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ボイトレ再開、筋肉は裏切らない

ボイトレを始めてどれくらいが経ったろう。
確か、一昨年の秋頃だったように記憶してるのだが、昨年の1月に亜急性甲状腺炎に罹り、できるだけ安静にするようにとの担当医からの指示があり、中断。
そのうちに、声が極端にかすれるようになって、話し声も出しにくくなり、ほとんど喉を閉じたままの感覚で、必要最小限のことしか話さなくなってしまった。

秋頃になって、亜急性甲状腺炎が完治せず、橋本病に移行したことを知らされたときは、もうボイトレは無理なのかな…もう歌えないのかなと、絶望的な気持ちになった。
しかし、一縷の望みをかけて新宿にある、喉専門の病院を受診。
検査をするなかで、甲状腺の病気による症状は見受けられないと言われ、長く喉を使わなかったこと、声を出すのを極力抑えてきたことでの、喉の筋肉の衰えを指摘されたのだった。

具体的には、声を出すと、どこまでその声が届くかの検査では、一般的な人の半分の距離しか届かないということ、そして、声を出すとき、どの程度息が漏れるかの検査では、人の二倍 息が漏れていることが判明した。
診察室に呼ばれ、お医者さんから指摘されたのは、声涸れの原因は甲状腺の病気ではなく、半年もの間、単に声を出すことをしてこなかったことによって、すっかり喉の筋肉が萎えてしまったことが一番の原因と言われ、とにかく声を出すこと、さらに、声を出す訓練をすることを勧められた。
そこで声を出す訓練を兼ねて、ボイトレをしてもいいかと尋ねると、大丈夫、大いにやったほうがいいですよと背中を押してもらった。

しかし、嬉々として再開したのに束の間、母の体調が悪くなり、再び中断。
数ヶ月間、ボイトレをお休みすることになった。
この間、精神的なことや、父が施設から帰ってきていたことで、心の余裕がなくなり、気づけばすっかり歌うことをやめてしまっていた。
歌いたいという気持ちが湧かない、さらに精神的なストレスから、喉の筋肉が、パタンと閉じてしまったことを感じていた。

声は本当に、心と繋がっている。
精神的なストレスを強く感じると、人によっては失語症を発症するという。
実際、罹った事例はたくさん。
私の知り合いにも、経緯は特殊だけれど、失語症になったという話を聞いたことがる。
定年退職後、ずっと家にいる夫に嫌気がさし、夫婦喧嘩をきっかけに会話をしなくなった妻は、毎日のように出かけ、友人たちとの会話を楽しんでいたそうだ。
一方、ずっと家にこもりっきりになった夫は、誰も相手をしてくれないどころか、唯一の会話の相手である、妻にも愛想をつかされ、ひとりぼっちに…
誰とも話をしない毎日が続くうちに、気がついたら声が出なくなって、失語症になっていたという。

その話を聞いた時は、本当に驚き、怖くなった。
会話をしないだけで、声が出なくなる。
言葉が出なくなるとは…
出したくないと思えば、出さないですむのが声
同時に、いざ出したいと思っても、簡単に出なくなるもの声なのだ
声帯は筋肉でできている、筋肉は使わなければ、あっという間にい萎えてしまう、痩せてしまうものなのだ。

母が逝き、父と二人の生活が始まったが、先月末、父が、猛暑対策を兼ねて、ひと月ちょっとの予定で、介護施設に入所した。
なので今は、生まれて初めてひとり暮らしになった。
毎日、父が電話をくれて(そのためにガラケーを買った)、寂しくないかと言うが、元々一人っ子で育ったせいで、逆に一人の時間がないとストレスを感じてきたので、寂しいとは思わない。
かえって自分の好きなように時間を使えるのでストレスがなく、ひとり暮らしを謳歌している。
ただ、想像していた通り、ひとりになると誰とも話す機会がない。
それでなくてもコロナ禍で、この2年半どこへも行けず、誰にも会えない状況に置かれているのに、家に自分以外に人がいないとなると、誰とも話をしないで一日が終わることが何日も続いたりする。
これはまずいと気づき、ひとりになってからは毎日意識して、声を出す生活をするようになった。

朝起きて、母の写真に向かって、おはようと挨拶をし、朝ご飯のメニューをどうするかを相談。炊飯器のスイッチを入れ、味噌汁を作りながらも母にはなしかける。
出来上がると、写真にご飯と味噌汁とおかずを供え、一緒に食べる。
片付け、洗濯、掃除などなど、仕事をしながら、いちいち独り言を言い、夕方には父からの電話で、その日、一日あったことを伝え、お休みの挨拶(大体が18時半)をして電話を切る。独り言でもなんでもいい。テレビを見て、ドラマの感想を言ったり、ニュースを見ながら文句を言ったり、もちろんボイトレの自主練も欠かさない。

何度も中断しながら、今また、トレーニングをしてみると、徐々に喉の筋肉がついてきているのがわかる。毎日続けていたら、喉の筋肉が開き始めて、また地声で歌えるようになってきた。地声で歌うのは、疲れると感じていたのが、今は楽に出るようにもなってきた。

声はトレーニングすれば、ちゃんと応えてくれる。
声が出るようになれば、好きな歌も歌えるようになる。
誰かの決まり文句じゃないけれど、筋肉は裏切らない。
それは、喉の筋肉も同じなのだ。

まだまだ自分がイメージする声には程遠いが、いつか今よりずっと楽に声が出せるように、トレーニングしようと思う。




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