【愚者の思考】30年ぶりの長期物価上昇傾向~消費者天国ニッポンの末路(お金Lv.04)⑩
この言葉は世界史の教師たちに「最も好きな名言ランキング」を実施すればきっと上位に入ると信じているほどに、私が大好きな言葉の一つです。
現在のドイツの原型となったプロイセン王国、北ドイツ連邦、ドイツ帝国で首相を28年務めた鉄血宰相ビスマルクの遺した名言ですが、多くの日本人は今まさに「愚者」となるか「賢者」となるかの境目にいると言えるのではないでしょうか。
近年、様々な商品の値上げが本格化しています。
ウクライナ危機に伴うロシアへの世界的な経済制裁もあって、世界的に物価上昇局面に入り、長らく物価上昇が起きづらかった日本でも遂に、いよいよ長期的な物価上昇が始まったと考えられます。
中でも印象的な値上げは、この2022年4月からの出荷分に適用されるうまい棒の値上げでしょう。
これまでも10円という価格を据え置くために細くなったり、短くなったりと変更を加えながらも時代の荒波を乗り越えてきたうまい棒。
チロルチョコが20円になっても、5円があるよがセット売りしかしなくなっても、ビックリマンチョコが発売当初から比べて最大7倍近い値段になっても…10円を守り続けてきてくれた。
やおきん(メーカー)さんにはもう感謝しかない。
うまい棒の値上げの原因は発表によると原料費(コーン・小麦・食用油・糖類・香辛料・調味料・甘味料)、包装資材(石油・ビニール・アルミ・インク)に加え、物流費(運搬車の不足・ガソリン代・人件費)の上昇ということ。
ここ最近、多くの企業が値上げの理由に挙げている通り、企業努力だけではもはやどうにもならないと値上げを決意したと発表しています。
うまい棒(1979年7月発売)だけは私(1980年生まれ)が物心ついた頃からずっと10円で買えてたイメージがあるので、遂に12円に値上げというのは致し方ないと分かっていてもやはりショックですね。
うまい棒は単価10円と言うことで安い商品という感覚の方も多く今回は2円の値上げという捉え方をついしてしまいますが、社会人であればここは「2割の値上げ」と割合(率)で捉える方が今の世の中で起きている物価上昇に対する正しい認識だと思うのです。
話を物価上昇に戻すと、日本は食料自給率はカロリーベースで約40%しか自給自足できていません。
また石油・天然ガスなどの資源エネルギーはほぼ90%に近いほど輸入に依存しています。
諸外国と日本との間に有事が起きた際だけでなく、たとえば日本では平時から資源エネルギーの輸入先の大部分を輸入に依存しています。
石油に関しては中東情勢の悪化によって、ホルムズ海峡が一時的に閉鎖されたことがあります。
これが封鎖されただけで日本に入ってくる石油の87%が途絶えてしまうというリスクを抱えています。
石油が入って来なければ船も飛行機も、車も動かすことが出来なければ、生ごみを含む可燃物を燃やし切ることもできません。
電力に関して言えば原子力や太陽光・風力・石炭・火力(天然ガス)など様々な手段がありますが、石油によって賄われている部分を他の電力がカバーするとなれば更なる値上げが避けられないことになるでしょう。
国内電力の大部分は火力発電に依存しており、再生可能エネルギーも徐々に増えてきていますが現状は火力発電を抜きに考えることが出来ません。
火力発電の大部分を担っている天然ガス*はその約40%をオーストラリアからの輸入に頼っていますが、様々な国からの輸入に分散することで、一国で有事が起きても他の国からの輸入で供給を補うというリスクヘッジの役割も果たしている点は投資・資産形成においても、エネルギーにおいても重要な考え方の一つです。
現代社会において石油・天然ガスを始めとした資源エネルギーは経済を潤滑に動かすためになくてはならない存在です。
また食料の輸入も欠かすことが出来ません。
もしこうした輸出をしてくれている国やその国が属する同盟国(経済的・軍事的・政治的)との関係に亀裂が入ったとしたら、輸入できなくなってしまうリスクを常に抱えています。
しかし何もこうした物価上昇という現象は一時的なものではなく、世界的には殆どずっと当たり前の現象だったということをこの記事では改めて確認してほしいと思います。
1995年の物価水準を「100」とした場合の物価変動率で日本はほぼ横ばいですが、米国を始めとした諸外国では緩やかに物価上昇が長期的に続いています。これは何故でしょうか。
今回は今こそ日本人が体感し始めている物価上昇と経済の関係について、前後編(愚者の思考/賢者の思考)でお伝えしていきたいと思います。
物価が安いと喜んだ目先しか観れない日本人
かつて日本人が主に東南アジアなどの途上国へ海外旅行をした際に現地の物・サービスの値段を「物価が安い」と喜んでいた時代がありました。
また1990年代~2000年代にはFPたちも退職金を貰ったらタイやインドネシア・フィリピンなど日本から比較的近場で物価が安い国へ移住して、日本の年金を受給しながら家政婦を雇って暮らすことを日本的セカンドライフ*の一つのモデルとして紹介していたほどです。
物価が安い国で暮らせば生活コストが抑えられ、年金などの少ない所得でもそれなりの豊かな生活が送れるというものです。
