風Vn2024:表板「うちわ」を浮かせる効果(音の立ち上がりの早さを作る)
数日前の記事で、表板「うちわ」を浮かせる仕組みを
説明しましたが、どうでしたか?
実は、ヴァイオリンはこの仕組みを入れることで
演奏者が口には出さへんけど、おそらく、実は一番欲しい
ヴァイオリンの「音の立ち上がり」の早さ
に関係する「高い性能」が得られます。
「細2012」:なんで演奏者は、「音の立ち上がり」の早さが欲しいの?
「私」: 人それぞれとは思うけど、私の感覚では
軽い短い弓で音が出てくれること、そして、気持ちよさ、かな。
曲のイメージが作りやすくなる気もする。
「細2012」:私を2018年に展示会に出品した時は、
ミニコンサートの演奏者、気持ちよかったって
言うてくれたもんな。
「私」: モーツァルトのロンドやったけど、速いフレーズの中で
少しずつテンポアップしているのを聴いて、
そんな風に演奏がしたかったんや、と後で気が付いてん。
そして、演奏後に、初めて見た奏者の「満面の笑顔」。
今でも忘れられへんいい表情やった。
ほんで、気が付いたんやわ。
プロの演奏者の欲しい性能ってこれやったんや、ってね。
「細2012」:そう言えば、あの時、初めてバロック駒を取り付けたよね。
「私」: どの弦を弾いても、駒が右足→左足と同じ動きをするように
作りやすいのが、バロック駒なんだ。
そして、裏板の反作用をバスバー側に流しやすい利点がある。
ええことだらけやねんけど、、、。
「細2012」:みんな、はよ気ぃついたらええなぁ。
「音の立ち上がり」の早さを実現するためには、
「駒右足(魂柱側)の動きを、駒左足(バスバー側)が
遅れずに追跡する性能」が必要になり、
これを「トラッキング性能」と呼ぶことにします。
以前にも説明しましたが、音を作る波形は、
1000分の1秒という単位です。
そして、「トラッキング性能」とは、
下図のように、さらにその10分の1程度、
つまり、1万分の1秒以内の遅れで、
駒右足に駒左足が追従できる性能を作る、
ということです。
さあて、1万分の1秒の遅延が許されない仕組み作り、
1万分の1秒 = 100μs かぁ。
ふ、ふ、ふっ。
長年、メカトロニクス開発の中で生きてきた技術者にとって、
気持ちが良い、、いや気持ちが引き締まる単位になってきました。
まあ、ちょっとした変態かも。
では、なぜ表板「うちわ」を浮かせる仕組みが
「トラッキング性能」を上げることに繋がるのか説明します。
下図のように、調弦をして、安定した状態では、
弦の張力で駒を押し下げる力(①、②、③)と
裏板の反作用、表板を押し戻す力(R1,R2,R3)が
バランスの取れた状態になります。
ここから、演奏で弦が振動し始めた時、下図のように
まず駒右足が押し下がります①。
同時に、裏板も押し下がります②。
ここで考えて欲しいのは、
裏板が押し下がっている最中は、反作用は消える(減る)
ということです。
極端に言えば、裏板を突き飛ばしてしまえば、
接地していないので、上方向の力はなくなります。
ここでは、反作用が消えたとして、話を進めます。
反作用があることでバランスがとれていた状況は、
①が押し下がったことで一変しました。
特に駒左足③にとってみれば、支えが急に無くなったのです。
弦の張力変化が、駒左足③に加えられる前に
駒左足は「短時間で」「素早く」押し下がります。
この「素早く」が重要なのです。
元々、G,D線の張力は弱いので、さらに一押しするための
十分な力がないのです。
しかし、押し下がっている最中であれば、頑張れます。
聴こえる音になるのです。
以上が、「トラッキング性能」として
遅延1万分の1秒を実現するための手順です。
そして、これが、
「音の立ち上がりの早さ」を実現します。
締めに、「立ち上がり」の遅い楽器での練習を、
会話で表現すると、こんな感じか。
「娘」 : おかぁさん、ご飯できたー。
---10分経過---
「母親」: あんた、夕食前に宿題かたずけてしまいやー。
---10分経過---
「娘」 :さっき、なんか言うてた?
「母親」:なんやったっけ、
うーん、忘れてしもた。
「母親=脳」は、「娘=耳からの音」が遅延すると、
何をやろうとしていたか、思い出すのが大変なのです。
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