短編怪談集「みんなの怖い話」
墓石の後ろから覗き込む者
中学生の頃、やんちゃな友達にお墓へ肝試しに連れて行かれたときのお話しです。
夏休みの夕方に友達の柴山君と近所の公園でやっていた盆踊りへ遊びに行きました。少ないお小遣いで何を買おうか暗算しながら、音楽や人の声、やぐらや屋台のあかりが近づいてくる道のりに感情が高まってワクワクしていました。
しかし、その気持ちは一気に嫌なものに変わりました。
「お前らも来たんだ。一緒に遊ぼうぜ」
声をかけてきたのは同じクラスの柔道部に所属している小林。なにかと理由をつけて絡んでくる厄介な同級生です。反論しようものなら部活で鍛え上げた腕を振りかざすので、本当は嫌だったのですが、さっさと遊んで適当なところで切り上げようと思い誘いにのりました。
公園から少し外れた駐輪場。見覚えのある顔が数人いて、盆踊りの効果もあってかいつも以上にテンションが高くめんどくさそうな雰囲気でした。
来たことを後悔しましたが言われるがままに自転車の後ろに乗せられて、どこかへ連れて行かれる僕たち。公園からどんどん離れ、柴山君も不安そうな顔をしています。
連れて行かれたのは、大きな川のそばにあるお寺。周りは街灯の間隔が広い住宅街。頼れる光はガラケーのみ。言われなくても、肝試しに連れてこられたことはわかりました。
「お母さんから電話がかかってきたふりするから、そしたらすぐ帰ろ」
と小声で提案され、嘘だとバレないように電話のタイミングを見計らっていましたが、タイミングがつかめず。
大きな木の門をくぐると、数十メートル先まで続く石の道。両側にはたくさんのお墓。向こうのほうにはたくさんの木が生い茂って行ったら最後、一生戻って来られないような恐怖の森に感じられました。
「あっちまで行って戻って来い。途中で帰ってくんじゃねーぞ」
目の前しか照らすことのできないガラケーを持ちゆっくり一歩ずつ歩く。シャリ、シャリ。と石の道を歩く2人の足音。
途中で逃げ出そうと振り返るも、門のところでみんなが見張っており、人差し指を向け“行け行け”と差図をしてきます。
「向こうまで行かなきゃいけないのかなぁ‥」
と思いながら再び前を向くと墓石が並ぶ数メートル先、左側の墓石の後ろから赤い服を着た人が上半身だけを出し、覗き込むようにしてこちらを見ているのがわかりました。暗い中でも見える真っ赤な服。足を止めみんな方を振り返る。
その人の方を指差すとみんなはガヤガヤするをやめて前のめりに見た後、各々大声をだして逃げていく。その声に驚き僕たちも急いで合流しました。
「誰だよ、あの人!」
と聞いてみても
「知らねーよ!」
の一点張り。
「お前らの友達か誰かじゃないの?」
最初はみんなが仕込んだ人なんだと思いましたが、どうやら本当に違うらしいのです。僕らの気のせいなんかではなく、その場にいた人みんな見ていました。
するとそのとき、柴山君の携帯にお母さんから電話がかかってきてそれを理由に帰ることが出来ました。
結局あの赤い服の人は誰かわかりませんでしたが、一つ不思議なのは暗い中でもハッキリ見えたこと。あの赤は、洋服だったのでしょうか。
消えた少年
小学3年生の頃、近所の公園で野田くんと遊んでいたとき体験した不思議なお話です。
お互いの家が近いこともあって、野田くんとは毎日のように遊んでいました。ある日、いつも通り遊んでいたときのこと。
かくれんぼをすることになったのですが、10秒もあればどこかに隠れられてしまうほどの公園は、隠れられる場所もだいたいわかってしまいます。
「みーつけた!」
「えー、もーかよー」
灰色の大きいコンテナの後ろに隠れていた野田くん。
「だってここくらいしかないじゃん」
「あはは。てかさ、誰か呼ばない?2人だけじゃすぐ見つかっちゃうし」
