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きっと子猫は70年前の賑やかな子供たちの匂いを感じていただろう

小学校の校庭に古びた倉庫がポツンと建っていた。
中には体育関連のライン引き、運動会の大玉などが押し込められていた。
体育倉庫らしく、粉くさいようなカビくさいような空気が充満していた。
一方で体育倉庫らしからぬ、瓦屋根で木の床の一風変わった建物だった。

小2の頃、休み時間にその倉庫の近くからミーミーと鳴き声が聞こえた。
はたして倉庫のわきで細く小さな子猫が弱々しく鳴いていた。

どうする? 友達同士、顔を見合わせる。
なんとかしなければ消えゆく命というのは誰の目にも明らかだ。
倉庫は幸い施錠されていなかったから、ひとまず子猫を倉庫の中に隠し、授業に戻った。
しかし子猫が気になって授業どころではない。
同じ秘密を知っている友達とは何度となく目があって、やはり同じ気持ちでいるようだった。

昼休み、給食を急いで食べ、友達と倉庫に向かった。
持ってきた牛乳を前に置くと、子猫は一心不乱にピチャピチャと舐めた。
思わず友達同士、小さくガッツポーズ。

そうしたことが10日ほども続いただろうか。
いや、子供の感覚でそう記憶しているだけで、実際は3日ほどだったかもしれない。
昼休み明けの授業で、担任が静かに語り出す。
先生は知ってます、と。

あぁ、バレてしまった。
なんで? 何がアカンかった? と思ったが、もちろん先生は初日からお見通しだったことだろう。

命を助けようとするみんなの行動は褒めたいと思います。
でも、だからといって学校で猫を飼っていいとはなりません。
だいたい、いつまでそれを続ければいいのか分かる人はいますか?
続けた先はどうなるでしょう。
もし続かなかったらどうなるのでしょう。
その答えを知ったうえで面倒を見るのが飼うということです。
みんなはどうすればいいと思いますか?

みんなうつむいてしまう。
しばらくの沈黙のあと、女子が手を挙げる。

あたしが連れて帰って、家で飼います。
今も2匹飼ってるし、大丈夫です。

先生が嬉しそうに頷く。
みんなの顔がパッと明るくなる。
そうして10日(3日?)にわたる秘密から解放された。

その体育倉庫は、元々は幼稚園の園舎だったのだと後に知る。
明治37年に開園した当時の建物が体育倉庫として使われていたのだった。
倉庫としては何かと使いにくかったが、元は教室だったのだと聞くとそれも納得した。

そして何より、子猫をかくまうには最適だったと胸をなで下ろした。
僕たちにはカビくさい空気しか分からなかったけれど、きっと子猫は70年前の賑やかな子供たちの匂いを感じていただろうから。

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(2022/12/27記)

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