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歳を重ねるということ

「その言い方はずるくない?」
と思わずつっこみたくなるくらいにぎこちなくて,
こちらの言葉を引っ張り出すような告白。

それは数十年に一度のスーパームーンの浮かぶ晩秋の出来事。

まだ恋がはじまって間もないなんとも言い難い甘酸っぱさに満ちた空気とか
踏み込んだ話なんてとてもできない遠慮しがちな距離感とか

月はその始まりの夜を一瞬にして脳裏に浮かべさせる象徴モノになった。


時が経ち,別れを選んだ。
自分で自分に折り合いをつけるようにおわらせた。
悲しくてたまらないとか何も手につかないほどではないけれど,
どこか沈みやすくなっている自分がいた。

ある春の帰り道,友だちと自転車を押しながら話をしていると,
朧月がふと視界に入った。


月を見ると,あの人をなんとなく思い出してしまうんだよね,
どうにかならないな。
月なんて自分で意識して遠ざけるには難しい自然の事物だから,
これから先の人生,月をみる度にそのことを思い出すのだろうな,と
漠然と考えてしまって沈む~と。

半分冗談で半分本音で。
小さく笑いつつ友だちにぼやいてみたら,


「“あるものを見て何かを思い出す”
そういうことが増えていくってのが歳をとることなんじゃないん?
そういう物事を積み重ねていくのが生きるってことなんじゃないん?
歳をとったときに視界に入るもののひとつひとつに
思い出せることがあるなんて素敵やん。」

友だちがかけてくれた言葉は,不思議なくらいストンと腑に落ちた。


苦い記憶さえも否定せずに
いつか遠い日々で慈しむことができたらいいな,と
そっと"仕舞う"ことができるようになった気がする。


歳を重ねるのも案外悪くないのかもしれない,と

思考を未来に向かわせてくれた彼女のことば。


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