アトピーの人でも安心して使えて、ワクワクできるような化粧品ブランドを作りたい。

私は生まれてからずっとアトピーと一緒に生活をしています。
症状は身体中にありますが、特に手の湿疹がひどい。
年がら年中あかぎれがあったし、生まれてこのかた、手汗は一度もかいたことがありません。常にカサカサ。
小さいころから、友達に「なんでそんなにカサカサしてるの?」と何気なく言われることも多かったです。
そして、そんな何気ない一言を投げかけられるたび、とても辛かったことも鮮明に覚えています。
小学生の子供たちって、いわゆる「ふつう」とはちょっと違う人たちに対して、何かと敏感です。
当時、私はどうしても、アトピーのことをみんなに触れられたくなかった。
可愛そうなんて絶対に思われたくなかったし、一方で気持ち悪いと思われて、いじめられるのも怖かった。
だから、どんなに症状がひどくても、表情や態度に出さないようにしていました。
「当たり前に、みんなと同じような生活を送りたい」と、人一倍強く思うようになったのも、おそらくこの頃からです。


中学、高校へ上がると、少し気持ちが大人びていって、小学生の頃よりも身なりに気を使うようになりました。
私が学生だったときは、ちょうど、シーブリーズやギャッツビーが流行りだした頃。
もちろん、私も使っていました。肌のことは、当然心配です。
普段使っていないようなものを急に肌に塗って、大丈夫だろうか?
つねに気がかりでした。正直使うのが怖かった。だけどそれでもみんなと同じでいたかった。
仲の良い友達が使っていたものをマネして、お店で買って、使っていました。
そんなある日、これまでなんの症状も出なかった部分に、皮膚疾患が出ました。
理由がわからず、当時は相当焦りました。
「なんで?え?ここはアトピーじゃなかったのに」
そのときに周りのみんなと同じものを使うのは諦めないといけないのかもしれないと思いました。
それからは「敏感肌用」という記載のあるものや、同じような症状を抱えている人たちの口コミを見て、商品を選ぶ毎日。
だけど色々調べてみて、やっと商品を買っても、それでも肌に合わないことも少なくないのです。
「アトピー」と一括りに言っても、人によって症状も、重さも、症状がある場所も、全然違います。しかも、日によっても違う。
だんだん、新しい化粧品を試すことが怖くなりました。

今も、ドラックストアで良さそうな商品を見つけても、当時の恐怖を結構クリアに思い出して、結局買うのをやめます。
「どうして私にぴったりな商品ってないんだろう。」
これが私の今の根っこにある大きな課題であり、不満であり、活動の原動力です。


大学卒業後、私はかねてより希望していた大手日用品メーカーに就職しました。より多くのお客様に商品を使ってもらい、喜んでもらうために、研究、工場、営業、スタッフ。
様々な部署のみなさんが、1人でも多くの人に商品を使ってもらえるように、喜んでもらえるように、毎日商品に向き合って下さっている、そんな会社です。
私はそんな会社を誇りに思っています。
メーカーのお仕事の中には、商品開発の仕事があります。
どんな人に商品を売っていくのか、どんな悩みを解決したいのか、どんなコンセプトの商品にするのか。
そのようなことを考えて、新しい商品を作ります。
そのときに、何よりも重要なこと。
それは、「ターゲットとなる人数が、どれくらい存在しているのか?」。
ターゲットになる人数が多いほうが商品は売れる可能性が高いし、人数が少なければ商品は売れない可能性が高い。
もちろんそれ以外にも色々な要素はありますが、商品開発をする上で、ターゲットの人数は非常に重要な要素です。
だから明確なニーズがあると分かっていても、ターゲットが少なければその商品は作れないというケースが往々にしてあります。


日本における成人アトピー患者の割合は、2~5%と言われています。
大手メーカーが商品を売るための規模としては、とても小さな数字。ターゲットの数は少ないと認識されます。


私のように、アトピーで辛い思いをしている人たちがいるのは分かってる。
でも、大きな売上に繋がらない。大きな売上に繋がらないから、アトピーと戦う人のための商品はつくれないのです。企画すらもできない。
そういう背景があって、今の世の中には、アトピー患者向けにつくられた化粧品というものが少ないのです。
(もちろん、法律の面で「アトピー用」と記載できないという事情もありますが)
私はいち社員の立場から、そういった会社の事情を目の当たりにしていました。
マス向けではない市場には参入しないという判断は、経営判断としてあたりまえだと思います、理屈はわかる。
だけど100%納得することはできなかった。


自分はアトピーの当事者だ。
それでいて、メーカーに勤めてもいる。
だからこそ、この違和感を放置して仕事をし続けるのはどうしても納得いかない。何か自分だからこそアトピーと戦うあなたのために、できることがあるのではないか、そう思いながら業務に取り組んでいた。

そんな折、社内で新規事業コンペが開催されるという情報を耳にしました。
瞬間的に、「僕がやるべきなのは、まずはこれだな」と感じたのを覚えています。
つくりたいのは・・


「アトピーの人でも安心して使えて、ワクワクできるような化粧品ブランド」

最終選考までに、3ヶ月間の準備期間が用意されましたが、応募を決めた当初から、やりたいことは明確でした。
私には、このチャンスをものにしたい理由がありました。

このたび、大変ありがたい機会に恵まれ、私の考えるアイデアや思いを、ひとつのブランドとしてつくっていくことになりました。
「『敏感肌用』という妥協ではなく、もっと商品選びにときめきがある社会」を実現する。

そんな思いがこもった商品をつくるために、とにかくいろんなことに奔走しています。
肌をいたわる成分選び、ワクワクするパッケージづくり。心がはなやぐ香りづくり。
経験のないことばかりですが、自分の目指すものに近づいているのかなと思うと、とても楽しいです。


アトピーの特効薬を作ることは、私にはできません。
でも、アトピーの人たちが、自分と前向きに向き合うためのきっかけなら、私にも作れる。
その延長で、アトピーがちょっとでも良くなったら、こんなに嬉しいことはありません。会社からチャンスをもらい、専門家に知識をもらい、仲間に協力してもらい...いろんな人たちの支援をいただきながら、がんばるチャンスをもらえました。
私は今、アトピーのみなさんが、少しでも自分にぴったりな商品を見つけられるような、そんな世界を目指しています。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?