髪を切りに行ったら何かが起きる気しかしない
三宮の行きつけの美容室で、半年に一度くらいカラーをお願いする。
アッシュの8トーン、ときどき9トーン。
カラーを塗り込むとき、耳に染料がつかないように耳カバーをかける。
シャワーキャップのミニ版のようなやつ。
ところが僕は、老後の金運を皆に心配されるほど耳たぶが小さい。
耳カバーをかけるや否や、ゴムがジリジリと縮み始め、すぼまっていく。
耳たぶに引っかかりがないからだ。
そしてまもなく、耳カバーはこうなる。
ちょっとした自慢の武器だ。
***
「もう少し上まで切るなら…フフ…ごめんなさい」
横をすっきりカットしてほしい…と頼んだときのことだ。
担当美容師が「いつもより上まで切ります?」といいながら、クシを当てて耳の上あたりの髪の向きや量を見る。
そしたら出てきたのが「フフ…」だ。
――え? どうしたんですか?
「…フフ…頭…フフ…大きくて…フヒ…いらっしゃるので…フヒヒ…」
・・・。
耳たぶは小さくとも、頭はかなり大きいらしい。
***
高校生の頃は、まだ散髪屋に行っていた。
「だいたいこんな感じかな。どう?」
ひととおり終わって、鏡で横や後ろを見せてくれる。
うーん…
もう少し切ってほしいと頼んだら、即座にこう言われた。
「お客さんね、これ以上切ると中国人みたいになるよ」
それってつまり、こういうことだったのだろうか。
いや、これは満州人か。
***
同じく高校生の頃、パーマをお願いした。
準備をするのは、20代前半くらいのグラマーなお姉さん。
突然、自身の胸を僕の顔に押しつけてきた。
いや、とても大きな胸だったから、顔の上に置いたというのが正しい。
うぶな高校生の反応を見て楽しもうというのか。
それともこの店は、客の顔の上に胸を置く決まりになっているのか。
高校生にとってはあまりに刺激的なシーン。
いや、高校生でなくても刺激的すぎる。
こんなところでそんな…お姉さん…
これからはじまるムフフな時間を思い、心でガッツポーズ。
しかしそんな甘美な想像は5秒くらいで消え失せる。
…うっ…お姉さん…おねえ…お…
窒息死するかと思った。
***
髪を切りに行ったら何かが起きる気しかしない。
(2022/10/18記)
サポートなどいただけるとは思っていませんが、万一したくてたまらなくなった場合は遠慮なさらずぜひどうぞ!