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最大の基準は「当時の記憶」昭和特撮写真をデジタルで蘇らせる!

「『ライオン丸』『タイガーセブン』『ザボーガー』昭和特撮フィルムを後世に残したい!」クラウドファンディングの成功によりデジタル化した画像を、将来に渡って活用できるようにするため、私たちは画像のレタッチ(修復)に取り掛かることになりました。

そこで相談を持ち掛けたのが、「平成ガメラ」シリーズの4K HDRリマスター制作などに携わられた、株式会社IMAGICAエンタテインメントメディアサービスのアーカイブコーディネーター (当時)土方崇弘さんでした。

普段は「映画」という動きのある画像のお仕事をされているため、今回は「静止画」というイレギュラーな対応をしていただきました。

そんな土方さんに、本企画ならではの苦労や、特撮に対する想いをお聞きしました!


―土方さんは普段、どのようなお仕事をされているのでしょうか?

土方崇弘さん(以下:土方) 私は株式会社IMAGICAエンターテインメントメディアサービスという会社に所属しておりまして、先日まで所属していたアーカイブ関連の部署で「コーディネーター」という仕事をしてきました。

主に映像作品のデジタルリマスターを制作して、フィルム作品やビデオ作品を現在の視聴フォーマットに最適化したり「マイグレーション」と呼ばれる旧式のメディアを最新の汎用性の高い動画ファイルに変換するような技術をご提供していたのですが、私はその予算やスケジュールの調整、様々な条件の中でどのように進めるのかという道筋を作る役割です。その過程で、作品権利元の方や、監督やカメラマンとコミュニケーションを取りながら、良いものを作っていくということをしていました。

―主にどのような作品のリマスターに携わって来られましたか?

土方 年間10~20本ほどをやっていましたが、特撮関連ではKADOKAWAさんの「平成ガメラ」シリーズ3作品の4K HDR化や、「大魔神」「妖怪」シリーズ、「戦国自衛隊」なども担当させていただきました。
また、林海象監督のデビュー作『夢みるように眠りたい』のリマスター資金を調達するクラウドファンディングの運営などもやっておりました。

―お聞きすると特撮系に携わられることが多いような気がするのですが、偶然なのでしょうか?

土方 必然になったらいいなと思うんですけど(笑)。私がそもそも映像に興味を持ったきっかけは、幼いころ出逢った特撮のメイキング本などがきっかけでして、作品のバックグラウンドでの話、空間や物語を構築していく様々な発想や工夫に惹かれました。仕事をしていても、特に好きなジャンルであれば自然と興味が湧きますし、コミュニケーションを取るにしても深くいろいろお話できるので、色々とご縁が重なったのだと思います。

株式会社IMAGICAエンタテインメントメディアサービスの土方崇弘さん

―私たちが立ち上げた「昭和特撮フィルムを後世に残したい!」というクラウドファンディングの企画について、最初にどのような印象を受けましたか?

土方 包み隠さず言ってしまうと、ピープロ作品というのは本当に「知る人ぞ知る」というか、特撮に親しんでいる人の中でもよりコアな人たちが知っていたり、或いは当時観ていた人たちが時折懐かしく楽しんでいるものという印象がありました。まずその作品群をテーマとして、しかも(本編の)映像ではなくて、当時の雑誌の特写スチールを対象にするというのは、すごく新鮮で驚きました。いち特撮ファンとして興奮したんですけど、一方で「通なところを選んだな」っていう(笑)。だから自分にはなかなか真似できないけど、逆にピンポイントだからこそ大きな熱量を感じ、とても面白いなと感じました。

―写真や映画のフィルムをデジタル化すると、そのデータはそのまま使えるものなのでしょうか?

土方 デジタル化は「第一段階」ですね。単なるデジタル化だけであれば、機材や予算があれば出来るので、実はそんなにハードルが高くないです。
それを「いかに活用していくか」というところが本当に大変なことで、今のご質問の答えとしては、そのまま使えるかというとほぼ「No」です。
デジタル化してそのままでは厳しいというか、極端に言えば本来の価値を下げてしまう可能性もあります。たとえば、傷つき色あせた状態のままのデジタルデータを見せて、今の時代に見た人に「古臭い」というネガティブな印象を与えてしまうと、せっかくの素材の価値が半減してしまいます。

―そういったことを避けるために、どのような作業を行うのでしょうか?

