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わかり合えぬ父娘

まぁ俺はそーいう父とはどうにか自分の中で
折り合いをつけて親子やっとる訳ですよ。

“どうにか”っていう感じなのでねー、俺は。
“どうにもならん”のが俺の姉です。

俺には姉が二人居て、父が宗教の教えを
振りかざして家庭をかき回す体たらくで、
離婚した母はもちろんの事、姉二人揃って
父親が大嫌いなんスよ。

俺はこうして父の一挙手一投足を面白がり、

上の姉は孫の顔を初めて見せる気はとうに失せ、

中でも顕著に父を嫌うのが下の姉(以下、下姉)。
だけど“どうにかしよう”とした姉のお話。

・シンパシー

ウチの下姉は幼少期からTVっ子で、割と最近は
「突然ですけど占ってもいいですか?」
っていうTV番組が好きで毎回観ていた。

名うての占い師さんが出演して、視聴者の悩みを
直に聞いて解決する方向に導く…

簡単に言えばこういう内容。

2〜3年前だったか、ある日のオンエアで確か、

「父が昔から大嫌いだけど、そろそろ過去を
精算して前に進みたい、けどどうしたらいいか
本当にわからなくて…」

という30代女性の依頼があった。
それに対して、

「直接会わなくてもいいです、電話でもいいから
言いたいことは全てぶちまけてしまいなさい、
それから関係を良くしていくといいですよ」

と、こんな感じの内容を告げて、その女性が
洗いざらいぶつけると、過去から残るしこりが
消えて、父に会ってドライブまで出来て、
関係が修復したので感謝していますという
結果になったようだ。

「雨降って地固まる」というやつだろうか。

それを観ていた姉としては、その女性とほとんど
年齢も変わらず、ほぼ同じ境遇にあっているため
シンパシーを感じ、一念発起して自分もそれに
挑んでみると母と俺に宣言した。

・戦闘準備

下姉は、上の姉(以下、上姉)と俺と違って、
きょうだいの中で父に対して恐らく最もこころの
距離があり、しかも気分屋で引っ込み思案なところがある故に、家族は自ずとこれを強く応援する
姿勢になった。しまっていこうぜ。

さて、具体的にどうしよう。
本当に長い間、会うことはもちろん、電話すら
言わずもがなしていない。まぁここはひとつ、
SMSに想いを託すことにした。

LINEも知らなければメールアドレスも知らない。
唯一、一応残してあった電話番号に長文を
したためることに決めた。
こちらからその電話番号に直接かければいいのでは
ないかと思うかも知れないが、兎角デリケートな
関係性なので母と俺はその選択に口を挟まず、
下姉の取りたい手段を尊重して見守った。

2日程度考えてようやくSMSの文面が仕上がり、
下姉は母と俺に直接見せて意見を求めた。

これがなかなかの迫力というか。
理路整然と彼女なりに伝えたい内容を込めて
文章を展開しているが、そこここに散見する、
フリック入力という名のパンチを
SMSという名のサンドバッグに叩き込んでいる
感じもあった。気合いが入ってるな、
ファイティングスピリットに溢れてるなって。
断じて、物理的に殴り合う訳ではないけどね。

“あの時のアレは何やったん?何も意味なかった”
“あんな事をさせられたけど何の時間やったん?”
“まだ自分が一番偉いなんて思わんといて”
“反省文なんか書かせてどういうつもりやったん?”
“◯◯は今でも本当に意味が分からん。説明して。”

よく覚えてはいないけど、こういった感じのことを
電話で言わない代わり文面にガンガン詰め込んだ。
言いたいことを全てと言っていい程詰め込み、
多少長い一通になったが吐き出すだけ吐き出した。
だけど彼女は、罵詈雑言の言いたい放題なんか
じゃなくきちんと言いたい事、また、ここから
聞き出したいことを納得したく書き、それから
SMSに叩き込んだ先のことを見ている。
父と娘が、侃侃諤諤と意見をたたかわせた
先にある家族同士の未来を見据えている。
「雨降って地固まる」だ。

かんかん-がくがく【侃侃諤諤】
ひるまず述べて盛んに議論をするさま。 議論の盛んなことの形容。 また、はばかることなく直言するさま。 ▽「侃侃」は強くまっすぐなさま。

goo辞書

仕上がった長文を推敲し、父へ遂に思いの丈を
込めた魂のSMSを送りつけた。
1stラウンドのゴングが鳴った。がんばれ!

