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3Dプリンターとブリコラージュ

「VIVISTOP for Bricoleur」はブリコラージュする人のためのシェア工作室。ブリコラージュとは、ありあわせの材料や道具を使って物を作ることです。なにか欲しい物があるときに、買わなくても、VIVISTOPの環境と手元にあるものを使ったらなんとかなった!そういうシーンを増やしたくて、場を開いています。

ありあわせの材料を使って物を作ろうとする時に役に立つ道具として、今私が最も推したい物は「3Dプリンター」

実は夏休みプログラム2022として実施した「ぴったりデジ工作」は、ブリコラージュのための3Dプリンター入門だったのです。

なぜブリコラージュに3Dプリンターなのか?
それをお伝えするために、ブリコラージュのものづくりについてもう少し詳しく考えてみたいと思います。

ブリコラージュってなんだ?

「ありあわせのもので作る」というと「廃材利用?」とか「リメイクってこと?」と言われることがあります。そういった要素がないわけではないのですが、廃材を使うことやリメイクすることそのものを目的とするのは、少々違和感があります。

それならば、なにが「ブリコラージュ」なのか。

「ブリコラージュ共和国」という研究プロジェクトの分析がおもしろいので、参照してみましょう。明治大学理工学研究科 建築史・建築論研究室の研究プロジェクトだというこちらのサイトでは、ブリコラージュ作品を次のように定義しています。

「ブリコラージュ」とは<ある文化圏における意味体系(樹状の意味分類の体系)の中から個別の要素を取り出し、その組み合わせによって、要素間に元の体系とは別の意味体系を取り結ぶこと>だと解釈できる。この一連の思考は、「体系移行図」(右図)によって整理できる。
(中略)
ブリコラージュ作品とは「体系移行図」によって説明が可能であることを原則とする。

出典:ブリコラージュ共和国

うーん、文章で理解しようとすると難しいですね!
ブリコラージュ認定された作品の「体系移行図」を実際に見てみましょう。(ちなみにこの傘置き場の作者は私です、認定ありがとうございます)。

画像出典:ブリコラージュ共和国
https://sites.google.com/view/bricolage-republic/ホーム/傘置き場 の図を横向きに改編

「傘かけ」を構成するために必要な要素「支柱・吊り材・水平バー」に、ありあわせの素材「ブレース・タフロープ・木の角材」が当てはめられていることが、体系移行図によって説明されています。

つまり「ブリコラージュ=あるものでなんとかする」ということは、

1. 欲しい物を構成する要素/パーツに
2. ありあわせの素材を当てはめて
3. 使える物を作る

と、パラフレーズすることができそうです。

ありあわせで、なんとかならない!

では実際に、ありあわせの素材を使って物を作るときのことを考えてみましょう。これまでにもnoteで書いてきた通り、羊の原毛をいただいたことをきっかけに糸を紡いだり、布をワタに戻したりするプロジェクトが進行中です。糸を紡ぐといえば「紡ぎ車」ですね!

1.「紡ぎ車」を構成する要素

10世紀頃、インドか中国で生まれた紡ぎ車は「はずみ車、ベルト、スピンドル、プーリー」で構成されています。スピンドルを高速回転させて繊維によりをかけ、ワタを糸にします。

2. VIVISTOPにある素材

VIVISTOP for Bricoleurには「なにかに使えそう!(でも何に?)」を物々交換するしくみがあり、ご近所や利用者の方が、おうちにある「なにかに使えそうなもの」を棚に預けていってくださいます。

分解物々交換の棚

物々交換の棚を見てみると、分解済みの自転車、なわとび、木の端材、それから羊の原毛が見つかりました。家に菜箸が余っていたはずなので、紡ぎ車を作るのに使えそうな素材は一通りありそうです。

3. 使える物に……、ならない!

しかしいざ作ろうとすると、大事なパーツがないことに気がつきました。タイヤの回転を、菜箸に伝えるパーツ=プーリーがありません!体系移行図で整理するとこんな感じでしょうか。

必要な構成要素はほぼ揃っているので、ここで諦めるのはなんとも惜しいですね。

3Dプリンターがあれば

ありあわせの素材でプーリーとして使えそうなものは見つかりませんでしたが、3Dプリンターがあれば、ささっとモデリングして、プリントしてしまえば良いのです!今は「Tinkercad」という初心者が使いやすいソフトもあるので、簡単な形ならモデリングだって楽勝です。

溝のついた円柱に菜箸サイズの穴を開けただけ。

小1時間でモデリングしてプリントして組み立てて、無事紡ぎ車が完成しました。

紡げます。
3Dプリントしたプーリー

21世紀の器用人の道具箱

VIVITAでは「自分の手で物を作る」ということを大切にしています。自分で作るということは、与えられた選択肢の外側に出ていくこと。大げさな言い方をすると、自由に生きることにつながると考えているからです。

自由に生きるために作る物は、必ずしも量産できなくていい。今、ここにある必要を満たすことができればいい。そうやってありあわせの素材でなんとかするものづくりは、たいてい一点モノです。

そして、3Dプリンターをはじめとしたデジタルファブリケーションは「今、偶然手にしている素材にぴったりあわせた物を、1つだけ欲しい」を実現する強い味方です。

レヴィ=ストロースは『野生の思考』のなかで、器用人(=ブリコラージュする人)の仕事について、次のように書いています。

彼の使う資材の世界は閉じている。そして「もちあわせ」、すなわちそのときそのとき限られた道具と材料の集合で何とかするというのがゲームの規則である。しかも、もちあわせの道具や材料は雑多でまとまりがない。なぜなら、「もちあわせ」の内容構成は、目下の計画にも、またいかなる特定の計画にも無関係で、偶然の結果できたものだからである。

レヴィ=ストロース著・大橋保夫訳『野生の思考』(みすず書房、1976年)

今は21世紀なので「もちあわせ」の中に3Dプリンターがあったとしても、ちっともおかしくないと思いませんか。

そして、偶然、東京都小金井市に来られる場所にお住まいの皆様。VIVISTOP for Bricoleurは器用人の道具箱のようなものです。「ありあわせのもので、あとちょっとがなんとかならない!」というときは、ぜひお越しくださいね!


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