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【so.】堀川 国子[始業前]

 商店街で営業している、母の知り合いの皮膚科がある。診察は9時からだけど、8時に行ったら特別に見てくれるので見てもらった所だ。私は毎年、冬の乾燥する時期になると指先がひび割れて痛むから、年が明けたこれくらいの時期にはいつもお世話になっている。先生にクリームを処方してもらって会計を済ませ、お礼を述べて外へ出た。吐く息は白く舞い上がってすぐに消えてしまう。私の所属する吹奏楽部はいま朝練の真っ最中だろう。なるべく休みたくはないんだけれど、授業やその他に影響の少ないのが今日しかなかったから、朝練だけ休ませてもらったのだ。商店街の出口の赤信号で立ち止まって待っていると、横の方から声をかけられた。

「やまちー、いいんちょー、おはよー」

 つぐみちゃんだった。さらに私の後ろには大和さんもいたらしい。

「つぐちゃん、委員長おはよ!」

「ふたりとも、おはよう」

 いつの間に大和さんが後ろにいたんだろう。声くらい掛けてくれたらいいのに。

「連休はどっか行った?」

 3人で並んで歩き出したら、大和さんが尋ねてきた。

「私は吹奏楽部の練習で学校来てた」

「そうなんだ。わたしも部活で来てたよー」

 そういえばバドミントン部が練習していたかもしれない。三連休とはいえ、結構みんな部活に駆りだされているんだろうか。

「つぐちゃんは?」

「えーっとね、実は…」

 つぐみちゃんは言いにくそうにしている。

「弓道部?」

 聞いてみたけれど違うらしい。

「昨日は無かったから、雑誌の…撮影? にね、行ってきたんだ」

「撮影? 何の?」

「雑誌の」

「だから何の雑誌よ」

 つぐみちゃんって何だか会話がワンテンポ遅いんだよな。

「ハナス」

 へえ。本屋の情報誌のコーナーにいつも平積みされているタウン誌じゃないか。

「すごい。何で?」

 大和さんは興味深そうに質問を続ける。

「年末に弟と駅前のへん歩いてたら、年明けの撮影でモデルやってくれないって…」

「それ、怪しい勧誘とかじゃないの?」

 よくありそうな話だから釘を差した。

「ちがうよ、名刺くれたし、昨日は編集部に行ってから、お店行ったし」

 名刺もらっただけでホイホイ行ってしまったのか。不安になるな。

「それで委員長とやまちーに相談なんだけど、来月も来て欲しいって言われちゃったんだけど、どうしよう?」

 橋を渡って正門をくぐった。グラウンドではソフトボール部の中島さん新藤さんのバッテリーがポジションについている。

「というより、何で撮影行っちゃったの? 学校に許可とかいるんじゃないの?」

 芸能活動的なことって、校則違反じゃないかしら。後で生徒手帳を読み返してみよう。

「ケーキ食べれるって聞いたから…」

 あっきれた。こんな軽い気持ちの行動で退学になったり、内申に響いたらどうするのかしら。

「つぐちゃん、とりあえず他の人には言わないほうがいいよ。あと全部断ったほうがいい。昨日撮ってもらったのも、やっぱ出さないでってお願いしたほうがいいよ」

 大和さんが比較的冷静なアドバイスを言ってくれたからほっとした。

「なんで?」

「騒ぎになるでしょ。退学になったらどうすんの?」

「えー、困る」

 困るだけで済めばいいけれどね。ロッカーで靴を履き替えて教室へ。ずっと大和さんが私の言いたいことを代弁してくれていたから黙っていた。

 教室に入ると、もじゃタイラー曽根さんとはしゃいでいる。

「朝練は?」

 不安になって橘さんに尋ねてみた。

「最初の8小節から進まなかったの」

「そう。ありがとう」

 すぐに追いつける。しかし、まったくだらしがない。放課後は先生と一緒に厳しくいかないとダメかもしれないな。

次の時間

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