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ケアの価値向上を目指して(仕事と育児の両立は可能?)

皆さんこんにちは、柳本です。

本日は仕事とケア(育児や家事など)についてのお話です。

突然ですが、皆さんは子供時代、大人とどのように関わってきたでしょうか?

私の家は両親が公務員で共働き、その中で育児をしてくれていました。4世帯住宅だったので祖父母や曾祖母も私と姉の面倒を見てくれました。近所の方々にもお世話になりました。そういう意味では様々な大人にケアされて育ってきたんだなと思います。

大人になった私はというと、子供が生まれる前までは子供との関わりを考えることもなく、仕事や遊びに夢中でした。しかし今親となり悩みながら家事や育児をやっていくと、きちんと子供に向き合えていないのでは?と感じます。コロナ禍の中で在宅勤務をやってみて気づいた育児の苦労もあります。育休を取っている妻が日々こんなことに悩んで対応してくれていたのかという気づきもありました。また今の時代はなかなか私の幼少期のように3世代で住むというのも難しいですね。そんな中で育児や家事が妻に集中するという実態をなんとか変えていきたいなという思いが出始めました。

その時の個人的な体験や思いをまとめたnoteについてはコチラから。

しかしふと疑問に思ったのはこれって私の家庭だけの問題なのかと。そういう意味で少し世の中がどうなっているのか調べてみようと情報を探し始めました。そしてある書籍に出会いました。

その本こそがアメリカのアン=マリー・スローターさんの「Unfinished Business 仕事と家庭は両立できない?」という著書でした。彼女はオバマ政権時代に国務省の政策企画本部の本部長を務める偉大なキャリアを持っていました。しかし家庭内でのある出来事をきっかけに更なるキャリアアップと家族との時間を天秤にかけ家族の時間を優先する決断をしました。コロナ禍で育児や家事と仕事のあり方に悩んでいた私にとってとても視野を広げてくれた本となりました。

この本の中ではアメリカで近年いわれてきた言説(すべてを手に入れることができる)というウソについて焦点を当てつつ、ビジネスの世界での競争とケアの価値について言及しています。詳しくは是非この本を読んでいただきたいですが、今回はその中で学んだことも含め、どのようにケアの価値を高めて育児や家事と仕事を両立していくかについて考察していきたいと思います。

そもそも今どんな状況?

まず今の日本の家事育児についての状況について見ていきましょう。少し古いデータですが下記図表を見て下さい。

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(出典:内閣府男女共同参画局 「平成28年社会生活基本調査」の結果から
~男性の育児・家事関連時間~)

過去20年で6歳未満の子供をもつ夫婦の家事や育児に関する時間の推移ですが、ご覧のように男性の育児・家事参画の時間は38分(1996年)から83分(2016年)に向上しているものの、女性の454分(2016年)と比べるとおよそ約6分の1程度の時間しかありません。

この数値は共働き世帯と男性が仕事をしており女性が仕事をしていない家庭のケースでも10分程度しか変わっていない状況です。また諸外国と比較しても男性の育児・家事参画の時間は半分以下(日本の1時間23分という結果に対して、米国で3時間10分、英国で2時間46分)というのが実態です。

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(出典:内閣府男女共同参画局 「平成28年社会生活基本調査」の結果から
~男性の育児・家事関連時間~)

他の国以上に日本は少子高齢化が進んでおり今後も介護などケアの需要がますます増えていきます。また核家族がどんどん進んで私の先ほどの例のように3-4世帯で住み育児や家事を分担したり助け合うというのも今後は更に難しくなるでしょう。もちろん親元の近くに住んで孫をケアしてもらうという作戦も成り立つ家庭もあると思いますが、昨今の雇用が流動化しつつある状況では働く場所も住む場所も変わる可能性が高く、子育て世代が親を頼るというのも大変難しくなると予想されます。

そういう状況の中で今までのような女性に家事や育児が偏った状況では生活が成り立たない家族がどんどん増えていってしまうのではないか、共働きを増やしていくなんて夢のまた夢になってしまうのではないかと危惧しています。このままだと労働人口もどんどん減るけど働き手を女性に求めるの無理じゃない?と思ってしまいます。

家事と育児の男性参画は制度があれば充分?

