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『滅びの前のシャングリラ』

2021年本屋大賞ノミネートの話題作。
タイトルに惹かれ、色々なサイトのレビューも絶賛の嵐だったので今更ながらに読了。

※注意※
辛口レビューです。
あくまで一個人のレビューとして許容できる人のみお読み下さい。

(1)おすすめ度 ★★☆☆☆

特にこんな人におすすめ↓

家族の物語が読みたい
青春モノが読みたい
幸せとは何かについて考えたい

(2)ざっくりすぎる内容

・一ヶ月後、小惑星が衝突し地球が滅びる …突然の世界終了が宣言された中で、いじめられっ子の男子高校生 江那友樹と彼が思いを寄せる同級生で、学校のアイドルである美少女 藤森雪絵の学校生活から話は始まる。
江那君の母親は未婚の母だが、恵那君も知らない父親や雪絵ちゃんの家族なんかも絡み合ってストーリーは進んでいく。

・平凡で普通の人々が次々起こる突然の不条理な状況に直面しながらも、自分達なりの幸せを見つけたり発見したりしていくハートウォーミングなお話。地球滅亡ものだが、これ系によくある“最後の数行に驚愕の大どんでん返し!”とか、ビックリなラストが待っているとか、お話そのものに綿密に伏線が張られていたりとかの「読者を驚かせる系」のお話ではない。

・第一章を読んでいる途中でタイトルの意味がわかるし、ミステリー的要素はない。

・個性的なキャラは出てこない。

・地球最後の日系の超超超超×100王道ストーリー。

(3)文体

・癖がなく読みやすい。

・例えが非常にわかりやすい。

・表現がきれいなので残酷描写が苦手な人には読みやすい。しかし、きれいにおさまりすぎた感も少しある気がする。

・少女漫画のような印象。


⑷ ざっくばらんな感想

・登場人物の心理描写がとても丁寧でわかりやすく、かつすごく共感できる。

・4章からなる物語。
1章は恵那君&雪絵ちゃん、2章は恵那君の父、3章は恵那君の母、4章は若者から絶大な人気を誇る歌手のLocoで、それぞれの一人称で語られる。

正直、4章とも全て
「よくある(ありすぎる)人物設定かつバックボーン」であると感じた。
結末も予想通りだった。
世界が壊れていく描写も、どこかで見た映画や読んだ小説と変わらない。
かなり辛口な言い方をすると、
「どこかで読んだというデジャヴ感」が読み始めてから読み終えるまでずっとあった。
SF小説のように、世界滅亡の過程そのものがアイデアに満ちていたりということもないし…。

“世界があと少しで滅亡する。そのとき、人間はどうする?”という題材の小説も映画も溢れるほど作られていると思うが、この作品も要素だけならそれらの作品達の寄せ集めだと思った。

新しさが作品の良さに直結するわけではないが、目新しさは全く感じられない。

“世界滅亡へのカウントダウン”という内容がどのエピソードの背後にもあるので、「本当にこの物語の世界は滅ぶのか、どうなんだろう。もし滅ばなかったとしても、どういう結末になるんだろうか。」という読者の思いが常にあると思う。
各エピソードが世界滅亡の物語にありがちな展開であっても、読者は登場人物の行く末よりまず世界が本当に滅亡するのかどうかの結末を知りたくて読み進めるだろうし、ちょっと唐突すぎる展開が若干あっても「まあ、世界が滅びるって言われたらこれくらい支離滅裂なこともあるか」とある程度の物語進行の唐突さも許せてしまうのではないだろうか。
作者がそこら辺を意図しないかもしれないが、それほど“世界滅亡”はある程度の物語の唐突さや粗さを許容してしまうジャンルだと思う。
この物語も、個人的にはご都合主義っぽく感じられる展開がいくつかあったが、上記の理由から“疑問”→“(とりあえずの)許容”に変わった。

では、
なぜこの作品はこんなにも絶賛されているのか。
個人的な素人意見だが、
この作品は圧倒的に丁寧に心理描写をしており共感性が高く、かつ読みやすいのでリーダビリティも高い」
からではないかと思う。

個性的すぎる設定や登場人物を排除したのも、共感性の高さに繋がっていると思う。

例えや言い回しもすごく工夫が凝らされているとか、思わず書き留めたくなるとかハッとするような表現ではないのだが、
「うん、この心理状況ものすごくわかるなぁ」と頷きながらスッと吸収できるのである。

オシャレな言い回しや個性的な表現だと伝わりにくい時があると思うが、あらゆる年齢層、性別の人が読んでも読む→吸収(理解)するがスムーズ過ぎるほどで、サラサラ読めてしまうと思う。

