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劇場で食べたお弁当

国立劇場が期間限定で配信している、歌舞伎『義経千本桜』を観ています。三役立ち回る尾上菊之助の気迫が凄い。話を理解して楽しめるように、歌舞伎on the webの演目案内を読んでおいたけれど、登場人物が多くて中々複雑。話している言葉は日本語なのに字幕が欲しいくらい難しい。ただ、少しでも物語を知っていれば台詞がなんとなく聞こえてくるので、次第に楽しくなってくる。

人生で二回だけ、劇場で生の歌舞伎公演を観たことがある。祖母に連れられて行った松本幸四郎の『勧進帳』と、もう一つは坂東玉三郎の『鷺娘』だった。特に『勧進帳』は私にとって初めての博多座、初めての歌舞伎鑑賞で、劇場で買ってもらった弁当にわくわくしたのと、花道を引っ込む弁慶の飛び六法が本当にかっこよかったのを、よく覚えている。坂東玉三郎の女形は、美しすぎて圧倒される。私の祖母の姉は玉三郎さんの大ファンで、全ての演目を語れるのではないかと思う。

もう遠く離れてしまったけれど、私は京都市に5年以上も住んでいた。それでいて一度も南座で観劇したことがないのは、とてもとても悔やまれる。週に3回は横を通っていたのに。冬になると、ずらりと役者の名前が書かれた木札が並ぶ「まねき上げ」を見ては、年末だねえと言って写真を家族に送ったりしていたのに。いつでも出来ると思ったら、一生チャンスを逃すかもしれない。次に劇場へ行けるのはいつになるのか、今は誰にもわからない。

「後でやろう」と思っていたことは何だろう。あのとき身につけたこと、あの時間がよかったねと思える時を、今は過ごせたらいいな。

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