そもそも日本の家事や育児に関する制度ってどうなっているんでしょう?ネットで調べるとサクッと出てきますね、便利な時代です。しかしこのことに関心を持つまで、3秒で調べられることもやってこなかったので私は現在猛省中です。代表例として育休について見ていきましょう。

制度概要:子が1歳(一定の場合は、最長で2歳)に達するまで(父母ともに育児休業を取得する場合は、子が1歳2か月に達するまでの間の1年間)、申出により育児休業の取得が可能

国の制度として初期の育児期間は仕事を休めて雇用を守ってもらえるということですね。育休中のお金についても、育児休業給付金という制度で雇用保険の被保険者は一定の条件を満たすと給付金という形で手当があります。男女分け隔てなくこの給付金は支給されます(制度概要について詳しく知りたい方は下記の厚労省のガイドをご参照下さい)


一方で日本以上に育児に関する保障が整っていない国もあります。

その国とはアメリカなんです。ちょっと意外でしたか?アメリカってかなりの先進国のイメージがありますよね?

アメリカでは、1年以上の働いていれば、家族が病気の際に12週間ほど休職できる制度があり、これを産休や育休に充てることができるそうです。

出産前と出産後あわせて12週間つまり3ヶ月です。

この期間は、職のポジションが保証されているだけで、基本的にはこの間のお給料は支払われません。(大きな会社であればお給料がでたり、カリフォルニアなど州によっては、有給の場合もあるようです。)でも実際はアメリカの母親の4人に1人は、休んでいる経済的余力がないため、出産後2週間で仕事に復帰しているケースもあるそうです。

そのため出産直前まで働き、産後すぐに復職せざる得ない環境です。長くても3か月後には復職することになります。

この制度の手薄さについて国際的に著名な女優であるアン・ハサウェイさんも疑義を表明したりしています。

アメリカは私にとっては意外でしたが、日本もアメリカと比べれば制度上は整っているように見えますね。男性も育休を取得できるわけですし。もちろんヨーロッパの多くの国と比較すればまた違った結果になると思いますが、それでも日本が休む期間や保証について制度上めちゃくちゃ遅れているというわけではなさそうです。

しかし日本は制度があっても男性が活用仕切れていないというのが実態でしょうか。

実際今の日本の男性の育休取得率は2019年で7.48%、10年前の1.72%よりは前進していますが改善の余地は大きいですね。

育児を行う男性の意識、まわりの人間の意識という面では課題が多く残されていると感じます。

実際に数字でも表れていますが、皆さんの周りでも育休をしっかり取った男性がどれだけいるでしょうか?育児や家事のために残業はゼロ、またはそこそこで帰る人がどれくらいいるでしょうか?

制度がどれだけしっかりとあっても使われなければ意味がありませんし、日々の行動を変えていくためには人々の意識を変えていく必要があります。実際私自身も恥ずかしながら育休取得するという決断まではできず数日の有給休暇を取ってやり過ごすという実態でした。コロナ前の育児や家事の参画時間は本当に少なかったと反省しています。妻にも良く怒られていました。

この意識をかえるということはやはり大きな壁があるんですね。

では何が男性の育児や家事の参画を難しくしているのか、その点について考察を深めていきたいと思います。

男性の育児や家事参加のハードルとは?

ここからは完全に個人の推測ですが、是非おつきあい下さい。こんな意見もあるよというのがればコメントでもTwitterでもご意見頂きたいです。

まずは男性個人の観点で。

仮説1:育児や家事についての価値観が更新されていない。

それはビジネス(仕事)とケア(家事や育児など)とどちらが優先されるべき価値なのか?という問いに対してあなたはどう答えますか?

かなり多くの男性が「ビジネス(仕事)を優先している」と答えるかなと思います。

もちろん仕事がなければ家族を養っていけませんし、生きていくことが難しいからです。しかしどっちかを選べという究極の2択になっているとしたらそもそもの問いの設定が間違っているのではないでしょうか。(ひっかけ問題みたいでごめんなさい)おそらく完全に50:50でないにせよ、両方の価値を認めて、ケアの価値のポジションを相対的に高める、両立のための道を模索するというのが今必要な価値観のアップデートなのだと思います。

例えばフラットに考えて男性が育休や時短勤務をしても良いわけです。別に女性である必要はないのですが、男性の長期間の育休取得や時短勤務はかなり希有なケースに留まると思います。これらが当たり前に行われるために、大前提としてケアの価値を高めるという価値観のアップデートは必要です。

仮説2:育児の入り口でつまずいてケアの道に入り損ねる

男性の場合、妻の妊娠期間中・出産前後の妻のケア、乳児のケアに入り損なうと途中から手出しがしにくくなるのではないかと考えています。

特に出産直後、里帰り出産などで妻の実家に任せてしまうと新生児のケアの仕方を学ぶ機会が少なく、育児の即戦力として戦うことができません。この頃の赤ちゃんの変化も激しいので、結果多くの育児を女性側に任せてしまい、この入り口で上手く育児ができずその後も距離を詰められないまま育児への関わりに疎遠になるケースもあるのではないかと考えています。

