見出し画像

#34 テック企業化するベンチャーキャピタル

ベンチャー投資の競争が激化する中、ベンチャーキャピタルたちは投資家としての競争力を維持するためにさまざまな方法を考え出しています。皮肉なことに、彼らはあらゆる産業を破壊する最先端技術に投資している人たちですが、ベンチャーキャピタル業界自体はまだまだイノベーションが足りないとされてました。ついに最近彼らもイノベーティブなアプローチを導入しているのですが、その中で彼ら自身の競争優位性を高めるために、データに基づいた色々なアプローチを積極的に取り入れています。

theLetterでニュースレターを購読  &  ポッドキャストで聞く

最も有名な例の一つは、2011年にChamath Palihapitiyaが設立したSocial Capitalと言えるでしょう。Social Capitalは、CaaS(Capital as a Service)と呼ばれるセルフサービス型のソフトウェアプラットフォームを開発しています。スタートアップ創業者が必要なデータをアップロードすると、Social Capitalは最大50万ドル(約5千万円)を出資するか、意思決定の結果に関わらず定量的な分析結果をスタートアップ創業者にフィードバックします。SignalFireもデータに大きく依存するファンドです。Beaconと呼ばれる彼ら独自システムは、学術論文、特許、オープンソースコード、規制当局への申請、企業のホームページ、販売データ、AppStoreのランキング、ソーシャルネットワーク、さらにはクレジットカードの利用データなど、1,000万ものデータソースを利用して、600万以上の企業のパフォーマンスをリアルタイムでモニタリングしています。

また、元ソーシャルキャピタルのメンバーたちが設立したTribe Capitalや、多数のスタートアップ企業に少額の投資を行うCorrelation Capitalも注目のデータドリブンファンドです。さらに大事なごとは彼らのようにもデータ分析をコアな競争優位性とするファンドは増えてきているとのことです。

テキサス州オースティンにあるEnsemble VCは、投資家のスタートアップ創業者に対する無意識的なバイアスを取り除くために、これまでとは異なるデータ分析のアプローチを採用しています。例えば、一般的に、スタートアップ企業の創業者は自分の事業に関連する業界での経験が重要だと考えられています。しかし、データを見ると、ユニコーンのスタートアップ企業の創業者のうち、同じ業界で働いた経験があるのは40%に過ぎません。Ensembleはこのようなバイアスをデータ分析によって取り除きます。

今まで述べたデータ分析そのものをコアな競争優位性とするファンドに加えて、そうじゃない「普通の」ベンチャーファンドにおいてもデータドリブンなアプローチは一般化してきています。Y Combinatorの社内CRMであるBookfaceを構築したGarry Tanが設立したInitialized Capitalは驚くこともなく、独自のカスタムCRMツールを構築しています。NFXやHustle Fundでは、Social CapitalのCaaSのように、スタートアップ創業者が自社のデータをアップロードし、そのデータに基づいて定量的な評価を行うことができるシステムを構築しています。また、GV(旧Google Ventures)もデータ分析を多用しているようです。

将来、データドリブンなアプローチは全てのベンチャーキャピタルに取って必須なものとなり、どの程度データに依存するか、どのようにデータを利用するかだけが唯一の違いになるでしょう。そのような世界では、より質の高いデータをできるだけ多く持つ投資家が競争力を保つようになります。

しかし、スタートアップ創業者がアップロードするデータのみに依存してしまうと、段々と質の高い多くのデータを集めるには限界が生じるでしょう。そのため、クリエーティブな方法を工夫する必要があり、すでに斬新なやり方を取り入れているファンドもあります。例えば、NFXは、投資家と創業者のマッチングプラットフォームである「Signal」という無料ツールを提供しています。創業者や投資家が必要なデータを提供すると、マッチする投資家またはスタートアップ企業を紹介してくれます。また、別のファンドでは、NotionやBrexのような、スタートアップが多用するサービスの割引情報を提供するツールを無料で展開しています。スタートアップ創業者がいくつかの情報を提供すると、彼らが現在使っているサービスに基づいて、他のサービスの割引情報を提供します。これは、スタートアップ自ら自分たちの情報を提供する強いインセンティブになります。このツールやNFXのSignalのようなプロダクトが増えていけば、ベンチャーキャピタル自身がテクノロジー企業になっていくかもしれません。

人々がテスラを運転するたびに、大量のデータがテスラ社のデータセンターに流れ込んでいきます。データ収集のために別の方法を考える必要はありません。テスラは車を売れば売るほど、どんどんデータが集まり、より良い製品を作ることもできます。テスラのようなデータ収集サイクルが作れるベンチャーキャピタルが今後業界の首位のポジションに着くことは想像し難くありません。

theLetterでニュースレターを購読  &  ポッドキャストで聞く

References:
・Capital-as-a-Service: A New Operating System for Early Stage Investing - https://medium.com/social-capital/capital-as-a-service-a-new-operating-system-for-early-stage-investing-6d001416c0df 
・Data-Driven VCs: How 83 Venture Capital Firms Use Data, AI & Proprietary Software to Drive Alpha Returns - https://medium.com/hackernoon/winning-by-eating-their-own-dogs-food-83-venture-capital-firms-using-data-ai-proprietary-da92b81b85ef
・What does the data say about the likelihood a Founder will succeed? - https://www.ensemble.vc/research/what-does-the-data-say-about-successful-startup-founders
・Data-Driven VCs: Who Is Using AI To Be A Better (And Smarter) Investor - https://www.forbes.com/sites/cognitiveworld/2019/05/02/data-driven-vcs-who-is-using-ai-to-be-a-better-and-smarter-investor/?sh=7f837ab31d34

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?