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Good Old Days

タイのミュージシャンであり俳優のMewSuppasitのファンになったのは、あるドラマを観たことがきっかけだった。
ターンタイプというBLドラマで、彼は主役のターンを演じていた。ターンは大学の音楽科の学生で、バンドを組んでおり、ドラムを担当しながら歌も歌うという設定。その歌と歌声に惹かれファンになった。もし彼の歌うシーンがなければ、たぶんファンになることはなかっただろう。今でこそ、長身でhandsomeのイメージだが、最初、彼を見たときは、そんなに好きなタイプではなかった。演技は確かに、目の表情で感情表現をする、憑依型の俳優さんの印象を持ったくらい上手かったけれど。
なので、今も俳優以上に、ミュージシャンとしての彼に惹かれていることは、間違いない。

タイドラマといえばBLドラマが人気だが、BL以外にもいいドラマが色々ある。ただし、配信されていなければ観ることはできず、配信されるのを待つより他ない。

ターンタイプを観るまで、タイドラマの存在も、配信というものも(星野源さんの配信ライブを観た程度)ほとんど知らなかったこともあって、今も配信で課金して観ることはないのだけれど、偶然、マンションごと契約している通信会社でCSも観られるようになっていて、そこで大ドラマを放送していることを知り、とりあえず録画してみることにした。

1年ほど観てきて感じるのは、タイドラマは独特の人間の描き方があるということ。それはタイという国の土壌、歴史、文化に寄るところが大きいかもそれない。仏教国であり、宗教が生活と密接に関わっている。

仏教徒以外は行わないのかもしれないが、出家という慣習があり、人生のうちで1度ないし2度、出家を経験する人は多いらしい。
毎朝、托鉢に訪れるお坊さんたちに、ご飯や食べ物を施すのが、当たり前のこととして行われていたり、何か特別な日を記念して寄進するのも、そう珍しいことではないらしい。
そうした風景が、ドラマのなかにも、日常的なこととして描かれていることに、最初観たときは驚いた。日本のドラマでは、結婚式とお葬式以外は、宗教的な行事が描かれることはほぼない。

そんな文化、習慣の国の人たちは、どんな性格、気質なのだろう。きっと穏やかで、優しいのだろうなと、勝手に思い込んでいた。実際、タイに旅行した人や、タイのひとと結婚した人の話では、その通りみんな優しいよとの声を聞く。

しかし、なぜかドラマに出ていく女性たちは、ほとんどの場合、激しい気性の持ち主だ。男性を罵ったり、時には蹴ってみたり、怒り狂ったり、叫んだり、喚いたり。実際、ここまでひどいとは思わないけれど、相当な激しさは持ち合わせているのだろう。しかもそれが、ほとんどのドラマに描かれているとなると、たまたまではないんだなと思う

とにかく言い争いの場面が多い。親子げんか、兄弟げんか、恋人、隣人、ありとあらゆる人間関係でトラブったり言い争ったり。
普通なら、そんな場面ばかり見たら、いいかげん嫌になるし、言い争いを見てて何が面白いだろうと思うだろう。
しかし、それをも含め、タイドラマなのだ。

大声を出したり、叫んだり、罵り合ったり、罵倒したり、恫喝したり、批判する。時にうるさく、観ていてていて疲れることもあるけれど、とても正直だなと感じる。
人間は誰もが醜い部分、汚い部分を持っている。誰もが嘘をつき、ごまかし、過ちを犯しながら生きている。
そういうものを、タイドラマは、包み隠さず、むしろ曝け出す。日本だったら、サラッと流してしまいそうなところを、むしろテーマにさえしていく。


数日前、録画しておいたドラマを観たのだが、同様だった。
タイトルは「Good Old Days」
1話完結(前編・後編に分かれている話もある)
あらすじを簡単に紹介すると、変わった骨董品屋さんが舞台。

日本で言えば質屋さんのような役割も果たしている感じ。
そこの店主はちょっと変わった人で、クライエントが持ち込んだ品物を品定めするとき、その物の価値ではなく(相場)、必ずその品物にまつわる話をその人から聞いて、買い取るか買い取らないか、どのくらいの値段にするかを決めるのだった。

クライエントの身の上話は、親子の確執、長すぎる恋が原因のすれ違いや誤解、お金の問題などさまざま。

親子の確執の場合、中心に描かれるのは進路の問題。
好きなことをしたいのに親の世話をしないといけない女性、親の期待の重圧に押しつぶされそうになって必死に耐えている10代の女の子が悩み苦しみながらも変化していく。洋の東西を問わず、根底にあるものは同じだと感じ流けれど、そこはやはりタイ独特なものがあって、親子関係の絆の強さや学歴社会が浮き彫りになっていて、乗り越えるのは大変だ。

長すぎる恋の場合は互いの家に生じている貧富の差が底辺にあって、その壁を乗り越えるために、七年という歳月が必要という親の意見に振り回されて、いつしか本質を見失っていく経緯が描かれていた。
この話で面白いなと思ったのは、ステレオタイプの描かれ方ではなく、貧富の差にこだわって、子どもの結婚を許さないのは、貧しい方のシングルマザーだということ。豊かな生活をしている方の親は、一も二もなく結婚を許していて、すぐにでもと乗り気なのだ。そこにどういう背景があるのかが興味深かった。
七年間の間に、どういう変化が起こったかはネタバレになるので…

どの話も、登場人物は自分を曝け出す。
喜怒哀楽、いい面悪い面、嫌な部分や汚いところ、醜い部分が、これでもかと盛り込まれ描かれている。
人がもつ根源的なものをしっかりと描いていく姿勢が読み取れて、すごいなと思う。そういうところに、ついつい引き込まれてしまう。
それだけではない。その先にはいつも、和解、涙、許し、思いやり、温かいものがあるのも特徴だ、

タイにある貧富の差、軍事政権、学歴社会、マイノリティの問題は決してドラマの世界の話ではなく、現実にある問題だ。
BLにしても、同性同士の恋愛やNCシーンに萌えてるひとは多いけれど、ドラマのなかでは必ずと言っていいほど、偏見や、言われのない中傷、家族の反対や無理解に傷つき、苦しむ様子が描かれていて、単なる夢物語的になっていない。しかしそこを乗り越えて、主人公たちは自分の居場所を、自らの手で獲得していく。

すべてのひとは自由なのだと気づかせたり諭したり、そこにキャストを含め、制作陣の気概を感じる。

(もし、本国で放送されているドラマをリアルタイムで観たい場合は、VPNに接続しなれば観ることはできないので、契約が必要です。調べてみてください)
















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