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このお茶を口に含むと思わず目を閉じてしまうから不思議だ

宇治橋のたもとの一軒の茶屋〈通圓〉。

京阪電車・宇治駅の真正面という立地も手伝って、宇治観光の折に立ち寄ったことのある人も多いはず。

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風格ある店構えに加え、店内いたるところにお宝が展示され、この店の長い歴史に気づかぬまま店を出る人もないだろう。

創業は平安期末、永暦元年(1160)。
とはいえ、まだお茶が一般的でないこの時代の〈通圓〉もまたお茶とは関係なく、一介の武士が宇治橋の東詰に庵を結んだまでのこと。

その後、鎌倉室町期に宇治茶が最高級茶として名声を上げるなか、〈通圓〉は宇治橋の橋守を務めながら、道行く人々にお茶を供したという。
このあたりが茶屋としての〈通圓〉の歴史の始まりといえるだろう。
秀吉や家康も休んだ記録も残っているそうだ。

江戸期の『都名所図会』(1780年)に「宇治橋 通圓が茶屋」と記され、宇治橋のたもとに茶屋が見える。

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通圓が茶屋 橋のひかし爪にあり いにしへよりゆききの人に茶を調てて茶茗を商ふ 茶店に通圓が像あり むかしより宇治橋掛替のときは この家も公務の沙汰とし造りかへあるとなり

宇治橋の架け替えの際に茶屋も同時に幕府によって建て替えられたとあり、〈通圓〉が橋守として並々ならぬ庇護を受けていたことが分かる。

同じく江戸期の宇治名所案内『宇治川両岸一覧』(1863年)にも〈通圓〉が載り、向こう岸には宇治平等院の姿も見える。

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少し前置きが長くなった。
歴史の話になるとどうにも筆を持ち替えるタイミングを逸する。

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頼んでいた茶だんごとお茶が運ばれてきた。

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深い緑のかわいいだんご。
甘みはほのかに残る程度で、しっかりお茶の味。
京都には、正直何を食べているか分からないような観光土産的茶だんごが蔓延しているが、ホンモノの茶だんごが食べたければ迷わず〈通圓〉へ。

そしてもちろん、お茶は宇治茶。
現代の定義で宇治茶とは、京都・奈良・滋賀・三重で栽培され、京都で製茶されたお茶のことで、甘み・旨み・渋み・苦みのバランスがよいとされる。

緑色の深蒸し茶に慣れた東日本の人が見ると、何これ?出がらし?と文句のひとつもこぼれそうな薄い黄色の浅蒸し茶だ。
ところがひとたび飲んでみれば、この色からこの香り?と驚くはず。

製茶の最初の茶葉を蒸す工程で、蒸し時間が30秒ほどのものが浅蒸し、1~2分ほどのものが深蒸し。
浅蒸しは淹れるのに時間をかける必要があるが香りよく上品、深蒸しは香りや渋みが弱いがすぐ淹れられる、というのが特徴だ。

〈通圓〉では淡い色合いの、香り高い宇治茶を心ゆくまで堪能できる。
宇治川の眺望を楽しんでいたのに、このお茶を口に含むと思わず目を閉じてしまうから不思議だ。

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店を出たら橋を渡り、財布から10円玉を取り出すのはお約束だ。

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(2022/3/19記)

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