・Locoと幼馴染みのポチが終盤、神様についてや虫を殺したことは罪になるのかとかについて会話しているシーンがあるが、自分も同じようなことを考えたことがあったので面白かった。



⑸ 生意気言わせてもらうと、ここがもう少し…

・江那君はいじめられっ子なのにある種とても前向きで、思わず応援したくなるキャラだった。結構、自己分析もできてるし。清廉潔白なキャラすぎず、この世代特有の闇深さみたいなのも少しあって好感の持てるキャラ。
しかし、それまで会ったことがなくヤクザ崩れのような父への順応が早すぎると思う。ただこれも、「世界が終わるって言われた状況なら、受け入れられるのかもな」と前述した「世界滅亡が背後にあるならある程度の粗さや唐突さは許容されるルール」でそこまで疑問にはならなかったが、やっぱり少し気になる…。

・江那君の母親がちょっとスーパーウーマンすぎるかなと思う。

・1〜3と大幅に紙面を割いて描写された江那一家だが、最終章で少ししか描写されていない。それまで丁寧に心理描写や状況の描写もしてきているので、尻切れトンボ感が否めない。

・世界終了を掲げた物語のはラストは、数種類のテンプレ化されたラストがあると思う。
まず世界が滅びたとはっきり明言するか曖昧にするかで大きく2つに大別される。
ここからさらにその後を割と描写するか、少し描写し読者の想像に委ねるバージョンに別れる。
この作品は滅びたかどうか曖昧なバージョンかつ読者の想像に委ねるパターンのラストだと思った。(読み手によって変わると思う。あくまで個人の意見である。)
ラストを詳しく語ることはしないが、この終わり方ならカタルシスがもう少し欲しかった。

・この物語は主人公が一人でなく、各章の人物かつ雪絵ちゃんも含めてそれぞれが主人公であるような印象を受ける。
敢えて1人の登場人物に集中してヒロイックな扱いをしていない。そこは魅力であると思っていた。
しかし、最終章のLocoが一番ページ数が少ないのだが、このラストだとこの作品がLocoのための物語のような気がした。
Locoは良いキャラだが魅力的とは自分には映らず、他の各章の人物について最終章でほぼ語らないのであればLocoがこの物語を牽引し幕引きするような魅力的な要素がもうちょっと欲しかった。

・読了後、この手の読者に委ねる系のラストだと「この後、どうなったのかな。」と少し想像の世界に浸るものだが
「やっぱりこう言う終わりかたかぁ…」
と思った以外の感想がなかった。

・江那君と雪絵ちゃんのスピンオフの冊子も読んだ。(初回限定の特典冊子らしい。)
きれいで微笑ましく美しい短編だったが、冊子にするまでの必要性がわからなかった。

⑹ 心に刺さった箇所

以下は、心に刺さる…まではいかないが、共感できた箇所を抜粋。

P159 他人の不幸に心を痛めながら、どこかで自分や身内の幸運を噛み締めている顔だ。

P196 愛情の扱い方がわからず、情の深さが仇になって他人を殴りながら自分自身も傷つけていた。

P226 愛情にも適切な距離というものがある。近づくほどに深まるものもあれば、離れているほうがうまくいくものもあり、憎んでしまうくらいなら手放したほうがいいこともある。

P232 前の世界は平和だったけど、いつもうっすら死にたいと思ってた

P258 ひとつ欲しいならひとつ渡す、百欲しいなら百渡す。なにも犠牲を払わずいい思いをしようなんて甘い。

P263 なにもかもが過剰で、なのになにかが足りず、それがなんなのか立ち止まって考えることは不可能だった。

P280 伝説なんて、たいがい使い古されたストーリーや。

P280 もう誰も追いつけんとこ行こうや。

P309 だから必死で探す。虫けらのように死ななければならないほどの自らの罪状を。

P318 なんもやることないと、おかしうなりそうやん

P319 誰かの役に立ちたいと願う人もいれば、暴れることに命の煌めきを見出す輩もいる。


⑺ 書籍情報 


『滅びの前のシャングリラ』   凪良ゆう 中央公論新社  2020年10月発行 

かなり辛口な感想になったが、エンタメ性と読みやすさ、わかりやすさ、人物の心理状況の理解のしやすさ、リーダビリティは抜群である。

同じように他の人が書こうと思っても、安っぽく既存の作品の劣化版みたいになってしまう気がする。

自分はもう若くないので、純粋な物語を単に楽しめなくなっているのかもしれない。
自分は高評価の作品にマイナスをつけたがる類の人間ではないが、大多数が面白いというものを、面白いと感じるアンテナが純粋さの摩耗とともにぽっきり折れてしまったのかも…。
そんな自分に気づかせてくれた作品と言えるかもしれない。






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