#48 より高い投資リターンに必要なもの:情報アービトラージ
あらゆる投資活動において、情報アービトラージは成功の鍵となる。つまり、他の人が知らないことを知り、その情報を知っている人の数が少なければ少ないほど、利益を上げるチャンスが増えるということだ。
マイケル・バリーはその好例である。彼は、「アメリカの住宅市場は下がる」という情報を最初に見つけた人物として知られている(自分のリサーチを通じて)。彼は市場に逆らって賭け、大きな利益を得た。
この法則は、ベンチャー投資でも例外ではない。スタートアップのような非公開企業は情報開示義務がなく、それら会社の情報へのアクセスは、公開市場の会社よりはるかに難しい。そのため、売上といった基本的な情報を知っているだけでも、ベンチャー投資においては強い情報アービトラージを持つことができる。もしあなたが、スタートアップXがスタートアップYより多くの売上を持っていることを知っている唯一の人であれば、それ以外の条件はすべて同じと仮定すれば、あなたがスタートアップXに投資をして儲かる可能性も高くなる。
情報にアクセスする最もオーソドックスな方法は、「ネットワーキング」である。ベンチャー投資家はスタートアップやVC業界にネットワークを持っていて、お互いに定期的にランチや飲み会、コーヒーチャットをしながら情報を交換する。これは今までも最も強力な方法であり、「ネットワーキング」がベンチャー投資において最も重要な要素の一つとして考えられてきている理由である。
しかし最近、情報アクセスへの新しい方法が次から次へと登場してきている。こちらの記事「#34 テック企業化するベンチャーキャピタル」でも紹介した通り、データの活用がベンチャー投資の強力なツールになりつつある。言い換えれば、データを通じて、誰も知らない情報を見つけるということになる。例えば、データドリブンなベンチャーキャピタルとして有名なTribe Capitalは、売上、チャーン、LTVなどの企業の経営データを分析し、スタートアップ企業が他と比べてどれだけうまくいっているかを調べる。彼らは独自のアルゴリズムを用いてこれを行なっていて、当然その情報は彼らしか知らない。今彼らはトップレベルの投資リターンをあげている。
もうひとつの方法は、できるだけ早い段階で、多くのスタートアップに少額出資を行い、情報収集を行う方法である。これの最も有名な事例の一つはHustle Fundだろう。彼らは、多くの場合サービスがまだ出来上がる前の、数百の初期段階のスタートアップに少額(200-500万円程度)を出資する。その後、それら出資先からうまく行っている会社を選別し大きな金額の出資を行う戦略を持つ。彼らは投資家としてその数百の出資先の情報を持っていて、他の人よりも早く勝者を見つけることができるのである。大枠としては少額(1,300万円程度)を出資してその中から選別してさらに出資を行うYCとも似ていると言える。
他の間接的な方法として、大手のベンチャーキャピタルファンドが自分より小さいマイクロ・ナノファンド(10−30億円)に出資をする方法も一般化してきている。このようなマイクロ・ナノファンドは誰よりも初期段階のスタートアップに出資をするので、大手ベンチャーキャピタルファンドは彼らを通じて、間接的にどのスタートアップが伸びているかが分かる。この現象については「#44 ベンチャーエコシステムの新しい食物連鎖」でより詳しく取り上げている。
Hustle Fundやマイクロ・ナノファンドへの投資など、従来とは異なる方法がどんどんと出てきるのは、ネットワーキングだけでは十分な情報アービトラージを作ることが難しくなってきているからとも言える。また、ベンチャーキャピタル自体がより一般的な投資アセットとして受け入れらるにつれて、情報自体がコモディティー化してきているのも理由であろう。私が書いているこのような記事もコモディティー化を後押ししていると言える。
なので、これからもっとクリエイティブな方法がどんどんと出てくると思う。実際、ここには書けない他の例もある。今後、より斬新な方法で情報アービトラージを作っていくファンドに出会うことがとても楽しみである。
References:
・Elizabeth Yin:
Think Seed Like Hustle Fund - https://mercury.com/blog/series-tea/elizabeth-yin