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【第6話】自分のこと好きな異性ってなんとなくキモい

 湯船に浸かりながら、一応、名刺をくれた人全員にお礼のメッセージを送った。その日のうちに来た返事。

Aさんは、
 「こちらこそ、ありがとうございます!近々二人で飲みにでも行けたら、この上なく嬉しいです。来週とか、空いてる日ありますか?」
 さすがだ、私を気に入ってるのが丸出し。ここまでガツガツされるとちょっと萎えるけど、一度くらいは会ってちゃんと話しておくべきか。

Bさんは、
 「お疲れ様でした。ありがとうございました。また何かの機会に会うことがあれば、そのときはよろしく」
 素っ気ない。彼はもう、ナシだな。しかし、社交辞令だとしてもちゃんと返信をくれる、良い人だ。

Cさんは、
 「こんばんは。今日はありがとうございました。お疲れ様でした」
 彼は、きっと他の女性と上手くいったのだろう。そんな気がする。田舎のご両親の価値観に合っている純朴な女性と、幸せになってください!

Dさんは、
 「どうもです。慣れてなくて上手く話せなくてすみません。メールありがとうございました」
 うん、やっぱりコミュ障すぎて、私が無理そう。なし。(一応、職場もググってみたけど、魅力を感じられなかった)

 そして、アヤミさん経由の森岡さんは、返事が来なかった。このまま来ないか、明日に期待か……。
 湯船に頭が沈むまで潜って、ぷはー!っと体を起こした。自分の、腕や足を改めて撫でてみた。本格的にデートを始める前に、脱毛の予約、追加しなきゃ。


✳︎


 家に帰ったら、案の定夫はいません。飼っているハムスターが、回し車をしている音がカタカタと部屋にかすかに響いていました。餌をあげなくちゃ。

 今日は、久しぶりに大勢の人と話し、しかもみんなが、「結婚」という目標を持って積極的に行動している現場の、熱量が高すぎる空気感にあてられてしまい、途中で帰りたくなったのが本音です。自分が独身だと、嘘をついていることの罪悪感も、キツかった。

 でもそんなことをしたらハルナちゃんに申し訳ないし……と思っていたところで、助けてくれたヒロ君が、救世主と言ったら大袈裟だけど、白馬の王子様……と言っても大袈裟だけど、とにかく、そんな風に見えたんです。

 LINEで、IDを検索してみました。すると、アイコンに彼の整ったお顔と、背景には今風の若者たちと楽しく過ごしているんだろうな。と伝わってくる、クラブっぽい空間が写っていました。
さて、どうしたものか……。

 これから夏が始まるのに、わたしは今のままでいいの?いつも夫はいないし、そろそろ繁忙期に入るから、介入もするなと言われているし。
 夏のせいにして、ちょっとだけ未知の世界に足を踏み入れた今日。もう少し踏み込んでみても、いいんじゃない?と思い、友達に追加のボタンをタップしました。

 「アヤミです。今日は、色々ありがとう。ヒロ君のおかげで楽しかったよ!約束通り、キミにしか連絡してないよー」
 お礼の一言に、スタンプを添えて送信しました。
ちゃんと、返事はくれるでしょうか?ドキドキしちゃいますね。


✳︎


 翌日、出社しながら満員電車に揺られる人々の左手、薬指を眺めていた。
自分より明らかに年上かな、と思う男性は、思った以上に指輪をしている人が多くて驚いた。今まであまり意識しなかったけど、電車で密着されたらウエッと思ってしまうようなおじさんも、付けていたりして。
 加齢臭のする彼にも、帰りを待っている妻子がいるのか。家族のために一生懸命、この地獄のような通勤に耐えて、何十年も働き続けているのか。

 逆に女性は、この時間帯に電車に乗るような女性は、指輪をしている人が少なかった。結婚より仕事を選んだのかなあ?その気持ちもわからなくはないけど、やっぱり私はそこまでは割り切れない。
 昔から、漠然と「お母さんになってみたい」と思っていたし、せっかく女に生まれたのだから、女の特権の妊娠というものも、してみたい。

 昨日の収穫と言うと、Aさんたったひとりなのだけど、森岡さんからのメールの返信も少しだけ期待している。


 そういえば、ミキと会う約束の話も進めないとな。でも出来れば、彼氏というか、婚約者をゲットしてから会いたい。なので時間が全然、足りない。
 早い人だと、出会って3ヶ月で結婚!なんて話も聞いたことはあるけど、私はどうだろう……せめて、半年は付き合いたい。

 もし、手段を選ばずに結婚を最終目標にするならば、妊娠が先でもいいかも?とまで、思っている。結婚はゴールではなく、スタートだとよく聞くけど、スタート地点にすら辿り着けず、婚期も排卵可能な時期も逃してしまったら、元も子もない。

 その辺、アヤミさんはどうなんだろう。Facebookを遡っていたとき、LGBTQの人たちが集まるイベントの投稿もしていたから、子どもは作らずにDINKsとして今後も生きていくのだろうか。
 彼女には、その方が似合っている気もする。昨日のバイトとのアレも、見ちゃったしね。


 地獄の出勤を終えて、午前中の仕事も終えて、昼休みに入った。
スマホを取り出し、LINEをチェックしようとしたら、プライベート用のメールのアイコンにバッジが付いている。
 もしかして!?と思って、開いてみたら……森岡さんからの返事が来ている!

 「こんにちは!返信、遅くなってしまってすみません。
友人って、アヤミさんですよね?確かに、お話しして、ハルナさんのことを聞きました。
 僕もぜひ、会ってお話ししてみたいです。都合の良い日があれば、連絡いただけると嬉しいです。」

 きたあああ!!!やった。すごく嬉しい。どんな人か全くわからないのに、このメールの返信のタイミングと、文章と、一人称が僕なところと、アヤミさんのお墨付きっていうのと、加瀬亮似っていうのと……よくわからないけど、なんだかとても気になってしまう人だ。

 すぐに返信するべきか迷ったけど、昨夜Aさんに対して私が萎えてしまったように、がっつかれすぎるとモヤッとするのが人のサガだと思う。
 大好きな漫画家の東村アキコさんが言ってたけど、「自分のこと好きな異性ってなんとなくキモい」それ、すごくわかるから。
だから、今夜返事をしよう。

 なんだか、面白くなってきた。アヤミさん、本当に感謝します。


連載はマガジンにまとめてあります。
https://note.com/virgo2020/m/mb26b6eec578a




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