また東南アジア近辺であれば、親族や友人などにもしもの際にはすぐに帰国することができ、親日国も多いため好まれる傾向にありました。
一方で2010年代以降になると外国人観光客が日本に大挙して押し寄せました。中国・韓国といった近場の国からの旅行客も多かった一方で、欧米人もかつてよりも日本を訪れ、国内ではインバウンド需要*と呼ばれる特需が生まれました。
2000年代初頭からの日本政府の観光立国としての誘致が成功したというのも一因にありますが、最も大きな要因は諸外国の経済成長と、日本がそれらの国々に対して総じて「物価が安い」だったことを改めてここでは確認してみましょう。
特に中国人旅行客が薬局・ドラッグストア、日本の家電量販店などを訪れ「爆買い」と呼ばれる買い物の仕方も大きな話題になったことは記憶に新しいのではないでしょうか。
日本人の感覚で言うなら「このメニューに載っているの上から順番に」「この棚からこの棚まで全部」「この商品、在庫あるだけ全部くれ」みたいな買い方です(;゚Д゚)オトナガイ…
かつて日本人が途上国への海外旅行を安いと感じていた減少と似た現象が近年日本を訪れる外国人の感覚では起きていたのです。
一方で日本人の海外出国者も1964年4月の海外渡航自由化以降は増え続けてきましたが、2000年を迎えるあたりから徐々に海外で買い物をしたりするのは物価が高く感じ始めるようになり、やがて伸び悩むようになりました。
特に20代などの若い世代、本来であれば大学生が夏休みや春休み、また卒業旅行などの機会に出国するであろう世代の出国者数は大きく減少傾向にあります。
これは若者の人口が総じて少なくなってきている事*、またバブル崩壊後(1991)の景気の見通しが期待できないことや雇用の不安定化(非正規雇用・低所得)など様々な要因が重なっていると考えられます。
その中の一つには海外旅行先でかつてのような物価の安さを十分に感じられず、むしろ海外の物価の高さを感じるようになってきた事も大きな要因かもしれません。
世界の広さを知らない人、海外の文化を知らない人、世界の変化を自分の眼で観て感じていない若者というのが急速に増え、こうした面での知見の格差も広がっていく時代に突入しています。
(特に1970年代以降に生まれた就職氷河期世代)
アメリカなどの先進国へ旅行するとNYの場合ですが、ランチとしてデリ*でサンドイッチやサラダなどを頼むと安くて1,000円(8㌦)くらい、お店に入ってドリンク付きでゆっくり食事をするなら2,000~3,000円(15~25㌦)、夕食なら4,000円(35㌦)以上。
日本だと東京でもお店によりますがランチは500~1,500円くらいでしょうか。夕食は2,000円~3,000円くらいが割と多いかもしれません。
海外の事情を知らない人はいやいや、そこまで高くないだろうと考える人もいるかもしれません。
そんな人は「ビックマック指数」を使って国別の物価を考えることをお勧めします。
「ビックマック指数」で考える物価と賃金水準
ビックマック指数とは「ビックマック」をその国では1ついくらで買えるのかという比較です。
マクドナルドは世界各国(118か国)に展開していて、殆ど同じ材料で作られていいます。
また価格というのは企業によって調達・製造・流通・販売コストが異なりますし、その国の経済状況(家賃・賃金など)から比べて高すぎると誰も買いませんし、安すぎると赤字でお店が持続できません。
ビックマックは比較しやすいという点があるため、経済の指標として用いられることがあります。
「価格」というのは"需要と供給のバランス"が取れたところで決まるのです。
2022年2月に更新されたビックマック指数によると、日本ではビックマック1個が税込390円、タイでは128タイバーツ(443円)、シンガポールでは5.90シンガポール$(503円)、イギリス3,59£(555円)、アメリカでは5.81$(669円)となり、アメリカのビックマック1個のお金を払うと日本では1.7個相当を買える計算になります。
日本の物価がいかに安く、アメリカは日本の2倍に近いほどの価格に位置づけられているのもあながちでもないということが見えてきます。
尚、アメリカではAmazon.comの倉庫で商品のピッキングなどのアルバイトの時給は平均18.32㌦(2,161円/1㌦=118円)、スターバックスのスタッフの時給は平均17㌦(2,006円)です。
アメリカの最低賃金は2022年3月30日から原則15㌦(1,770円)です。
尚、日本は2021年10月の最低賃金改定で1,041円(東京都)ですね。
海外旅行客が日本にたくさんやって来てくれるというのは嬉しい反面、気を付けなければいけないのは外国人旅行客は何故日本にやって来るのかという事です。
日本という国に関心があり、日本の歴史や文化が好き…という理由もあるかもしれませんが、大きな要因として挙げられるのはかつて日本人が東南アジアへの旅行がそうであったように日本の物価が安いからです。
そしてこの点の厄介なところは「日本はサービスが良くて、低価格」という点です。
かつて日本人が途上国へ海外旅行をした際には「安かろう悪かろう」。
この値段ならこんなものだろうという質だったものが、日本人は過剰サービスをして安い料金で「お・も・て・な・し」をしているのです。
