遅れがちな乗り物に向ける視線
街のバスって遅れがちだ。
電車と違って、道が混めば進めないから、当然といえば当然だけど。
できることならあまり乗りたくない。
ある日、運転席の近くに立ったらドライバーの手元に運行予定表が見えた。
それによると、まだ二つ目のバス停なのにすでに2分遅れと分かった。
その後もさらにどんどん遅れていく。
よけいなものを見てしまったばかりにイライラが募る。
終点の一つ手前のバス停では、なんと10分も遅れている。
確かに夕方で道は混んでいるとはいえ、10分遅れはいただけない。
いつも混むなら、最初から時刻表をゆっくりめに書いておけばいいのに…
ところがだ。
終点に着いた時、再びその運行予定表をチラリと見てみたら…
なんと予定時刻ぴったりの到着ではないか!
一つ手前で10分遅れだったのになんで? どういうマジック?
答えはこうだ。
たとえば、始発の A を 8:00 に出発し、以後2分ごとにバス停を進んで、終点の P に 8:30 に着く便があるとする(下表・「実際の運行時刻」欄)。
ところがドライバーの手元の運行表では、A を出発した後、なんと1分ごとに次々とバス停を進んでいくことになっている(上表・右欄)。
あり得ない快進撃をすることになっているのだ。
となると当然、バスは記載の時刻より遅れていく。
なぜあえてそんなことをする?
それはバスが決められた時刻より早く出発してはいけないからだ。
乗ろうと思っていた便が予定より早く出ていたら誰だって困る。
ん? それは分かるけど、だからといってなぜ早い時刻を書いておく?
もう少し説明を加えよう。
バス停やドライバーの手元に、実際の運行時刻がそのまま記載されていたとする。
たとえば C なら 8:04 というように。
ところが、何かの偶然でスイスイ進んで C に 8:03 に着いてしまったら、バスはそこで 8:04 まで待たねばならない。
1車線しかなく後続車両に迷惑をかけるとしたら、この1分は地獄のような時間となることは容易に想像がつく。
できればバス停で時間調整をすることなくすぐ出発したい。
ならばバス停には、本来あり得ないほど早い時刻を記載し、常に遅れるようにしておけばよい。
結果、終点の一つ手前の O を10分遅れの 8:28 に出発することになるが、終点 P には予定どおり 8:30 に到着する。
バスはどんどん遅れていくが、すべて予定どおりだったというわけだ。
すべてのバス路線でこのようなカラクリが仕込まれているかは分からない。
でも、バスにはバスなりの工夫があるのだと知ってから、バスという遅れがちな乗り物に向ける視線は少し柔らかくなったような気がする。
(2022/6/18記)
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