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【書評】『タダイマトビラ』村田沙耶香

昨晩からずっと読んでいた作品がある。題にも示している通りだ。ブクログにも記したが、あまりの衝撃に全文ペーストして再掲。


今作で村田作品を読むのは二作目。初めては『生命式』。そこで村田沙耶香の文才、発想力、生々しいけれど共感でき、かつ純粋さを感じる世界観に圧倒された。そんなときに本屋でふと出会った今作。読んでみた。

凄い。ひたすらに凄い。今まで私は文章を書くことが好きだった。自分で少し小説を書くことだってあった。しかしこの作品を読むと、彼女の圧倒的文才にひれ伏すこととなり、つまり自らの文章をとても稚拙に思い、同時に彼女が作品を紡ぎ続けるのであれば私は文章を書くことをやめようかとも思えた。ここまで一つのテーマを深掘りして考えること、そして生々しいことも綺麗に表現できることを可能とする人間はいるのだろうか、いや、いない。

内容に入っていく。他のレビューに書かれていた「カゾクヨナニー」には驚かなかったしむしろ共感した。私も家族仲がとても悪く、両親はどこか他人行儀だった。どちらかというと今作に出てくる弟のようなタイプだ。しかし恵奈はそうではない。家族欲を満たすオナニーをする。自らでその寂しさを紛らわすのだ。そういう冷静な面を持ちつつ、パスケースに好きな男の子の顔を入れているのはとてもかわいらしいと思えた。途中でパスケースの色が白になるのは伏線なのかなと今気づいた。

そして時が経ち、浩平のカゾクヨナニーによって目を覚ます。家族のあり方について、原詩古代の世界まで遡り、最初は一つだったと気づく。ずっと現実的な世界を走ってきて、ここでパラレルワールドのような世界に行く。それについていけなくなったが、結局それはエヴァンゲリオンで読んだ「人類補完計画」のように感じた。皆が一つなら傷つくことはないという考え。そうしたら、自分にそれを気づかせてくれた相手、浩平や渚はどうなるのか、などと考えを及ばせるきっかけとなった。

私は最初、恵奈は瑞希と恋愛関係に及ぶのかなと思った。私が一番気になったのは彼女である。自分に好意を寄せる異性を突っぱね一人でいいと強がりつつ、オープンスペースへ恵奈を誘ったり、渚と恵奈が仲良さそうにしていると嫉妬のような一面を見せる。強がりつつも他者に依存しがちなところに私自身を重ねて読んでいた。終盤恵奈が覚醒してから一気に登場しなくなった。恵奈にとっては不要な人間だったのかもしれない。しかし恵奈に大人な一面を見せ、恵奈に長年寄り添っていたのは紛れもなく瑞希である。疑問だ。

また、前回読んだ『生命式』でも感じたが、この作者は何でこんなにも性的描写、オナニーなどを、純粋無垢なものだと扱い、表現できるのか。彼女の作品に登場する性的描写は、全くいやらしくないのだ。むしろとても美しく、透き通っている。その書き方が素敵だと、今回も思うことができた。

村田沙耶香は、天才だ。彼女をこの世に産み落としてくれた親や、彼女を作家にさせた環境、全てに感謝したい。ひたすらに、凄い。

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