しかも日本人は欧米のようにチップも受け取りません。
最低賃金も高くありません。奴隷とは言いませんが、国をあげてブラック労働を長年し続けている状態と言っても決して大げさではないのです。
消費者天国が招いたデフレスパイラル
商品を値上げすると価格に敏感な消費者が離れることを過度に恐れた日本の企業・お店の殆どは、商品・サービス・品質には適正な価格があるということを消費者に明示することができず、価格を据え置き商品のサイズを小さく薄く短く少なくする隠れ値上げ*を長年に渡って行ってきました。
たとえば某飲料メーカーは、価格を据え置く際に「冷蔵庫に出し入れしやすくなりました」と内容量を減らしました。
表現の仕方で消費者にポジティブに受け止められる印象を与えようとしていますが、実質的に内容量が減っているわけで同じ量を消費すれば実質的に値上げとなります。
前述のとおり、経済の世界では世界中が物価上昇をして行くのが常識でした。しかし日本だけは物価下落という逆行した現象が起こりました。
諸外国でも毎年必ずインフレーション(インフレ)が起こるわけではありません。物価が下落する時も当然あります。しかし何年も、何十年もデフレということはなく▲1%の年の後は+3%のように総じてみると物価上昇を続けていきます。
景気が良い場合、買いたいという需要が供給を上回ると品薄・品切れの状態になるため商品・サービスの価格は値上がりします。
景気ではありませんが、値上げのメカニズムとして身近なところではコロナ禍に入った直後に世の中からマスクがどこもかしこも売り切れという状況となり、ネットオークションやメルカリなどの個人売買では転売が大きな問題となりました。需要>供給で価格が上がるという状況です。
反対に景気が悪い、買いたいという需要以上に商品が世の中に供給されてしまいます。
コロナ禍に入って半年ほど経って、最初はあれだけ何処に行っても売切・品切れだったマスクは秋頃からどうなったでしょうか。
店頭に山と積まれた在庫にお店が今度は頭を抱えて投げ売り状態に突入しました。仕入れ値以下で販売している所も少なくないでしょう。
「価格」は需要と供給のバランスが取れたところで決まりますので、過剰供給されている商品が沢山あるとそれを値下げして数を売ろうと企業はします。(薄利多売という考え方)
すると商品・サービスの価格は値下げされ、賃金は上がらないどころか消費者が支払う価格に対して足りないという現象が起こります。
このため沢山売ることでこれを補おうとしますが、需要<供給の状態なので在庫をよりたくさん売ろうとすると価格は更に下がります。
結果、どんどん値下げが繰り返され、賃金は上がらずむしろ下がっていき、賃金が減ると労働者はその給与を元手に生活をするためのコストを切り詰めようと買い物を減らそうとします。
すると他の企業も買い物をこれまでのようにしてもらえず社会全体が不景気になり、値下げをして、賃金が下がっていき…と繰り返されるという負の循環、デフレ・スパイラルに陥ります。
値下げに応じた企業・お店(経営者)がいけないのでしょうか?
勇気ある経営判断ができる経営者が求められていたのは確かですが、日本の消費者は価格の値上げを受け入れませんでした。
平成の30年間、日本は消費者の殆どは消費者としての教養が未成熟であるがために値下げを良いものとして、値上げを悪いものとしました。
日本は消費者天国で、消費者保護という立派なお題目のために過剰な消費者保護をしており、賢い消費者としての責任を果たせていないのです。
「賢い消費者」としての責任については次回触れますが、今回は最後にこのエピソードをご紹介したいと思います。
国内株最大級の預かり資産を誇る「ひふみ投信」などの資産運用会社、レオス・キャピタルワークスの藤野英人社長はかつてカンブリア宮殿に出演した際にこう言っていました。
私は120%同意ですね。
色々なお客様を観てきましたが、「自立」していない人に投資は無理です。
そもそも自立していない人に投資は続けられません。
目先の値動きにビビッて損切りをしてしまうのが関の山です。
損切りが必要な時も当然あります。どうしても資金が必要になる時もやって来るでしょう。でもそれと株価が下落したから損切りをするのとはわけが違います。
人は心臓が鼓動をしているのを観て、生きるのを止めるでしょうか?
経済は生きています。鼓動をしているのです。株価が変動するのは、人の心臓が鼓動するのと同じくらい当たり前のことです。
大きくしゃがみこまなければ高くは飛べません。
しゃがみ込むのは失敗でしょうか。後退でしょうか。
いいえ、高く飛ぶため(目的)、力を蓄えるために(目標)、しゃがむ(手段)のです。
目的が変わればそのために取る行動も、それに対する見方も評価も変わります。
資産形成・資産運用、仕事や就職でもなんでもそうですが、続けられない人は目的と目標、手段が明確ではなく腹に落ちていない上に、結果ばかりをすぐに求めるのです。
もし変動しない株価があるとしたら、それは投資する価値もないでしょう。
その株式市場はもう死んでいるということですから。
次回、【賢者の思考】に続きます。
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