カードゲームにしろ鬼ごっこにしろ、何度もやっていると相手のやり方もわかってきてしまうので、新鮮さがなくなってしまいます。当時は携帯を持っていなかったので、誰か友達を呼ぶとなると、直接家に行かなければなりませんでした。
誰の家に行こうかと悩んでいたとき、見覚えのないお兄ちゃんが
「ぼくも遊びに入れて」
と声をかけてきました。
誰だろう?とぼくらは目配せをしましたが、断る理由もなかったので一緒に遊ぶことに。
「なんでも言って。なんでもするよ」
明るく話しかけてくれるお兄ちゃん。初対面ですが、すぐに馴染めそうなくらい人柄が良かったので
「じゃー‥鬼ごっこやりたいから、鬼やって!」
と頼むことができました。
どちらかが逃げてどちらかが鬼しか選べなかった鬼ごっこ。それが2人とも逃げられるようになると、それだけでも遊びの幅が広がった気がしてとても楽しかったんです。
「じゃ、次はかくれんぼ!それも鬼やって!」
じゃあ次は、そしたら次は‥と、本当になんでも聞いてくれるので、調子に乗って色んな要求をするようになりました。
夕方になり、もうちょっとしたら帰ろうかという時間帯
「次何する?」
と言われ
「うーん、できることは一通りやったしなー」
と考えていたとき
「死ねと言われれば死ぬよ」
お兄ちゃんから、考えもしなかった提案をされました。
野田くんが
「いやいや、そんなこと言えるわけないから」
と否定をします。
「ん?ほんとにできるよ?」
冗談で言っている様子がありません。
「え、もしだよ。もし、やってみてって言ったら‥?」
という。
「うん、いいよ」
するとそのお兄ちゃんは、車が走っている公園の前の大通りに向かって走り出しました。
「待って待って!違うから!」
僕たちの声はお構いなしに歩道に出て車道に出ようか出まいかというとき、僕らは思わず顔をそむけました。
片目を開けながらゆっくりと車道に顔を向けると、そこにはいつも通りの光景。お兄ちゃんの姿は見えませんでした。一緒に遊んでいた少し上のお兄ちゃん。どこから来て、どこへ消えたのか。
夕陽に照らされる公園。ぼくと野田くんとお兄ちゃんが一緒に遊んでいたという事実だけがそこに残りました。
心霊スポットに行ったから
「心霊スポットって、やっぱり行っちゃいけないんだと思ったことがあって。人も巻き込んじゃうし」
そう話を聞かせれくれたのは香菜(仮名)さん。香菜さんが大学生の頃の話だという。
Aさん、Bさんという仲の良い友達が2人いた。授業もお昼もいつも一緒で、他愛もない事から真面目な事まで隠し事なく色々話せていた。
ただ、“一つ”を除いて。
隠したくて隠していたわけではない。言う必要もタイミングもなかったから、言わなかっただけだったのだ。
とある日。いつも通り3人で学校前から出ているバスに乗り込み帰っていたときのこと。1番後ろの一列になっている席に横並び座り、今日学校で起きた事や最近ハマっていることなどの雑談をしていた。するとあることにAが気づく。
「バスさっきから進んでなくない?」
外を見ると車の列。
「渋滞だ。珍しいね」
止まるたびにエンジンを切るバスの車内は静まり返っていた。静かな車内に気を遣いながらも雑談を再開する。
しばらくすると動き出すがまた止まる。歩いた方が早いような気もするが、疲れもあるのでそんな気持ちにはなれなかった。
するとAさんが
「あれなんか変じゃない?」
と言った。
運転席の斜め上。バス停の案内が出る電光掲示板を指差した。いつもはオレンジ色の文字で表示されているのだが、今日は赤く文字化けしているように見える。
「運転手さん気づいてないっぽいよね」
ほとんどの文字は読み取れなかったが、一つの文字だけ読み取ることができた。
『骸』
