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所長コラム⑲「有意味感」の意味を考える

 こんにちは、VCラボ所長の松本です。今回は、標題にある通り「意味」について述べてみたいと思います。

 ジャパンEAPシステムズでは、自らの活動理念における「顧客提供価値」を以下のように定義しています。

【顧客提供価値】
「なるほど」を生み出すことで、顧客社員と組織に「意味」と「余裕」と「信頼」を実感して頂く

出典:https://www.jes.ne.jp/company/index.html

 顧客に「意味」と「余裕」と「信頼」を感じてもらうことが、会社の理念とされているのですが、第一に挙げられているのが「意味」となっています。実はこの顧客提供価値は、アーロン アントノフスキー(Aaron Antonovsky)の「健康生成論」における「首尾一貫感覚」の「有意味感」を参考にしています。

 アントノフスキーの「健康生成論(salutogenesis)」は、以下のnoteなどでも解説がなされています。VCラボのさきみは、ネガティブ・ケイパビリティとの関係で健康生成論の「首尾一貫感覚(sense of coherence)」を論じています。

 また、産業ダイアローグ研究所の米沢所長は、ジャパンEAPシステムズのリワークプログラムの効果検証の結果、就労継続に関与する要因として、復職時点の体力・意欲、および首尾一貫感覚の数値改善が指標となる可能性が示唆されたことをレポートしています。

 これらの記事にも解説がなされていますが、首尾一貫感覚(sense of coherence)は、「把握可能感(sense of comprehensibility)」「処理可能感(sense of manageability)」「有意味感(meaningfulness)」の3つから構成されており、このなかで最も重要な要素が「有意味感」とされています。

 アントノフスキーを研究するマーチン オルソン(Martin Olsson)は、「有意味感(meaningfulness)」を、「whether we can perceive life’s difficulties as ‘welcomed’ challenges worthy of an investment of energy, engagement and dedication rather than as a burden that we would prefer to avoid.」と説明しています。(文献2)

 この英文を忠実に日本語に訳すと、『人生の困難を、回避すべき重荷としてでなく、労力やエンゲージメントや献身を投じる価値のある「歓迎すべき」挑戦として感じられるかどうか』という感じになるでしょう。

 仕事の意味が感じられているかどうかが、勤労者のメンタルヘルスに大きく影響を与えていることは、EAPの実践においても強く実感しています。「なんでこんなことしないといけないんだろう」「一体、なんのためにやっているんだろう」という言葉は、悩める勤労者の相談において、よく聞かれる言葉です。

 アントノフスキーの有意味感は、「重荷でなく歓迎すべき挑戦と捉えられるかどうか」が鍵になっています。それでは、いかにして有意味感を高めることができるのでしょうか?

 私は、慶應義塾大学SFC研究所の高橋俊介氏を座長とした「21世紀のキャリアを考える研究会」研究報告書(文献2)に示される以下の「3つの仕事観」がガイドになると思っています。詳細は表1の通りです。

『内因的仕事観』:やりがいや自己成長など、自身にとって心理的な意味合いが大きいという考え方。
『功利的仕事観』:働くこと自体が目的ではなく、お金や社会的地位を得る手段であるという考え方。
『規範的仕事観』:仕事とは自分のためだけではなく、社会や人々のためにするものだという考え方。 

参考:https://www.works-i.com/research/works-report/item/r_000255.pdf

<表1> 仕事観の構造化

出典:リクルートワークス研究所(2011年6月)「13社5000人調査で見えた仕事観・キャリア観の現実」、Works(106)「変化の時代、キャリアの罠」(文献3)

 年齢が高くなると、功利的仕事観だけでは仕事の満足感に繋がらないという研究結果も示されていましたが、3つの仕事観それぞれにおいて、仕事の重要性が感じられるかどうかが「意味がある」ということを構成していると言ってよいのではと感じています。

 「なんでこんなことしないといけないんだろう」「一体、なんのためにやっているんだろう」、こんな思いが頭をよぎったときは、この3つの仕事観を頼りに、自らの仕事の意味を振り返ってみるのがよいと思っています。表1の大分類、中分類、そして小分類と、自分の感覚を言語化してみることで、意味が再構成されていくはずです。

 振り返る際、意味を物語として語ることができると「首尾一貫性」を形成できると思います。是非、キャリアとメンタルヘルスの両面に精通するカウンセラーを活用してみて欲しいものです。

【文献】
(1)Martin Olsson, Kjell Hansson, Ann-Marie Lundblad, Marianne Cederblad(2006), Sense of coherence: definition and explanation. International Journal of Social Welfare(15),219–229)
(2)「21世紀のキャリアを考える研究会」研究報告書
https://www.works-i.com/research/works-report/item/r_000255.pdf
(3)リクルートワークス研究所(2011年6月)「13社5000人調査で見えた仕事観・キャリア観の現実」、Works(106)「変化の時代、キャリアの罠」

■著者プロフィール

松本 桂樹(まつもと けいき)
ビジョン・クラフティング研究所 所長
神奈川大学 客員教授

臨床心理士、公認心理師、精神保健福祉士、キャリアコンサルタント、1級キャリアコンサルティング技能士、健康経営EXアドバイザー、日本キャリア・カウンセリング学会認定スーパーバイザー。