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僕にとって料理とは、健やかなるときも病めるときも

昨日の天気はいただけなかった。
晴の予告もなければ雨も孕んでいない、いたずらに続く曇天。

人生すべてが計画的である必要はないが、ここまでいけばこうなるというある程度の見通しはその日の時間に彩りを加える。
昨日の空にはそれがなかった。

朝から何もする気が起きず悶々とし、僕は沼に落ちていったのだった。

午後になって、僕は近くのスーパーへ買い物に出かけた。
外を歩いて気分転換というのもあるし、そのあとの料理を思えばワクワクできるのではないかという淡い期待もある。
忙しいときこそ無心に料理、というのはよくやるが、何もやる気が起きないときに料理、というのも僕にとってはよさそうだから。

スーパーではなじみの店員さんがちょうど出勤日だった。
以前「つかの間のファンになる」という記事にも書いた店員さんだ。
その店員さんを見かけたらちょっと嬉しいというだけだが、最近その店員さんがえらく遠くから目を丸くして僕を見つけたサインを送ってくれる。
昨日はすれ違いざま、
「今日は来はるん、いつもよりちょっと遅い?…ですか?」
しれっと語尾を足すほどにタメ口が増えてきたのも、嬉しかったりする。

ただもうそんな些細なことだけで、塞いでいた心は少し軽くなるものだ。

鮮魚コーナーに行ってみた。
今日も目が合った魚を連れて帰って丁寧にさばこうと思って。
でもちょうどよい魚がなかなか見当たらない。
と、この方々が目に飛び込んできた

今が旬らしい、北海道産クリガニ。
昨日出会うまではその存在をまったく知らなかった種類のカニだ。
甲羅の幅は10cmほどの小さなカニで、2杯398円と手頃。
毛ガニの一種なのか、あちこちに毛が生えている。

塩茹で15分、ドキドキしながらさばいてみたら、カニ味噌たっぷり。
身は想像よりは少なかったが、この価格にしてこれはかなり美味。
北海道で盛んに食べられているというのも頷ける。

小さいといえど、カニはカニ。
やはりほじくるのに意識の全集中が必要で、せっかく炊いた初夏のトウモロコシごはんがカピカピになるという残念なお知らせもあったけれど。

余すところなく食べ終えた頃にはすっかり気分もアゲアゲになっていた。
やはり僕にとって料理とは、健やかなるときも病めるときも、いったん自分をリセットすることのできる妙技らしい。

(2024/6/26記)

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