むくろ。その文字は、赤色で表示されている。
顔を見合わせ、口に出すこともなく怖さを目配せで共有する。骸という文字は怖さを通り越して理解ができなかった。しばらくするとバスが動き出す。静かだった車内に聞こえるエンジン音。何か音がするだけでも、心なしか安心感があった。
電光掲示板は次のバス停「貯木場前」を何事もなかったかのように表示している。さっきの文字を見たことは気になっていたが、そのあと誰も切り出すことはなかった。
この話を2人以外の誰かに聞いて欲しかったので、アルバイト先の店長に話すことにした。
「貯木場、前なんだったか知ってる?あそこ、昔は死体の安置所だったらしいよ。戦争のときたくさんの人たちを安置しておいたところ。今は木材置き場になってるけど、あんなに広いのはだからなんだって。もしかしたらそれかもよ?」
何の関係があるのか?と思ったが、あのとき表示された「骸」という字。骸とは死体のことだ。もしかすると関係があったのかも知れない。
冒頭で書いた2人への隠し事。それは、1人で心霊スポットに行っていたことだった。一時期自分でも不思議なくらい心霊スポットに行くことにハマっていた。
ある日、自宅の浴槽に浸かっていたとき水が怖く感じた。溺れた経験もトラウマもない。りゆうはわからなかったが、しばらく浴槽に入れなくなってしまった。
心霊スポットに行き始めてからこの異変を感じるようになったので、もしかしたらと思い近所の神社にお祓いに行くことにした。住職さんと顔を合わせるや否や
「水で亡くなられた方が憑いている」
と言われた。
香菜さんが行っていた心霊スポットは沼だった。
お祓いをしてもらってからは水に対する怖さを感じることは無くなったが、自分が心霊スポットに行ったことが原因で友達にも「骸」の文字が見えてしまっていたのであれば、本当に申し訳なかったと思っている。
周りの人に迷惑がかかってしまうのであれば‥と思い、それ以降、心霊スポットに行くのはやめたそうだ。
オバケの紙
オバケの紙と言われても何のことかわからないと思いますが、オバケの紙としか言えないんです。こればぼくが幼少期の頃、祖父母の家に行ったときのお話し。
ぼくの実家は二世帯住宅で二階にぼくらの家族、一階に祖父母が住んでいました。
ある日のこと。
雨が降っていて外に遊びに行けなかったので、祖父母と遊ぼうと思い一階へ行きました。家の中へ行ける階段があるので、数秒もあればすぐに一階へ行けます。階段を降りている最中にリビングからテレビの音が聞こえてくる、
しかし、この日は聞こえてきませんでした。
「いないのかな?」
音がしないということは留守。行き慣れているはずの一階からは、ひとけを感じられず少し怖さを感じました。誰もいないならと引き返そうとした時、階段の最後の段。左側の手すりに紙がくっついているのが見えました。
こんなところに紙が張り付いているのもおかしな話なんですが、なんだろうと思い剥がしてみると、A4サイズくらいの紙に“オバケの絵”が描かれていました。アニメや漫画で出てくるような典型的なオバケの絵。
手をうらめしやの形にして、足元がシュッとなっているオバケ。目は黄色一色で吊り上がっていて、こちらに視線を向けています。
怖さから紙をその場に放り投げ、急いで二階にかけあがりました。いつも以上にドタバタと二階に駆け上がってきたぼくを見て
「どうしたの?」
と声をかける母。
祖父母がいなかったこと、オバケの紙を見たことを全部説明しました。ですが言葉が拙かったのでいまいち状況を伝えられず。それならば見せた方が早いと思い、母を一階へ連れて行きました。
ですが、一階の光景はさっきと違っていました。祖父母が居るのです。
「え!?だからさっきオバケの紙があって、誰もいなくてさ!!!」
