2週間の思い出はあっさり再びマズいメシに上書きされ
高1の夏休み、2週間の語学研修でシアトルに行った。
参加したのは兵庫県下の高校1年から3年までの70名ほどで、事前に行われたテストで4クラスに分けられ、ワシントン州立大の寮に暮らした。
わずか2週間なので、アメリカ体験が関の山だったけど。
シアトルの夏は高緯度ゆえ日没が遅く、夜の8時というのに十分明るい。
16時間の時差で寮に着くなり寝てしまったクラスメイトを、「授業に遅れるで!」と朝の8時を装って起こし、慌てて支度をする様をみんなで笑った。
座学だけでなく、町で観光や買い物をするなど実地での語学研修もあった。
その時の笑うに笑えないエピソードについては、以前に書いたことがある。
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食にはまったく恵まれなかった。
学食はどれも味が大雑把で、夜こっそり寮を抜け出して近くのスーパーで輸入のどん兵衛を買い、部屋で食べたりもした。
教師がくれた駄菓子はどれも色がどぎついうえ味もなじみなく、クラスメイト全員、申し訳ないが見えないところでペッと吐き出した。
最終日に学食で見つけた炊き込みご飯は自分たちへの特別な餞別メニューと信じて疑わず、皆多めによそってもらった。
しかし、日本食に飢えた目が、インディカ米のライスサラダを炊き込みご飯と見誤っただけだったのだ。
しっとりもっちりあったかを想像しながら口に入れた冷たいパサパサは、喉を一切通らなかった。
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2週間のうち、3日間だけホームステイした。
ホストファミリーは親切だったが、噛みきれない分厚いステーキに、つけ合わせはポテチ、そして飲みきれない量のコーラが3晩続くのはツラい。
日曜の朝は礼拝に行くというから、初めてのことにウキウキした。
しかし、パンと葡萄酒を分ち合う儀式を知らなかった僕は、順に渡されていくのを今か今かと待ち構え、ついに回ってきたとばかり手を伸ばし――
その後、ホストにそのことを何度つっこまれたかしれない。
いやそんなことより僕は、礼拝のあとにモーニングだといってマクドへ行き、また飲みきれない量のコーラを頼んだホストにつっこみたい。
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シアトル最後の晩、「ジャパンナイト」と題してアメリカの関係者への謝恩の催しが開かれた。
千羽鶴を折ったり、女子は持参した浴衣に着替えて盆踊りを披露したりして日本文化を紹介したのだ。
密かに心を寄せていた1学年上の先輩の浴衣姿に居ても立ってもいられなくなり、ツーショットで写真をと頼んだら快く応じてくれた。
天にも昇る心地で、2週間のマズいメシのことなど一瞬で吹っ飛んだ。
帰国後、現像してできた写真を見ると、先輩のかわいい笑顔の横でガチガチに強ばった自分の顔、そして2人の間には人1人分くらいのスペース。
そして大量に撮影された食事たち。
2週間の思い出はあっさり再びマズいメシに上書きされ、僕のほのかな恋心はこうして儚くついえたのだった。
(2021/8/20記)
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