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#22 アマゾン vs Netflix & Disney & HBO

最近、アマゾンは、ジェームズ・ボンドやロッキーなどのタイトルを持つ映画スタジオ、MGMを買収することに合意しました。今回は、なぜアマゾンがMGMを買収するのか、そしてメディア業界にとってどのような意味があるのかについて話してみたいと思います。

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バンドル戦略
今回の買収の目的は、既存アマゾンプライム会員の満足度を高めて解約を減らし、より多くのプライム会員を獲得することです。簡単に言えば、プライム会員としてできることが多くなれば、より多くの人が入会し、既存ユーザーも継続してくれるということです。バンドル戦略により、アマゾンプライムは、音楽から、ビデオ、写真のクラウドサービスなどまで、多くの特典を追加し続けてきました。2021年6月、プライム特典のウェブサイトによると、その数は現在30以上に登ります。

電子商取引の分野では、WalmartからShopifyまで他の競合企業の存在感が増していますが、アマゾンは、自分たちのコアビジネスのためのより強い競合優位性(moat)を作るために、様々なサービスを束ねています。これはテクノロジー企業にとって新しいことではありません。例えば、グーグルも同様の戦略をとっており、Gmailやグーグルマップなどのサービスをコアの検索ビジネスのために提供しています。

テレコム会社の教訓
テレコム会社も過去、同様の戦略を試みました。2018年、AT&Tは1,000億ドルもの巨額を投じてTime Warnerを買収し(WarnerMediaとブランド名を変更)、契約者数の増加に繋がるシナジーを期待しました。しかし、買収が発表されてからわずか3年しか経っていない今年の5月、AT&TはWarnerMediaをDiscoveryと統合させると発表しました。これによりAT&Tは総額430億ドルの売却額を得ることになります。つまり、この買収は失敗したのです。

Verizonも、同じ目的でYahooやAOLなどのメディア事業を買収しましたが、この買収もうまくいきませんでした。一方、T-Mobileは、メディア企業の買収に無駄なお金を使わずに、競争力のある価格戦略で加入者数を増やしてきました。

アマゾンのケース
アマゾンにとって今回の買収は、Whole Foodsに次ぐ大きさではありますが、会社への負担は小さいはずです。2017年にアマゾンがWhole Foodsを137億ドルで買収したとき、同社の売上高は177億ドル、純利益は3億ドルでした。一方、アマゾンの2020年の売上高は386億ドルで、純利益は21億ドルです。なので、今や84.5億ドルは同社にとってあまりアグレッシブとは感じられないはずです。また、MGMは赤字会社でもありません。ブルームバーグによると、昨年の売上高は3%減った15億ドルでしたが、EBIDTAは48%増の約3億700万ドルでした。

さらに、メディアはアマゾンが経験したことがないものでもありません。同社は前からメディアビジネスを展開しており、昨年だけでもストリーミングビデオや音楽サービスのコンテンツに11億ドルを投資しています。同社が生み出そうとしているシナジーは、自社のメディアコンテンツの在庫を増やし、コンテンツの制作能力を高めるという、よりシンプルで達成可能なものです。

未知数
今回の買収によって、アマゾンが本当に大ヒット作品を生み出すことができるかどうかには、未知数です。現在、すべてのストリーミング・サービス・プロバイダーがブロックバスター・タイトルを保有しています。Netflixは「Stranger Things」や「Queen's Gambit」など多くの成功したタイトルを持っていて、さらに成功したタイトルを作るために積極的に資金を投入しています。ディズニーは、「スター・ウォーズ」や「アベンジャーズ」などの強力なフランチャイズを誇っていて、近年はDisney+でストリーミング・サービスにかなり力を入れています。また、同社は傘下にはESPNも持っています。160億ドルの評価額をもつWarnerMediaとDiscoveryの合併会社は、HBOの「ゲーム・オブ・スローンズ」(HBOはWarnerMediaの子会社)やDiscoveryの数多くのリアリティ番組に加えて、さらに多くのコンテンツを作ることに注力するでしょう。

一方、アマゾンのプライムビデオには強力なタイトルがありません。今はようやく、MGMの作品がいくつかあります。今後は、コンテンツの制作能力の向上により、ヒット作品を追加できるかどうかが注目されると思います。そうでなければ、コモディティ化した他のコンテンツは、Amazonプライムの特典の一部として提供されるだけになるでしょう。

もうひとつの未知数は、ユーザー生成コンテンツ(UGC)です。特に若い世代は、TikTokやYouTubeをメインのメディアとしています。さらに重要なのは、UGCの質が向上していることです。質が高くないものでも、プロのスタジオが制作した番組と同等の面白さを持つコンテンツが多くなってきています。Netflixとディズニーは、前四半期に加入者数の伸びが鈍化し、投資家の信頼を失いました。これが一過性の現象なのか、そうではないのかを見極めることが、今後の長期的トレンドを理解する上で重要なヒントになると思います。

バタフライ効果
但し、アマゾンにとってこれら未知数の影響はかなり小さいと言えるでしょう。前述したように、今回のMGMの買収はアマゾンに財政的に大きな影響を与えないだろうし、最悪の場合でも、MGMのコンテンツをアマゾン・プライムの特典の一部として活用することはできます。

それより重要なことは、ストリーミング・サービスを専業としているNetflixやディズニー、HBOといった会社に大きなプレッシャーを与えるということです。アマゾンがMGMの買収で大きな成功を収めなかったとしても、アマゾンにとっては大きな問題になりません。ただし、すでにUGCのコンテンツに影響され始めているストリーミング・サービス会社にとっては、死活問題になるかもしれません。

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References
・About Amazon Prime Insider & Prime Membership Benefits - https://www.amazon.com/primeinsider/about?ref=primenav_benefits
・Distribution and Demand - https://stratechery.com/2021/distribution-and-demand/
・Amazon Buys MGM, The Streaming Opportunity, Anti-Monopoly vs. Antitrust - https://stratechery.com/2021/amazon-buys-mgm-the-streaming-opportunity-anti-monopoly-vs-antitrust/
・US Wireless Market to Add 100 Million Subscribers by 2020 says Strategy Analytics - https://www.lightreading.com/4g3gwifi/us-wireless-snapshot-subscribers-market-share-and-q3-estimates/d/d-id/764688
・Amazon Agrees to Buy MGM Film Studio for $8.45 Billion - https://www.bloomberg.com/news/articles/2021-05-26/amazon-agrees-to-buy-mgm-film-studio-for-8-45-billion
・AMAZON COM INC, 10-K filed on 2/2/2018 - https://d18rn0p25nwr6d.cloudfront.net/CIK-0001018724/d0badb11-7a8d-4190-be33-080f5cc13d59.html#
・AMAZON COM INC, 10-K filed on 2/3/2021 - https://d18rn0p25nwr6d.cloudfront.net/CIK-0001018724/5a60b19f-08ef-4231-ad6a-f4810eb38769.html#
・Disney revenue falls short as Disney+ subscriber growth slows - https://nypost.com/2021/05/13/disney-revenue-falls-short-as-disney-subscriber-growth-slows/

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