【so.】大和 栞蔓[始業前]
うちの生徒と思しき人の後ろで信号待ちをしていたら、横から声をかけられた。
「やまちー、いいんちょー、おはよー」
つぐちゃんだった。全然気づかなかったけれど、わたしの前に立っていたのは、よりにもよって委員長だったのか。
「つぐちゃん、委員長おはよ!」
笑顔で挨拶してみたけれど、顔に出ていないだろうか。成り行き上、3人で登校する形になってしまったことが歯がゆい。つぐちゃんを真ん中に、委員長の反対側に位置取りして歩き始めた。わたしたちは選択授業が同じ書道クラスというだけでグループがそれぞれ違い、つぐちゃんとはそれでもたまに話すにしても、委員長とは全然交流がなかった。
「連休はどっか行った?」
ひとまず先手を打って話題を振ってみた。それぞれ部活の練習と答えるのは分かっていたけれど。
「私は吹奏楽部の練習で学校来てた」
委員長が真面目に答えたけれど、わたしもバドミントン部の練習で学校に来てたし、廊下を歩いてた委員長を見たし知ってたし。
「そうなんだ。わたしも部活で来てたよー」
同意と同情するような感じを込めて言ってみたけれど、委員長は特に反応を示さなかった。この打っても響かない感じ、いっつもそう。だからみんなに嫌われるってのが分かんないんだろうか。
「つぐちゃんは?」
どうせ弓道部だろうなと予測はできる。彼女は性格が良いしみんなに好かれるけれど、天真爛漫というかバカというか、おそらくは何も考えていないんだろうなあ。
「えーっとね、実は…」
なんだかモジモジしているつぐちゃん。
「弓道部?」
たまらず委員長が聞いたけど、つぐちゃんはそれを否定した。
「昨日は無かったから、雑誌の…撮影? にね、行ってきたんだ」
「撮影? 何の?」
「雑誌の」
「だから何の雑誌よ」
反応が鈍くてイライラするわ。雑誌ってどういうことだ。つぐちゃんがそんなのに出てるなんて聞いたことがない。
「ハナス」
つぐちゃんの口から出たのは、橘県の出版社が出しているタウン情報誌の名前だった。
「すごい。何で?」
「年末に弟と駅前のへん歩いてたら、年明けの撮影でモデルやってくれないって…」
「それ、怪しい勧誘とかじゃないの?」
委員長が冷静な意見を言った。
「ちがうよ、名刺くれたし、昨日は編集部に行ってから、お店行ったし」
ははあ、お店のレポート記事のモデルなんだな。やっと納得がいった。
「それで委員長とやまちーに相談なんだけど、来月も来て欲しいって言われちゃったんだけど、どうしよう?」
お堀端から橋を渡って、正門をくぐり抜けた。グラウンドでさっちんが大声で何か言っているらしい。
「というより、何で撮影行っちゃったの? 学校に許可とかいるんじゃないの?」
こういう時の委員長はいちいち正論を言うから頼もしい。
「ケーキ食べれるって聞いたから…」
委員長は呆れて何も言えなくなってしまった。
「つぐちゃん、とりあえず他の人には言わないほうがいいよ。あと全部断ったほうがいい。昨日撮ってもらったのも、やっぱ出さないでってお願いしたほうがいいよ」
「なんで?」
「騒ぎになるでしょ。退学になったらどうすんの?」
「えー、困る」
ロッカーで靴を履き替えながら、わたしは委員長に代わって喋りまくっていた。
教室で席について、先生が出欠を取っている時、正恵がカメラを構えているのに気がついたから、ほっぺたに指で丸を作ってポーズを取った。正恵が始終カメラを持ち歩いて写真を撮りまくっているのを快く思わない人がいるのは知っているけど、わたしは撮られるのが嫌いじゃない。むしろ撮られたいし注目を浴びたい。というかさあ! 前に座っているジンさんのさらに前、ちらっと見えるつぐちゃんの背中を見つめながら、だんだんと腹が立ってきた。なんでわたしじゃなくてあのコなわけ? わたしがモデルに選ばれるべきじゃないの?
次の時間
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