仮説3:父親同士の横のつながりがほとんどない

男性が育児をしっかりやろうと思ったときに自分のやり方がそれで良いのか、本当に大丈夫かなど、不安になることが多いでしょう。そしてそれは判断や行動を遅らせる原因になります。男性自身がパパ友といったコミュニティに所属できたり同じような年齢を持つ誰かに相談できれば、こうした悩みの多くは解決したり、解決のための糸口が見つかるものです。他の父親がどのように子供達と接しているかは自身を相対化する上でも重要です。

いかんせんこのパパ友コミュニティを見つけるのは簡単ではなかったりもします。特に子供が小さい時にこうした相談をできないと育児にしっかり入っていこうと思えなくなり、躓く原因になりそうです。

仮説4:職場で周りの目や評価を気にしてしまう

これは男性が所属する企業や組織の文化にもよりますが、周りがほとんど育休をとっていなかったり、育児や家事のために残業はせずに仕事を切り上げる文化がない環境において特に発生すると考えられます。

企業内でも育休を取る男性の数はまだまだ少ないですし、モデルケースがない場合、ファーストペンギンになるには勇気が必要です。育休を取ることで企業が取得者に不当な扱いをすることは許されませんが、それでも仕事のやる気がないと上司に思われるのではないかという疑念や仕事を完遂できないのではないかといった不安が生まれることもあるでしょう。特に上司に乳幼児やそれ以降の年齢の子供と接してきた経験がほとんどなかったり、あったとしても個人の経験値を押しつけられる場合、非常にケアを重視しますと言い出しにくい事が容易に想像できます。

そういうモヤモヤの中で育休を取ったり、子供が一定程度手がかかる期間に残業無しで仕事を乗り切る、あるいは時短勤務を男性が選択するというのはまだまだ心理的なハードルが高いでしょう。

仮説5:職場でのキャリアへの影響を懸念

これは本人の周りの人の価値観や組織の制度のアップデートとの相関も深いのですが、ケアの優先度を高めると動じても相対的にビジネス(仕事)にかけられる時間が減ります。育休の場合も最長1年は仕事をする時間には充てられませんし、しっかり育児・家事を家族内で分担しようとすると残業をやっている時間はほとんどありません。しかしそれを表明することが男性自身のキャリアの芽を摘むという憂いになるでのはないでしょうか?

実際育休を取る場合に1年の休業を取るとそのままキャリア上出世レースの1年遅れになる場合もあります。そこへの折り合いをつけるのはまだまだ難しいと感じる人もいるでしょう。また男性の時短ともなるとハードルが高くてなかなか取れない(言い出せる空気でない)というのが多くの企業での実態ではないでしょうか。

では周りの人の観点での難しさの仮説はどうでしょうか?

仮説6:本人が育児を優先すると仕事にやる気がないと誤解する

もしあなたが上司で部下が育休を1年とりたい、育休取得後もなるべく残業はせずに仕事をしたいと言い出したらあなたはどう感じるでしょうか?「ああ、この人は仕事へのモチベーションがなくなったんだな」と感じたらそれはちょっと立ち止まって考えてほしいですね。

育児や家事って仕事とは全く違う能力と適正が必要なのです、また子どもは仕事のように納期をきっちり設けて時間通りにコントロールすることなど不可能です。だから育児や家事にコミットしたらそれなりにそこに時間を割く覚悟が必要なのです。これは仕事の時間を圧迫するため、溢れた分をどこかで補って埋め合わせるしかありません。

その難しさへの理解なしに、本人のやる気の問題だと考えるのは大変危険ですが、えてしてこういう状況が発生してしまいます。

仮説7:残業や長時間労働を前提とした仕事の仕方が定着している

これは日本の長時間労働の是正と大きく関わる部分ですが、育児や家事をするための時間を確保する前にそもそも仕事に費やしている時間が長過ぎる可能性があります。働く環境という意味で付加価値を生まない作業、本業に全く寄与しない社内向けの無駄な仕事なが多く存在する場合、個人の問題ではなく組織の問題です。

企業側が残業や長時間労働で何とかするという仕事の仕方を脱しない限り、従業員に家庭に時間を使ってもらうことができません。

仮説8:育休や時短などを経た社員向けの柔軟なキャリア設計がない

これは難しい話ですが、育児や家事にコミットした人もある程度の昇進を行ってもらえるための仕組みがない、あるいは薄いのではないかという観点です。先ほども記述したように育児や家事にコミットすると相対的な仕事に割ける時間は減ります。その前提をよしとして、そうした社員にも役職者に昇進するための梯子を作れているかというのは今後検討が必要な領域だと思います。

もちろんキャリアもマネジメントの上位層(次長や部長クラス)なのか、経営層(役員など)まで含めるのかで視野や難しさは変わります。個人的には最低でも現場のマネジメントの上位レベルまでは最低でもキャリアの梯子がないと厳しいのではないかと思います。なぜなら経営層やマネジメントの多様化という意味では育児や家事にコミットしてきた人がその層に何割かいるというのは今後の世代の働きやすい職場を作る、その人たちの提言を受け入れる上でも重要だからです。公平性の観点でここは簡単に結論が出せませんが重要な視点ではないかと個人的には感じています。

こうやって考えると一口に男性の育児や家事と仕事の両立と言っても結構問題の根は深く重層的に感じますね。

どうやって現状を変えていくか?