土方 広い意味での「デジタル化」であれば、スマホのカメラで撮るだけでもデジタル化といえますが、私たちはプロフェッショナルな立場として品質を担保するため、様々な作業を行います。
まず、デジタル化するフィルムを物理的にクリーニングし、付着している汚れを除去します。スキャンをする際にも、ピントや色の基準を正しく合わせ、可能な限り多い情報量をデジタルデータに変換します。
そしてデジタル画像になった後にも、物理的に取り切れなかった汚れをデジタル上で除去したり、色の補正を行います。その後、デジタル上で修復できたものを、最終的に使用用途に合わせた最適なデータにエンコードする、というまでの流れがあります。

―今回ご協力いただいたピープロ作品のフィルムの状態はいかがでしたか?

土方 私は技術者ではないのであくまでコーディネーターとしての目線ですが、今回のピープロ作品のフィルムは、歪みや極端な変形などはほとんどなく、大変綺麗な状態だったと思います。
裏を返せば、あまり使われていないというか、撮影して雑誌用に使われて、そのままの状態がずっと保たれていたんだろうなという気がしました。使用頻度は少なかったと思いますが、やはり時間が経過しているので、カビや部分変色、ホコリがくっついて取れなくなってしまっているとか、褪色が起きているものもありました。
ですが経験上、ピンからキリまでいろいろな素材を見てきた立場でいうと、マテリアルとしては綺麗に残っていた部類に入ると思います。

―ホコリやキズをデジタル上で除去するというのは、どのような作業なのでしょうか?

土方 普段携わっている映画の作業で説明しますと、古い映画をご覧になっていると画面上に細かい点がパラパラと映っていることがありますよね。そのような状態を修正するために、映画の場合は基本的には1秒間に24コマの画像があるので、前後のコマの同じところを複製して上書きします。

ところが今回の作業は写真だったので、時間軸による「前後のコマ」がないんですよね。その場合は、一枚の中から周辺の綺麗な箇所をコピーするという、絵を描くような作業に近くなります。それもできるだけ最小単位で、ピクセル単位で点の数だけ補完していく。オリジナルの部分はできる限り残す方針です。さらにその方法だとあまりに情報が足りないときは、せめて元の画像の色に近付けます。例えば青空に黒い点があるとしたら、黒いところを青くするみたいなことで印象を軽減したりもします。

フィルムに付着したカビやホコリはデジタル画像にも映り込んでしまう。これらをデジタル上で除去し、修復を行う。

―色の補正については、技術的にはどのようにでも調整できるのでしょうか?

土方 そうですね。今は色々な方法があります。

―では、どんな色が正しいのかという「正解」を見つけるのが大変だと思うのですが、今回はどのようなことを基準に作業されましたか?

土方 まず、全体の露出を整え、細かなディティールが見えるように調整をしていきます。その上で色なのですが、ある程度は推測できるんですよね。例えば自然の中にある色って、空は青いとか葉っぱは緑だとか、光の中心は白いし、影は黒い。それぞれバリエーションはあるにしても一定程度の正解はありますので、そういうところで探っていきます。

経年劣化によって褪色してしまった画像(左)に対して当時の色を再現する調整を行う。

―今回はキャラクターの色があるという点で一般作品とは違ったと思いますが、そういった難しさはありましたか?

土方 例えば(快傑)ライオン丸のコスチュームの赤は朱色なのか、或いは紫がかった赤なのか。そういうところのさじ加減はやっぱり難しかったです。現物を見ていないので、「これが合っているのか」「この先はどう調整するのが正解なんだろう」というのは迷いました。

―キャラクターの色について参考にされた資料などはありましたか?

土方 まずは映像作品です。ピープロは全ての作品が気軽に観られるかというと、なかなかそうではない作品もありますが、手に入る限りは配信やDVDで確認しました。
さらに雑誌ですね。ピープロ関連の本は秋田書店さんをはじめ各社から出ていて、そこに載っているスチール写真もあります。古い雑誌であっても図書館の書庫から探してきたりながら、参考にしてきました。
そして、極めつけは「証言」でした。こういった作業で何より説得力があるのは当時の方々のお話です。

当時のピープロの現場に関わっていた方々に直接コンタクトするのはなかなか難しかったのですが、たまたま原口智生さん(ミニチュアプロップ修復師・認定NPO法人アニメ特撮アーカイブ機構発起人)にお会いできるタイミングでこの作業をしている最中だったので修復途中のものを見ていただく機会がありました。さすがは原口さんで、過去に様々な作品の撮影やお手伝いで写真に写っている場所に行かれたことが多く、しっかりと記憶されていて、「ここは聖蹟桜ヶ丘のあそこだね」とか「こっちは千葉だね」「これは仙川だね」みたいなことがすぐにわかるんですよね。
例えば『電人ザボーガー』の「この写真のロケ地の土は赤いのが正解」「灰色ではなくて関東ローム層の赤土だよ」とか、「ここに生えている木とか草はもうちょっと深緑な感じのことが多いよ」とか、そういう現場を知る立場からの意見をたくさんいただけたので、それを取り入れていった感じです。
基本的にはその部分だけをマスキングして調整するのではなくて、全体のバランスを整えていくので土の色が赤くなるためにはこういうバランスだろう、と操作していけば、自然とキャラクターの色も正解に近づいていくみたいなことができました。