「いるじゃん。2人とも」
リビングに向かうと
「どうしたの?」
と不思議そうに聞いてくる祖母。起きたことを同じように説明しました。
「おじいちゃんもおばあちゃんもずっと居たよ?どこにもおでかけしてないよ?」
仮に2人がいたとしてもオバケの紙は放り投げたんですから、階段の近くに落ちてるはず。しかし、それもありませんでした。オバケの紙しか言わない(言えない)ので、変なのを見て怖かったねーで終わってしまいましたがたしかに見たんです。
思いかえしてみれば、子供向けの絵本に出てくる可愛らしいオバケの絵でしたが、当時はすごく怖かったんです。あのオバケの紙はなんだったんでしょうか。ぼくはどこに行って、何を見たんでしょうか。
白装束の女
地方で配達業をやっているゆかさんが、独り暮らしの男性宅へ荷物を届けたときに体験したことを話してくれた。
いつも通り配達をしに行ったある日のこと。
草木の生い茂る車道をはしらせ、その男性の家に向かった。この道を通るのは住人の男性か配達の人くらい。住宅街の外れにある家の周りには建物はなく、緑に囲まれた庭は手入れがされていないため昼でも薄暗い。虫か鳥の鳴き声しかしないような静かな場所だった。
家の前にエンジンをかけたまま車を止め、小走りで玄関に行き、古く味のある引き戸をカラカラっと開ける。
「配達でーす」
鍵を閉める習慣がない地域なので、雨に濡れないように中に荷物を置く。家の中に人の気配はなく、リビングを覗くが男性の姿はなかった。
玄関を閉め車へ戻ろうとしたとき、なんとなく振りかえると庭に出るための窓ガラス。少し開いたカーテンの向こう側に人が立っている事に気づいた。
ついさっきリビングを見た時には誰も居なかった。だが、今は誰かがいる。目を細めよく見てみると、白装束を着たボサボサ頭の女が背を向け立っていた。
「誰!?」
白装束がよれるくらいの細身で5.60代に見えるその女は、何かを覗き込むかのように少し前屈みになっている。そこには、ベビーベッドがあった。なぜそこにベビーベッドが?という疑問もあったが、足がすくみ女から目が離せなくなってしまった。
するとその女は、ゆっくりと首を横にむけ始める。こちらを振り向こうとしているのだ。このままだと目があってしまう。そう思った瞬間危機感を覚え、すぐに車へ乗り走り去った。
それからもこの男性宅へ何度か配達に行っているが、あの女を見たのはこの時だけだった。
足が向かった先
秋葉原のカフェに勤める女性、Iさんの体験談。
小学校一年生頃。一緒に寝ていた両親と離れひとりで眠ることになった。眠りつくまで喋ってくれていた母親の声が今日から聞こえなくなる。心細いが一人で寝れるようにするための一歩。布団をかぶり目を瞑る。
“タッ、タッ、タッ”
部屋に近づいてくる足音。ひとりで眠ることを心配してくれて、両親のどちらかが来てくれたのかもしれない。
“タッ‥。タッ‥。タッ‥。”
足音は離れていく。扉が開いた音はしなかった。見に来てくれただけで、声をかけてくれなかったのだと思うと少し残念。
“タッ、タッ、タッ”
“タッ‥タッ‥タッ‥”
足音が少し変だ。どうやら部屋の前を行き来している。何度か行き来したあと、部屋の前で足音が止まった。
“キィ”
扉が開き廊下の光が入ってくる。
「来てくれたのかな」
上半身を起こし足元にある扉を見る。すると、右から左に足首より下、色のない足がゆっくり歩いて行くのが見えた。見えるはずの足首より上がない。
怖くなったので両親の部屋へ行こうとしたが行くのをやめ、布団を頭までかぶった。足が向かった先は両親の寝室だったから。
著・有野優樹(ありのひろき)
怖い話投稿サイト“奇々怪々”より。
自身が投稿したお話を加筆・修正しました。
11月9日 怪談イベント「三面恐」