この現状と課題を打破するためには結構様々な打ち手を検討し実践していく必要があると思います。

例えば仮説1:育児や家事についての価値観が更新されていない、体験する、知ろうとするという所から始めて行くしかないかなぁなんて思います。

私自身育児や家事に携わるようになって大変なことももちろん多いですが、娘の些細な成長の変化に気づけること、娘との絆が深まる実感をできることにこの上なく幸せを感じます。ケアの価値は仕事とは比較しようがないですが、こうした価値に気づける人をどんどん増やしていく必要があります。

これは仮説6:本人が育児を優先すると仕事にやる気がないと誤解するとも連動しますが、周りもケアの大変さを理解してあげられるか、この部分の価値観のアップデートも必要です。体験したことがない人はなかなか想像するのが簡単ではありません。そういう人に育児や家事の難しさ、仕事との両立の難しさを理解してもらう機会を作ることも大切ではないでしょうか?

次に仮説2:育児の入り口でつまずいてケアの道に入り損ねる、については対策としてやはり妊娠初期や出産前後のタイミングで育児に関わっていくということが必要です。その中で男性自身が難しさを理解するとともに、子育てにおける戦力になるための最低限必要な時間は確保する事が求められます。

そしてこの入り口を確保した上で、ケアをするためのレベルアップや交流の場が必要なのです。仮説3:父親同士の横のつながりがほとんどない、につなはりますが、気軽に父親同士がコミュニケーションができるコミュニティやツールを作っていくということは必要でしょう。特に今その父親同士のマッチングが難しいので、何かしらのプラットフォームが必要ではないかなと感じております。近所の父親でつながったり、全く別の地域だけれど子育てや家事の悩みや良い子供との接し方を学ぶなど父親として子育てや家事のことをワイワイガヤガヤ話せる環境作りが必要だと感じます。

仮説4-5と7-8の対応案は連動しますが、本人の懸念の払拭のためにも本人だけでなく組織が意識をアップデートして仕組みを変えていく必要があります。今後の日本の労働人口を考えたときに男女が働きやすい環境を作るのは必須だと考えています。さらに無駄な時間や付加価値のない作業を省きながら生産性向上に取組み、長い目で見たときに働きやすい職場にできるか、育児や家事をきっちりとこなした人材も正しく評価され、不必要にキャリアの道を閉ざされないようにするためにはどのような制度があるべきなのかを議論して構築していく必要があると思います。

男性も育児や家事にコミットできる社会を目指すためには、まずはこの辺りから会話していくことから始めて行く必要があると感じています。

理想は高く、でも個人でできることから始めよう!

ここまで書いてきて感じたことは男性の育児や家事の意識と行動を変えることこそが女性躍進や女性の働きやすさに貢献しそうだなということです。

国が掲げるように女性の管理職の比率や国会議員の数を増やすなら、今多くの女性が担ってくれているケアに光を当て、男性もそれに貢献、さらに分担をしないとやらなければいけないことの総量は変わりません。パートナーのキャリアや社会とのつながりも大切にして欲しいポイントです。

これらはかなりチャレンジングな意識改革や制度改革、仕事の仕方の見直しが必要ですが、その努力なくしては誰かに負担を強いる社会になってしまいます。

一方でこうした社会の変革はすぐに進まないのもまた事実です。であれば我々一人一人がこれまでを振り返り考え方を改め、行動していくしかありません。まずはパートナーの方と将来どのようなキャリアをお互いが築いていきたいか、そのためにどのように先を見通し、どこで育児や家事の負担を分担していくかを話し合ってみるのもいいでしょう。

今そもそもケアにほとんど時間が割けていないという方は、少しずつで良いので子育てや家事のための時間を増やしていく、それもまた大切な事です。子供のケアや掃除や料理などは一朝一夕ではできませんが、継続すれば慣れてきます。

かくいう私もまだまだ改善の余地があるため、まずは自分自身、我が家から少しずつ良くしていきたいと思います。

男女お互いが理解し合い、助け合いながらこの国の宝である子供達を育み、素晴らしい未来を実現したいものです。

私たちにできることを一歩ずつ。

参考文献:




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