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おそらく彼の狙いどおりだったんだろう

神戸を走る〈ポートループ〉。
昨年4/1に運行を始めたばかりの、連接バスと呼ばれる2両連結バスだ。

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先日、大人の水族館〈アトア〉に行くときに乗ってみた。
三宮からアトアは歩いてすぐだが、ちょっと乗ってみたかったのだ。

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神戸観光にとって、三宮とウォーターフロントを結ぶ交通網が乏しいのが最大の弱点とされ、長らく交通機関の新設が叫ばれてきた。
市長は、専用軌道を走る路面電車〈LRT〉(ライトレールトランジット)の新設を構想しているが、その前にまずお手軽な連接バスの導入となった。
将来LRT構想が実現した際には、このポートループは廃止されるだろう。

***

三宮駅前から乗り込んだ。
平日の夕方ということもあって乗客は数組のカップルだけ。

真新しい車内をキョロキョロ眺める。
運行開始から半年経つというのにまだまだ新車の香りが漂う。

いよいよ出発だ。
車がゆっくりと動き出し、運転手のアナウンスが車内に流れる。

「今日はポートループにご乗車いただき、誠にありがとうございます」

はいはい。

「このバスは感染症対策として、前から吸って後ろから吐いています」

ん? なんか今ふつうの言い回しではなかったような。
…まぁいいか。

「できたばかりのアトアにお越しのお客様…」

あ、僕だ僕。
いや、他の乗客を見てもピクッと反応しているから、たぶんほぼ全員が同じ目的地なのだろう。
さすが、できたばかりのアトア。

「…のお客様は〈新港町〉でお降りください。運賃は210円になります」

そうなんや。
わかった新港町やな、と思っていたら、

「まぁ一律なんで、どこまで乗っても210円ですけど」

え? そんなつぶやき挟む?

「えー、このバスは連接バスといって独特な動きをします」

ん、ん…?

「後ろからどんどんつかれてくるバスです」

えーっ! 後ろからどんどん疲れるってなにー?

たぶん運転手としては、連接バスの独特な動きの特徴として「交差点で曲がったときに、まず前の車両が曲がり、続いて後ろの車両が徐々についてくる」ということを言いたかったのだろうと少ししてから気づく。

が、一風変わった言い回しにすでに乗客の誰もがクスクス笑うようになった後だったから、耳に飛び込んできたアナウンスは脳内で「どんどん疲れる」と漢字変換された。
おそらく他の乗客も同様だっただろう。

車内にほんわか楽しい雰囲気を残して乗客全員、新港町で降りた。
ニコニコの運転手を見ると、おそらく彼の狙いどおりだったんだろう。
いいバスだ。

(2022/1/5記)

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