・送信ののち…

下姉が、父への積年の本音を込めた渾身のメールを
送信して数日。返事は来ない。

三人揃って、どうしたんだろうかと頭を捻った。
色んな憶測が飛び交った。

「突然のメールにどう返せばいいか分からない」
「重く受け止め、返信の内容を練っているところ」
「教祖さんに相談したら“返さなくていい”
と言われた」
「痛いところを突かれ、返信のしようがない」
「読んだが無視、自身の一存でとにかく放置」

等々、考えられる可能性を話し合った。

まぁとにかく待とう、待つしかないという
結論に至った。父の性格からいって、更に
なかなか腫れ物にさわるような問題故に、
「読んだならメール返してよ」やら、
「どう思ってるの!?」など追撃のメールを
送らない方がいいのは火を見るより明らか。

父の気持ちになって考えるならば。
家族として重く扱うべき問題だ、自分自身が、
今日に至るまで我が娘を傷付けてしまっていると思うのなら。真摯に向き合おうと試みるなら。
父親である自分自身を顧み真摯にこれに向き合い、娘に対して反論を示すか、謝罪を示すかは別
として、取ってつけたようにササッと返信して
しまうのは、親子間における道理や礼儀にもとる
行為なのですぐに折り返すのは控えている。

…が、彼自身の現在の想いだろうと俺なりに考えた。

・またそののち

来ないのだ。待てど暮らせど。返信のメールが。
来る気配さえも感じられなくなってしまった。
1年前後が過ぎ、もはや返信が来ないもののように思うことにした我々。もういいか、そういう変な
人だし、もうどうでもいい、と。

その様にして日常が過ぎ、下姉の送ったSMSに
関して言及する事なく、俺には時々もしくは
頻繁にといったペースでLINEを寄越す。

だが去年の7月に来たLINEがこう来た。

と、あった。
字を塗りつぶしてある部分には〇〇、〇〇と、
上姉と下姉の名前を入力してある。
どうせ、今季のサマージャンボを買うと
大当たりするかも知れないぞという報せだ。

しかしこれを見た時、とろりとした怒りが俺の中に
一滴したたり落ち波紋が静かに出来るのを感じた。

この宗教狂いのクソ親父め。

名指しで俺の姉に何かものを頼むなら
先にメールを返してからにしろ。


…百歩譲って、何かしろだの、心がけろだのといった
内容のLINEを俺に送るのはいい。
もう既に俺にとっては日常的なことだ。俺にはな。
最初こそ、かなり困惑していたがもう慣れっこで
歯牙にもかけない。

だけど他の家族においてそれは看過できない。

父が気持ちを知ってか知らずか、俺とは違い、
きょうだいの中で最も父とこころの距離のある
下姉が歩み寄り、よく考え、勇気をもって送ったとうかがい知れるメールを無視、それに応えることもなしに何事も無かったかのようにそのような
しょうもない頼み事を俺を通じて伝えようと
するとは腹立たしい事この上ない。

この馬鹿に何か言ってやらねばならぬ。
しかし俺は、下姉が父にメールを送ったことを
知らない体でいる。だが一矢報いなければ。

「うるせぇ!下姉にメールを返してから言え!」
などと言えば、まず“利喜弥が加担してる問題”も
重なりそれも解決する必要がある。
俺が加担しようがこれはあくまで下姉と父の
問題だ。横槍を入れるような言い方では駄目。

差し当たり、冷静に考えて、こう返してみた。

「うん、とりあえず伝えたけど、下姉が
そんな事よりメールを返してほしいって
言ってたよ?何かよく知らないけど。」

と。

なかなか悪くないジャブなのでは。

LINEがしばらくして返ってきた。
但し、一部しか読めなかった。
通知が来たら最初の書き出しの部分だけ
Androidでは読めるようになってて
(iPhoneはよく分からないけど)、
そこだけしか読めず、後で既読を付けてゆっくり
見ようとしたらすぐにメッセージの送信を
取り消していた。故に返信されたLINEの全貌は
読めなかったが、確実に

親に食ってかかるとは何事だ!


……って書いてあった。

まさかの逆ギレ。絵に描いた様な。

逆ギレが過ぎるだろ。何言ってんだ。

雰囲気からいって、以下は長文でずらずらと
逆ギレのオンパレードになっていたと思う。
その後すぐに送信を取り消して読めなくしたのは、
利喜弥に怒りをぶつけるのはお門違い、やらと
色々思うところがあって反省し読ませるのを
避けたのだろう。
だけど、全て読めなかったにせよ、唯一読み取れた最初の“親に食ってかかるとは何事だ”の一文だけで
スタンスが手に取るように分かった。

