話題のイマーシブ・オーディオの魅力に迫る!
TBSラジオで毎週金曜日8時30分~午後1時まで放送の「金曜ボイスログ」
シンガーソングライターの臼井ミトンがパーソナリティを務める番組です。
このnote.では番組内の人気コーナー
「臼井ミトンのミュージックログ」の内容を書き起こし。
ちなみにyoutube版では動画も公開しているのでそちらも是非。
話題のイマーシブ・オーディオの魅力に迫る!
業界では聞かない日がない〝イマーシブ・オーディオ〟という言葉
このイマーシブ・オーディオって言葉、聞いたことありますか?
音楽制作の業界に身を置いておりますと、このイマーシブ・オーディオと
いう言葉を聞かない日がない。というくらいこのところ頻繁に耳にする言葉でして、例えばどこそこの老舗のスタジオのAスタジオがイマーシブ・オーディオのミックスの対応のため改装した。とか、あのアーティストの今度の新譜はイマーシブ・オーディオでリリースするらしい、とか。
でも実際のところ一般的にこの言葉がどのくらい普及しているのか、
肌感覚が僕には正直全然わからないところがありまして。
事前にスタッフにも聞いてみたんですけど、知ってる人が誰もいなかったんですね。そうか、やっぱり全然まだ広まってないんだな~ってことで、
今日はこのイマーシブ・オーディオとは何ぞや?というお話をしていきたいと思います。
イマーシブ・オーディオの身近な例は映画館
イマーシブというのは英語で「没入感のある〜」とか「没頭出来る〜」という意味を持つ言葉で、没入感のあるオーディオってつまりどういうことか?というと、凄く身近な例でいくと、映画館です。
最近の特に新しい映画館とかIMAXの最新設備を備えるようなシネコンに行きますと、例えば飛行機が飛んでいく音が右後方上の方から左前方の下に流れていったり、左の頭上で爆発音が鳴ったりとか、そういう3Dみたいな音響
効果を体験出来ることがありませんか。イマーシブ・オーディオは、まさにこれのことです。3Dの立体音響のことを指します。
で、3Dって具体的にどういうことか?っていうと、今までもサラウンドってあったと思うんですよ。映画館でも後ろの方から音がするなんていうのは
随分前からありましたし、ホームオーディオの世界でも5.1chなんていって、5台のスピーカーでもって視聴者を360度ぐるりと取り囲んで、さらにサブウーファーが一発あって重低音が出てっていうね。
7台のスピーカーで取り囲むという方法もありますけど、いずれにせよ結局スピーカーの高さが揃っている平面上での音世界に過ぎないというか、
2Dの世界なんですね。あくまでも二次元なわけです。
その二次元の音世界に、天井にスピーカーをさらに追加することによって、高さという成分を追加する。音程の高い低いじゃないですよ、物理的な、
スピーカーの設置場所としての高さですよ。天井に複数のスピーカーを追加で設置することで、それまで2次元だったスピーカー配置に高さの成分が
加わって、音世界が3D・三次元になるわけですね。
この3D音響、イマーシブ・オーディオはまだ規格も乱立状態ですから、
昔のVHSとベータの争いみたいに、いろんな会社やオーディオメーカーが
色んな規格を出していて、そもそも全部で何台のスピーカーを使ってその3D音響を再生するのか?10本使いなさい、24本使いなさい、そのハード面で
さえ、現状規格が色々なんですね。
いずれにせよ、それだけスピーカーたくさん使うとなると、スピーカーの
位置とか数とか、あるいは部屋の形状とか広さによって再生バランスがどうしても変わってきちゃいますから、そこで、一つ一つの音の要素に対して
位置情報をメタデータとして埋め込んで、音を再生しながらリアルタイムで位置情報をレンダリングして、これは右後方5時の方角から左前方11時の方向へ秒速どんくらいのスピードで音を流すなんていうのを演算処理させて
再現するというソフトウェアシステムを併用するのが、イマーシブ・オーディオの大きな特徴です。
映画館でよく目にするDolby Atmosってのがまさにそういうシステムなんですけど、つまり、ただやたらめったらスピーカーをたくさん置くだけじゃないんです。ソフトウェアで音声の動きを制御するっていう部分がイマーシブ・オーディオのキモなんです。
で、これ何に使うかって言ったら、その使用目的を考えると真っ先に思いつくのが映画ですよね。さっき言ったように背後の上空から飛行機が飛んでいくのが感じられるとか、雨降ってるのが上から音が下りてくる、みたいな。
でもですね、実はこのイマーシブ・オーディオ、3D音響っていうのは、
音楽の世界でも非常に注目を集めているんです。
音楽の世界でも注目を集めるわけとは?
