エディタ―の仕事を拡張する
Vol.009
ファッションエディターの仕事がワインの通販にどのように活かせるのか、毎回、この日記(ディアリオ)を書きながら考えています。一つひとつの構想を文章や図に起こし、読み返し、調えることの繰り返しです。
編集のスキルは、ワインの分野でも応用を効かせれば、きっと“面白さを実装”できるはず。ならば、編集という仕事の活かし方を問うてみる。
編集とは、読んで字のごとく“集めて編む”という、ありきたりの答えでは、わかりにくいかもしれない。僕の経験や、いまも実践してことは、まず分類すること。分けにくいものでも、一度はっきりと分ける。分けるとは、わかることにつながります。
たとえば、スーツの場合。グレー、ネイビー、ブラウンの3色に分類してみる。そして、今年の傾向はなにか。トレンドがブラウンであれば、ブラウンスーツをテーマにした“切り口”を考えるのが、まず編集企画の王道です。
そのオーソドックスな手法をイタリアワインで応用すると、イタリアを20州に区分けしたのち、各州の土着品種を調べ、個性の違いを明らかにする。白ワインについて、さらに調べていくと、伝統的にもパラダイムシフトとなった、フリウリ=ヴェネツィア・ジューリア州を深掘りしたくなる、といった具合です。
次に味わいを区別する。味覚は、個人の志向が影響するため、時と場合によって、あるいはワインを薦めるひとの印象次第で、変わるものです。これが、テイストの面白いところ。今日飲んだワインは、もの凄く美味しく感じても、明日は普通の味、なんてことはザラにあります。
そう言ってしまうと、味わいは、その場限りの刹那的なものになってしまう。そうではなく、多くのひとが同じように感じる、香りや果実味、凝縮感などが収れんする言葉を用いる必要があります。
再び、ファッションに戻り、ツイードのジャケットを例にとります。
ツイードのジャケットを着たひとは、人生の機微を経験した豊かな紳士に見える。しかし、一方で「ちょっと、おじさんくさい」とも言われかねない。
そこで、ツイードの歴史的な背景や、いまも多くのラグジュアリーブランドが、ツイードの魅力を深く理解し、コレクションのアイテムに取り入れていることを伝えれば、決して、古くさい素材とは思えないでしょう。
この“切り口”をワインに置き換えます。
十分に熟成した20年前のヴィンテージ。偉大なるワインは、芳醇な味わいで長い余韻が記憶に残る。一方で、「ちょっとカビくさく」感じて敬遠するひともいるかもしれません。しかし、ワイン造りの背景などを通して、新たな情報を増やし、ポジティブな味わいに導くのが編集のスキルです。
味わいも分類できる。よりワインの“本質”を伝えるために、ファッションエディターの仕事はどんどん拡張できます。
次回の“ディアリオ ヴィーノサローネ”に続きます。
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