんな動きをしているのか、身体の向きや姿勢、視線などを意識的に観察するようにしていました。

どんな優れた選手でもボールに触っている時間は3分以下という事実

サッカーの試合で一人の選手がボールを保持して主体的にプレーできる時間は、多い選手でも3分以下だといいます。サッカーをプレーしたことがある人なら「なるほどそんなものか」と思うかもしれませんが、数字にしてしまうとかなり短く感じますよね。

どんなに優れた選手、メッシやクリスチアーノ・ロナウドのように試合を決定づけるプレーをする選手でも、ボールに触っていられる時間はわずか3分に満たない。ということは、それ以外の時間でどんなプレーをするのかが差につながるというわけです。

オンザボールのプレータイムの短さの具体的な時間は、現役を引退してから聞いたのですが、もっと早く聞いておけばよかったなと後悔していることの一つです。

振り返ってみれば、自分自身が現役のプロサッカー選手だった頃は、3分に満たないボールを持っている時間にしか注目していませんでした。日本代表選手と自分の違いを見るときには意識していたオフザボールの動きも、いざ自分がピッチに入ると「ボールを持ってどうするか?」にフォーカスしてしまい、大半を占めるボールを持っていないときの動き方の方が重要だということにまでは気が付いていなかったように思います。

ビジネスでも「ボールに触っていない時間」で差がつく

「サッカー選手がボールに触っている時間は3分以下」という話がなぜ私の印象に強く残っているかといえば、それはサッカーをやめてリユース業界でビジネスの道に進んだ現在にもまったく同じことがいえるからです。

例えばブランド品の鑑定、買い取りの接客のシーン。

買い取りの場合の接客時間、つまりお客さまとの商談の時間は平均すると20分から25分の間です。

25分のうち、買い取り価格を提示させていただくクロージングの時間は最後の5分ほど。お客さまの目的は「より高く、納得感のある価格で売りたい」という点にあるので、クロージングの値付けが一番重要だと考えがちですが、実はその前の20分が買い取りの成否、お客さまの満足感の大部分を占めているのです。

バリュエンスでは、コンシェルジュと呼んでいる鑑定士は25分の接客時間の中で実際にどんなことをしているのか?

もちろん人によって異なりますが、自己紹介から名刺をお渡しして、お客さまにお持ちいただいた商品を鑑定させていただく流れは変わりません。

みなさんの感覚だと、この“鑑定”で価格が決まり、その間の鑑定士は商品しか見ていないイメージがあるかもしれませんが、実はクロージングまでの20分に満たない時間こそがお客さまの意思決定を大きく左右します。

「お客さまが首をかしげる瞬間を減らす」小さな信用を積み重ねることの重要性

まず、大切なのはいうまでもなく「信用」です。
例えば『なんぼや』では、20代前半のコンシェルジュが、数百万の時計を扱うことも珍しくありません。高級時計を売りに来るお客さまの年齢層からすると、コンシェルジュは若く、頼りなく映ることもあると思います。
コンシェルジュにとっては、そのスタート地点からいかに加点を積み重ねられるかが重要です。

私がコンシェルジュをやっていたときに心がけていたのは、お客さまが首をかしげる瞬間をいかに減らすか? ということでした。

そのために、商談中は絶対に席を立たない、お客さまの前から姿を消さないというルールを自分に課していました。商談中に席を立つ理由は、「上司に確認にいく」「調べ物にいく」などが考えられます。前者は自分に決定権がないといっているようなものですし、後者は勉強不足をさらすようなものです。

当時はいまと違って商談テーブルにつき一台パソコンがあるような時代ではありませんでしたから、商品知識や相場、鑑定ポイントなどを頭に入れておかなければいけませんでした。席を離れずにクロージングまで持っていくためには、どんなお客さまが、どんな商品を持ってやってくるかを事前に想像しながら勉強に励む必要があったのです。努力のかいあって私の成約率、粗利率が徐々に上がっていきました。

サッカーでは、ピッチでプレーする以外の時間のことをオフザピッチといって、この時間の使い方もサッカーの上達に大きく影響するといわれるようになりましたが、この頃の私はまさにオフザピッチの時間をオンザピッチのために有効活用し、必要な努力を重ねていたのです。

お客さまの「今日持ち帰りたい成果」を引き出す

信用と並んで重要な要素は、お客さまの納得感を引き出すことです。
その商品との出会い、なぜ手放すことにしたのか? お客さまにとってどんな商品なのか? 値付けに関係ないように思えるかもしれませんが、このプロセスが買い取り価格の決定にも、お客さまの意思決定にも大きな影響を与えます。

不要になったから売りにくる人、事情があってやむなく売りにくる人、お客さまが商品を手放す理由はさまざまです。

そうした話を聞きながら、今日お客さまが得たい成果を引き出していく。コンシェルジュができることは、それを聞くことだけです。

これもまたサッカーにあてはめると、サッカーの試合では一般的にボールを保持している時間が長い方が試合を支配しているといわれています。ボールポゼッションという言葉を聞いたことがある人も多いでしょう。

私は商談では、これがまったく逆になると思っています。ボールは常にお客さまにあって、コンシェルジュは聞き役に徹する。
トークポゼッションが高ければ高いほど結果が出ないのが私たちの世界なのです。

勉強した商品知識を振りかざしたり、マニュアルにしたがって型どおりの接客コメントをまくし立てたりするのはもってのほか。20分で信頼を勝ち取るためには、商品の受け取り方、触り方、ルーペで見るときの所作などすべての行動に気を遣いつつも、お客さまの今日持ち帰りたい満足を引き出すことに集中すべきなのです。

「そうはいっても少しでも高い価格で買い取ってほしいのが人情でしょう?」
そう思う方もいるかもしれません。しかし、それはあくまでも基本中の基本で、同業者ならばどこでもやっていることです。お客さまの持ち帰りたいものがキャッシュだけととらえてしまい、価格だけで競ったら間違いなく限界が来ますし、そのコンシェルジュも店舗も陳腐化していくでしょう。

クロージングの5分のために大切なのは、20分の「価格提示」以外の小さな信用の積み重ねと、お客さまの「本当に得たい成果」を引き出す傾聴力が、そしてその20分のためには、膨大な“接客していない時間”の使い方が、それぞれ大きく関係しているのです。

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