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さらさら

先日採血された後,しばらく経っても血が止まっていなくて
再圧迫の措置をとってもらった。

再圧迫してもらいながら,
「血液さらさらのお薬とかは飲んでない?」
その日2回目の確認を受けた。

幸いその再圧迫で血は止まったのだけれど,
ふと気になったことがある。


採血されるときに,
「血液さらさらのお薬など飲んでいますか?」
確認された経験がある人は多いのではないだろうか。

推察するに,

採血後に血が止まりにくい体質の人や
抗凝固薬や抗血栓薬などの薬を服用中の方には,
採血後に血が止まるように配慮しなくてはならない。


上記のような理由から,
医療従事者から受診者に対してなされる質問だろう。


ここで疑問。

海外の医療ドラマをかなり観てきたが,
このようなセリフには出会った記憶がない。

なぜ海外ドラマの翻訳されたセリフでも,
このようなフレーズが出て来ないのか。

そして医療者はなぜわざわざ,
極めて口語的な表現を用いて受診者に対して質問をするのか。


おそらくこの問いに対する答えとして
ひとつ考えられることは,

‘’さらさら‘’という言葉に対する
共通理解(認識)が日本語社会において
ごくごく一般的に普及していることにあるだろう。

さら‐さら
[1] 〘副〙 (多く「と」を伴って用いる)
① 物が軽く触れあってたてる音などを表わす語。また、風や雨、雪、波などの音、水の浅く流れる音、物の煮え立つ音、茶づけを食べる音などを表わす語。
② 物事がすみやかに進むさま、物事がつかえないで、よどみなく行なわれるさまを表わす語。すらすら。
③ さっぱりとしたさま、いやみのないさまを表わす語。
④ 物にしめり気やねばり気がなく、さっぱりしているさま、かわいていて、べとべとしていないさまを表わす語。
[2] 〘形動〙 しめり気やねばり気がなくさっぱりしているさま。                                                                        ー用例省略ー
※引用:コトバンク(出典元:精選版日本国語大辞典)
https://kotobank.jp/word/%E3%81%95%E3%82%89%E3%81%95%E3%82%89-512264

この問いの中での意味合いは②。
日本語社会においては,‘’さらさら‘’という言葉一つで
淀みなく流れる,というイメージを
一瞬で共有することができるのである。

薬の名前を1つ1つ確認するのは膨大な労力だろうし,
飲んでいる薬品名はジェネリックか否かで,
薬品名称が変わってしまうことも多々ある。
「コウギョウコヤクなどの薬を服用中ですか?」という
質問の仕方は同音異義語の多い日本語においては,
あまり親切ではない質問の表現と言える。



ここで“さらさら“の出番。
この言葉のちからが最大限生きてくる。

‘’さらさら‘’という言葉ひとつで,
情報を得たい側と情報を持っている側で,
うまく情報がやりとりできるという訳である。

そのような薬を処方される際にも,
医師から「血液さらさらのお薬出しておきますね〜」と
説明されることが比較的多いのではないだろうか。


さてここで試してみてほしい。


‘’さらさら‘’という言葉以外で,
血液‘’さらさら‘’という状態を説明してみて。


…………どうですか?
うまく出来ましたか?


表現しようとすると,
結構長い説明が必要になってしまうでしょ?

仮に説明がうまく出来たとしても,
時に緊迫した医療現場で聞き取りを行うのには,
向いていないように思う。

「血液さらさらのお薬飲んでますか?」は,
口語的だけど極めて合理的な問い方なのだろう。

大学時代に教授から,
医療現場でしばしば方言が話題になると聞いたことがある。

痛みの感じ方をより正確に実感的に伝えるために,
話者が普段は使っていることば(≒方言)で,
表現してもらうのだ。

痛みとその出力方法(表現の仕方)に対する距離を
最短にさせる,と言った方が伝わるかな?

例えばお腹が痛いときに,

チクチク痛いのか,
ドンと重いものが載ったように痛いのか,

微妙な痛みの違いが大切だったりするらしい。


次のような研究もなされている。

『医療現場で利用できる方言データベースの開発』
http://harp.lib.hiroshima-u.ac.jp/kure-nct/detail/836220110228044559
『医療現場における方言の活用』
https://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/detail.php?koara_id=0302-0000-0643

文系の学問は役に立たない などという意見もあるようですが,
人間がひとりでは生きられないのと同様に,
たった1つの要素で成り立つ学問なんて
滅多にないのでは?


…といつかの文系学生は思うのです。


※医療については専門外です。
薬や医療行為に関すること,痛みについては専門家へ。

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