【冒険王クラウドファンディング】原口智生さんによるフィルム調査 01

バリュープラス アーカイヴ プロジェクト YouTubeより

土方 よくあるのが、綺麗にしすぎてしまうというか、現代の感覚に寄せすぎちゃって、当時の人から言わせると「こんなんじゃなかったな」とか「これはやりすぎだよね」みたいなことがあると、レタッチの良くない面が出てしまいます。今回は資料性も高く、特に当時の人の印象に近くしたかったので、原口さんの証言はとても参考になりました。
また、かなり褪色の進んだ『快傑ライオン丸』の写真で、スキャン画像を見ると手袋が白っぽくも見えるものがあり、これはどうなんだろうと思って一度赤くしてみたんです。そうしたら(特撮ライターの)馬場裕也さんから指摘があって、「『快傑』は3話ぐらいまで白い手袋なんですけど4話から赤くなるんです」という話をされて、慌てて白に戻したこともありました。やはりそうした知識も必要になりますね。

―色を決めるにあたり、一番大切にされたのはどのようなことでしょうか?

土方 例えば応援隊長の関智一さんもそうですけど、思い入れのある方々に届けるものじゃないですか。ですので、その人たちの持っているイメージを損なわないようにというのが大前提です。そうしたときに、その人たちと作品の接点で一番多かったものを気にしてまして、だからこそ書籍や資料集に載っている場面写真をリファレンス(参照資料)にしようと決めたんです。なぜなら、ファンの方々の作品の印象の多くを形づくっているのが、きっとそれだろうと。当時テレビで観て興奮して、本を買ってもらって、その後に本を見ている時間の方が長かったかもしれないですから。
ピープロ作品はファンの方々が何度も再放送や録画で観ることができたというとそうじゃないと思うので、今回のプロジェクトはなおさら、書籍のイメージをいうのを損なわないようにというのが一番でした。

―樋口真嗣監督にお話を伺った時も、「当時は映像だけではなく雑誌からの情報を浴びていた」とおっしゃっていました。

雑誌も作品の一部だった──「冒険王」と樋口真嗣【連載第一回】

バリュープラス アーカイヴ プロジェクト noteより

―そして完成した画像が「ピープロアーカイブストア」で商品として皆さんのお手元に届くということについては、どのようにお感じになりますか?

土方
 もともとが雑誌用の写真で、6×6判という大判のフィルムですので、やはり情報量がとてつもないです。作品本編の16mmフィルムと比べても解像度の面で格段に違いますし、ポスターなどに大きく印刷しても全然遜色ないクオリティになります。
今回のグッズ化で額装したり、キャンバスに印刷されたものがありますが、そのような大きさでもとても細かいところまで見えると思いますので、目を凝らして隅々まで見ていただきたいです。きっと当時のキャラクター造形の工夫が分かったり、アクターの方々の息遣いさえも伝わってくるように思います。
そしてこれは特撮ファンとしてですけど、やっぱりいずれもアイコニックなキャラクターというか、とても魅力的なヒーローたちなので、身の回りのちょっとした小物とか、日常にいっぱい溢れてほしい。僕たちのすぐ近くにピープロのヒーローがいるっていうのが理想だと思いますね。

―本日はありがとうございました!


土方崇弘(ひじかたたかひろ)
IMAGICAエンタテインメントメディアサービスにて、7年にわたりアーカイブコーディネート作業を担当。特撮作品以外には「殺しの烙印」(日活株式会社)「犬神家の一族」(株式会社KADOKAWA)「銀河英雄伝説」(株式会社 徳間書店)などの4K修復やパッケージソフト制作のコーディネートを担当。また、22年、23年には文化庁助成による特撮アーカイブ(森ビル株式会社/ATAC)にも技術協力として参加。現在は同社・事業推進部所属。


【ピープロアーカイブストア】
https://valuemall.site/collections/p-proarchivestore
販売期間:2024年4月6日(土)12:00 ~ 2024年5月31日(金)23:59 

【Imaging Mall(R)】
https://imagingmall.com/vp_archive
販売期間:2024年4月6日(土)12:00 ~ 2024年7月7日(日)23:59
  ※Imaging Mall(R)は、DNP大日本印刷の登録商標です。

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