音楽にそんなん必要ある?って思うじゃないですか。前後左右から音が飛んでくる必要なくない?って思うかもしれない。でもこれって実は以前この
コラムで話したホール音響の世界に通じる話なんですけど、人間の耳って
天井・壁・床からの反響音を聴いているって話をしたじゃないですか。
だから、乱反射されれればされるほど人間の耳には豊で良い音に感じる。
なんて話をしましたけど、例えば音響の良いホールでクラシックのオーケストラを録音するときに色んな方向に向けてマイク立てておいて、色んな方向から来る反射音を収録しておく。
その音声データに位置情報を持たせて、頭上、背後、左右、たくさんの
スピーカーから鳴らせば、まるでホールの客席にいるかのような体験を味わえる、というわけなんですよ。
そういう意味で、まさに没入型「イマーシブ・オーディオ」なわけです。
何も、飛行機が飛んでいく音みたいに、バイオリンの音を右後方から前方に飛ばそうとかいう話ではなくて、スピーカーが増え、そして音の要素一つ
一つに位置情報を持たせることによって、良いホールの音響、つまり人間の耳が喜ぶ、音の乱反射をより正確に再現できる、という部分にこそ、
最大の音楽的なメリットがあるんです。
もちろんポップスとかダンスミュージックで、映画の効果音みたいに音を
積極的に動かす、飛ばすような使い方も出来ますから、いろいろな音世界を表現できる可能性を秘めている、というわけですね。
で、ここまで話して、でもそんなスピーカーを大量に使うシステムを自宅で組めるわけないでしょ?自分には全く関係ない話だなと思っている人も多いと思うんですよ。5.1chのサラウンドのシステムでさえ、特に日本の住宅事情では一般的に普及しているとは言い難いわけですから。
AirPodsの普及に合わせて国内でも盛り上がりが…
そこで、パッと見、普通のヘッドフォンやイヤフォンでも3Dの立体音響を
体験出来る技術というのが、近年大変に盛り上がっております。
そもそも人間の耳と脳みそって、音を聴いて空間を認識する、という凄まじい能力が本来備わっていまして、左耳と右耳それぞれで受信する微妙な空気の振動の差であったり、耳たぶとか鼻とか髪の毛とかによる乱反射、そして頭の傾きなんかのデータを脳味噌が瞬時に統合してまして、これにより音が来る方向、前後左右はもちろん上下も非常に敏感に感じ取っているんです。凄いですよね。
で、その人間の耳の感受性を利用した、バイノーラルと呼ばれる技術。
この技術自体は昔からある技術なんですが、その古の技術に、最新の立体
音響のソフトウェアを組み合わせる。
つまり、音に位置情報を持たせるというバーチャルリアリティの技術を組み合わせることによって、10本20本のスピーカーを設置して部屋中に設置しなくても、イヤフォンやヘッドフォンで3Dの音響効果が楽しめる。
というシステムや製品が今、どんどん商品化されています。
最も一般的なところで言うと、AppleのAir Podsなんかは頭の傾きとか動き
なんかの情報をリアルタイムでトラッキングしてまして、iPhoneとかMacbookの設定でDolby Atmosをオンにしますと、例えば音楽聴いてる最中に急に右にパッと向きを変えると、今まで正面で歌っていた歌手が突然自分の左側で歌っているように感じる。という、自分の体の動きに合わせて音場が一緒に動かない。その場で演奏を聴いているような気分になる、と。
VRゴーグルの音バージョンって言ったらわかりやすいですかね。
Appleは自社のApple Musicで配信する立体音響のコンテンツのことを
「空間オーディオ」と名付けてまして、最近ではBump of Chickenが
ニューシングルをこの空間オーディオ対応で配信リリースした。
というニュースでも話題になりました。なんとなくこの「空間オーディオ」という言葉に聞き覚えのある人もいるかもしれません。
ちなみにBump of Chickenはさらにかの名曲「天体観測」も、この立体音響に対応させるためにわざわざ録音し直して空間オーディオとしてリリース
しました。普通のiPhoneでAir Podsで聴いても、設定でDolby Atmosをオンにすると確かに前後左右の広がりがフワーっと広がっています。
今後このバイノーラル技術による3D立体音響に対応したヘッドフォンとか
スマホっていうのはAppleに限らずどんどん増えていくでしょうから、
アーティスト側としても、今までの左右LRのステレオ音声だけでなく、
音の一要素一要素に位置情報を内包させるというイマーシブ・オーディオのスタイルで音源を制作するという流れが加速するかもしれません。
でも・・・。正直な僕の気持ちを言って良いですか??
ほんとこういうテクノロジーには1mmも興味がわきません。
人間の耳が喜ぶことってね、結局そういうことじゃないんだよな。
Bump of Chickenの天体観測だってさ、みんなあの天体観測を聴いて育ってるんだから、そんな空間オーディオ対応で録音し直すとか、
やらなくてよくないですか?
今日はオリジナル版の天体観測を聴いてノスタルジーに浸りましょう。
軽音の部室で後輩のバンドが延々とこの曲練習してたなぁ。。。
Bump of Chickenで『天体観測』
youtube版では動画で同様の内容をご覧いただけます。
金曜ボイスログは毎週金曜日8時30分~午後1時にて放送。
AM954/FM90.5/radikoから是非お聞きください。