その後、また下姉のことに一切言及せず、
最近のように要らんYouTube動画のURLを
送ってきたり果てには替え歌を作って
歌詞を読んでもらおうとする始末。

お前はもっとやるべき事があるだろ。
替え歌なんか作ってんじゃねーよ。

早く下姉の質問に答えてやれ。
返事はまだかよ。


・あのさ

…もう、どこからツッコめばいいか分からないくらい
呆れたね。こちらがキレたいくらい。

まず、下姉はあなたに食ってかかるつもりはない。
きつい筆致のメールだったかも知れないが、
真っ向から受けとめ、その奥にある本質を見抜き、
徹底して相手の気持ちになり言葉を選んで
返答をしてあげるのが親としては正しいのでは
なかろうか。

この記事には書いてないけど、父に会ったこの日、
俺が「もし、上姉と下姉に会ったらどうする?」と
訊いた時、胸を張って「何でも言うてほしい、
いつでも言うてきたらええ、何にでも答える」と、
穏やかな口調で答えたのは何だったんだ。

いざ突かれるとビビって吠えまくるワンちゃん
じゃねーか。父の威厳ってなんだ。わんわん。
ドライヤーで鼻乾かすぞ。

何の深い事情もなく、ただただ文句を言いたい為
だけに十数年振りに連絡なんてしない。
まず何故そんな事を言ってきたのかを疑え。
オメーは大の読書家だろ。
読解力を発揮するのは今なんじゃないのか。

あと、食ってかかってはいけないのか。
食ってかかるような言い方だったかも知れない。
だけど、三十路を超えて自分で物事を客観的に
みる様になった今、ひとりの人間として親に
父が昔とった行動や言動の諸々の真意は何ぞや、
嫌だったけど、せめて謝らなくてもいいから
真意を説明してほしいと問うているだけなのに、
あまつさえメールの返信を催促しただけなのに
(これは俺が勝手にしたけど)、逆上するなんて
アンタの思考回路どうなってんだ。

食ってかかってないんだ。
昔、育ててくれた頃、養ってくれた頃は
いささか懐疑的になりつつ、それでもある程度
言われた事が正しいのだろうと思って
親の言うことを守って行動に移したものだ。

けど、父が宗教や持ち前の封建的な思想を
振りかざして、父に対して畏怖の様なものを覚える子どもが3人育ってしまったのは事実。
今こそ、頭の中を整理して、確かめたいだけだ。

既にもういい歳になった子が、小さい頃に受けた
教育やしつけについて親に訊く権利はあると思う。
反対に、親が子に何故あんな事こんな事をしたか等、訊かれたら正直に答える義務があると思う。
別に食べたくないのに、学校に行く前に朝食を何故食べないといけないのかって訊かれたらちゃんと
答えるだろ。それとあまり変わらない気がする。
家族だから訊きたいんだよ。
家族が家族のことを訊いて何が悪いんだよ。

俺の姉が、三十数年の人生の中で恐らく最も強く
父に向かい合おうとしたアクションには、
けんもほろろにシカトを決め込み、いざそれを
突付かれると親に食ってかかるとは何事だ、と、
俺に食ってかかり、最終的に感情からくる主張を
表明するその逆ギレを内包したメールを姉に
送りさえもしない体たらくだ。
何でもいいから返してやれよ!何でもいいから!

家族の中で一番引っ込み思案な姉が、喧嘩する
つもりでドカンと性根を据えて構えてるんだ。
親ならきっちり向き合え。自分が納得する育て方を
してきたのであればそんなの簡単だろ?

自分が我が子にしてきた事に後ろめたさが多少なり
あるからそんな態度を取ってるんじゃないか?
もしくは宗教に則って我が子を育てたつもりが、
その我が子にそれを否定されたもんだから
テンパってそんな言葉になっちゃったのか?
“親の心子知らず”?知りたくもねぇや。

まぁ、ベクトルは少し違うにしてもこの記事でも
似たようなことがあった事を記している。

これも読んでもらえたら分かると思うけど、
俺の父は、そういう奴だ。

一日でも早く返信してやれよ。
“親に食ってかかるとは何事だ”だと?
俺に言わせりゃ、子を無視するとは何事だ?
何の説明責任も子に果たさずのうのうと126歳まで
生きたいか?しょうもない126年だな。

あと、ずーっと29歳を自称してる
お前もう今年70歳だろ

まぁ、宗教をやってる人は無敵だ。
我が子が自分に対して大きな心残りがあっても
気にしないのだ。今は多分もうそんなのがあった事すら忘れている。どうせ経典読んだりお題目を
唱えたりすれば、何もかも忘れた平常心の
いっちょ上がり。都合よく出来てる。

我が子から逃げたシャバいじじいとして
老いさらばえるなんて、俺なら嫌かな。
全てを話して、それから3日そこそこで
死ぬ方がいい。俺はまだ死にたくないけど。

長生きしてくれや。長生きしていいけど、
その時はヘルパーさんには食ってかかるなよ。

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