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【一曲入魂】 #7. Supermodel - SZA

オルタナティブR&Bの傑作『SOS』を2022年末にリリースした SZA(シザ)。彼女のデビューLP『Ctrl』(2017) をふと聴き直してみると、こちらもやはり規格外の完成度と満足感。

先日、『Ctrl』の中でも特に、オープナーの「Supermodel」に改めて衝撃を受けました。今回は、この1曲を起点にした、ちょっとしたコラムみたいな感じで。


SZA こと Solána Imani Rowe のデビューLP『Ctrl』の本質は、そのタイトル通り、依存とセルフラブの葛藤にがんじがらめにされた自分を「コントロール」しようする彼女のナラティブ。そのオープナーを務める「Supermodel」では、過去に関係をもった男性への依存が歌われる。

3つのコードのギターループだけで成り立ったトラックアレンジは、まさにオルタナティブR&B的であり、インディロック的。その上に SZA のふらついたフロウが重なる。中盤からベースが加わり、すぐにシンバルが這ってくるように静かに轟き、空白を作ってからタムの襲来。そこからビートへと展開していき、気持ちが煮え切る前にフェードアウト。「あぁもうちょっと聴きたかった!」という気分になる。そして次のトラックへ。シンプルながらも、これ以上ない最高の演出だ。Billboard の YouTube チャンネルでは、Pharrell Wiliams(ファレル・ウィリアムス)によるビートを却下した秘話が明かされている。正しい選択。


今度は歌詞に注目してみたい。

I could be your supermodel if you believe
If you see it in me, see it in me, see it in me
I don't see myself
Why I can't stay alone just by myself?
Wish I was comfortable just with myself

Supermodel. SZA. 2017

あなたが信じてくれたらスーパーモデルになれるのに
私の中に見出してくれたら
自分がわからない
どうして私は一人でいられないの?
一人で心地よく居られたらいいのに


「あなたにとっての」スーパーモデルになりたい。この曲を聴いて私が連想するのは、India.Arie(インディア・アリー)のデビューシングル「Video」(2001)。彼女はコロラド州出身、2001年デビューのネオ・ソウルシンガーで、Soulquarians(ソウルクエリアンズ)を中心とする当時のネオ・ソウルブームの重要人物。


SZA の歌唱や音楽スタイルは、90年代以降の王道R&Bというより、India.Arie や Erykah Badu(エリカ・バドゥ)のようなネオ・ソウル・クイーンの文脈から紐解くことができる。「Video」のリリックは以下の通り。

I'm not the average girl from your video
And I ain't built like a supermodel
But I learned to love myself unconditionally
Because I am a queen

Video. India.Arie. 2001

私はメディアの綺麗な女の子じゃない
スーパーモデルみたいな身体でもない
でも自分を愛する方法を知ってる
私はクイーンだから

アチチュードとしては SZA「Supermodel」と正反対。自分を愛するには他人の承認は必要とせず、そもそも「スーパーモデル」の座を目指してすらいない。

しかし、誰もが India.Arie のように24時間強く生きられるわけではない。人間は矛盾だらけの生き物だ。美しく、醜い。そんなことを考える我々のため息を、SZA は性愛の音楽へと昇華する。


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