父にとって先払いなど言語道断だったかもしれない
交通運賃は、関西では後払い、関東では先払いが主流だ。
よくある東西差のひとつとして語られることが多い。
とくにはっきり分かるのがバス。
多くの場合、関東では前扉から乗ってすぐ支払うが、関西では後扉から乗って支払いは降車時だ。
乗車区間によって運賃が変わる路線は後払いしかあり得ないと思っていたが、関東ではそれさえも先払いの路線があってびっくりした。
乗車時にどこで降りるか申告して支払うスタイルだ。
東京に暮らしていた頃、先払いバスには最後まで慣れなかった。
当時まだICはなく現金払いだったが、ちょうどの小銭がない場合、先払いだとまず両替の儀式を済まさないことには乗れないのだから。
とくに後続がたくさんいるようなときは、ヒヤヒヤものである。
乗車前に小銭がないことが分かっていても停留所では何もできない。
これは便利なはずのIC乗車でも同じで、残高が不足していれば乗車時にまずチャージの儀式が必要だ。
後払いなら出発後にいつでもチャージや両替ができ、迷惑をかけないのに。
交通システム学的には先払いのバスのほうが遅延が少ないとされるが、本当なのかな。
電車でも、関東はICに初乗り分の残高がなければ入場できないが、関西では1円でも残高があれば入場できる(ちなみに東海では0円でも入場できる)。
関西では、不足分は下車駅でタッチするまでになんとかすればいいのだ。
これも関西は後払い、関東は先払いの精神の名残といえるだろう。
乗車時の改札が閉ざされて後続に迷惑をかける光景は関西ではほとんど見かけないが、たびたび見られた関東ではオートチャージに行きついた。
そういえば思い出した。
中学生の頃、父と2人でマクドに行き、注文時に支払うスタイルに父が激怒したことを。
人生初マクドだった父は、まだ商品を受け取っていないのに請求するとは何ごとか!とカウンターで怒鳴り散らしたのだった。
江戸に比べて高度に経済が発達した大坂では、すべてがつけ払いの信用経済であり、これが交通運賃の後払い文化を生んだともいう。
関西の私鉄のIC・ピタパはチャージがいらず、ひと月分の利用代金が月末に請求されるという、つけで乗れる後払い方式だ。
昭和の大阪商人だった父にとって先払いなど言語道断だったかもしれない。
(2023/7/14記)