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ちいさな恋のものがたり

はじめてアキラくんに出会ったのは、小学校1年生の春だった。

学年に1クラスしかないような小さな小学校の

クラスの大半は保育園からいっしょのメンバーで

クラス替えもなく、6年間同じ顔ぶれで過ごすことになる。

そんな中の、数少ない違う幼稚園からの入学組にアキラくんはいた。

私と同じ保育園から来た子がクラスの大半だったけど

子供の多い新興住宅地に住んでいる子らと違って

田んぼばかりの田舎に住んでいる私は友達の作り方がわからなくて

ほかの子たちよりも成長が早くて大きな体がコンプレックスだったこともあり

保育園ではいつもぽつんだった。

そんな私の世界にいきなりアキラくんは飛び込んできた。

その頃の小学校の出席番号は生まれ順で

6月生まれの私は女子の5番。

同じく6月生まれのアキラくんは男子の5番で

隣の席だった。


余談だけど中学校に行くと出席番号はあいうえお順になっていて

苗字の頭文字がOの私はそこでも女子の5番だった。

スピリチュアルや占いがすきな私はnoteで出会った

LifeコンパスアドバイザーのIndrielさんに数秘チャートを作っていただいたことがあって、その時に言われたのが

全体を通し「5」の影響が大きいように感じられます。実は別の側面からも観たのですが、今後の人生の終着点にも「5」が出ました。よほど魂のミッション達成に必要なのでしょう。

ということ。どうやら私の人生は、5と深い関係があるらしい。


アキラくんは身長が高かったから身長順に並んだときも

いちばん後ろの私の近くにいた。

何かといつもそばにいたから話す機会も多かった。

そして子供特有の、コンプレックスをいじられた。

体の大きな私のことを、当時流行りのCMの替え歌にして

よく歌われた。

でもそれがまったく嫌な感じではなくて

いつも言い返すていでじゃれあって

コミュ障だった私はいつしか元気な女の子になっていった。

ちなみに身長の伸びは早々に止まって、今は標準サイズに落ち着いている。


アキラくんが眩しく見えていることに気づいたのは

小学校3年生の頃で

今から考えると まだまだ子供の時分だけど

気づいたらアキラくんはクラスで1番のモテ男子になっていた。

身長が高くてシュッとして、やさしくて勉強も運動もできて

モテる要素は全て兼ね備えていた。

今でもそうなんだけど、私は昔から素朴な人を好きになることはなくて

頭が良くて仕事もできてカリスマ性があって、モテるような人ばかりを好きになる。

学生時代で言うと勉強やスポーツができるのはもちろんなんだけど、

おもしろくてクラスの人気者だったり

体育大会でリーダーを務める憧れの先輩のような

そんな人ばかりを好きになる。

そういえば自分の強みを知るためのストレングスファインダーでは

私の資質の1番目は最上志向

それを思うと何となく納得する。


3年生で自分の気持ちに気づいたときには

アキラくんとは以前ほど話さなくなっていて

それでも私が元気で活発な女子でいられたのは

アキラくんのおかげだと思う。

初めて、バレンタインにチョコレートをプレゼントすることにした。

当時はセシルチョコレートというものがあって

田原俊彦と松田聖子のCMが話題だったんだけど

母に頼んで買って来てもらった。

アキラくんの近所に住んでいる親友のTちゃんに付き添ってもらって

何をどうしたのかはわからないけれど

アキラくんちのアプローチに3人でいる場面だけが

おぼろげに記憶の中に映像として残っている。

その1ヶ月後に友達の家の前で遊んでいると

アキラくんがやってきて

「これ」って包みをわたされた。

デパートの包装紙に包まれていたのはカンロ飴だった。

翌年も同じような感じでチョコレートをわたして

私の小学校時代はひたすらアキラくんに対して一途だった。


5年生になり、その頃クラスでは交換日記が流行っていた。

もちろん女子のグループでやっていたのだけど

当然の成り行きで、アキラくんと交換日記をやりたいと思った。

詳細は忘れたけれど、どちらかの親友に頼んでアキラくんに聞いてもらい

返事はOKだった。

今でも忘れない。

当時人気があったサンリオの「レッツチャット」というキャラクター。

その中の「ペンギンのペンジャミン」が私は大好きで

学校に持っていくステーショナリーはすべてペンジャミンで揃えていた。

そして交換日記に選んだのもペンジャミンのノート。

アキラくんと私だけの秘密だった。

席替えで同じグループになると

給食時間にワイワイ話しながら食べたりするんだけど

そんな態度とは裏腹に

ノートの受け渡しは極秘に行われる。

何を書いたかなんて覚えていない。

自分はアキラくんが大好きでチョコレートはあげていたけど

面と向かって告白なんてしたことなかったから

アキラくんの気持ちはわからなかった。

それでも一度、話の流れでノートの中に小さな文字で

すき

って書いたことがある。

数日が経ち、帰って来たノートの中にはアキラくんの字で

(私のことを)とってもすき

って書いてあった。

頭の中がカアって真っ白になる感覚

そのときが初めてだったな。

両想いってやつ。


バレンタインが近づくと、周りがにわかに騒ぎ出す。

ずっと同じメンバーで過ごして来たクラスだったから

私がアキラくんを好きなのは全員が知っている。

そしたら頼んでもいないのに

「愛ちゃんが期待しているよ」なんて

毎日アキラくんにはやしたてる馬鹿がいる。

いいかげんアキラくんもうんざりしたみたいで

ホワイトデーのお返しとともに振られてしまった…。

それからは交換日記がなくなって

話すこともなくなって。

それでも私はずっとアキラくんに片想いしていた。


その頃てるてる坊主のマスコットを作るのが私の中のマイブームで

作ってはいろんな友達にプレゼントしていた。

あるとき人伝に

「アキラくんがてるてる坊主を欲しがっていたよ」

っていうのを聞く。

ホントかどうかもわからないけど

持ってた布の全てを使って

とびきり大きなてるてる坊主を作ってみた。

それをきれいにラッピングして

誰だったかは忘れたけれどアキラくんにわたしてもらった。

アキラくんからのアクションはなかったけど

突き返されることもなかった。


6年生になると、毎年市内の6年生ばかりが集まる運動会がある。

私は走るのが苦手だったけど

入場行進で学校のプラカードを持って先頭を歩くことになっていた。

学校では朝練が始まって

登校すると着替えて運動場に行くことになっている。

4人ずつ100メートルを走る練習をしていて

アキラくんの番になった。

私は友達といっしょに歩きながら

アキラくんの方に、それとなく視線を送る。

スタートして、先頭で100メートルを駆け抜けて


ゴールとともに、アキラくんが倒れてしまった。


遠目にしか見えていないけど

体育の先生がアキラくんに駆け寄って

なんだか騒がしくなったことだけはわかった。


救急車が到着して

アキラくんを運んでいく。


それっきり、アキラくんは帰ってこなかったんだ。


その後の全校集会で、心不全って説明があった。

ひきつけを起こして、咄嗟に先生はアキラくんが舌を噛まないように

口の中に手を入れたんだって。

それからのことはよく覚えていないけど

クラス全員でお葬式に参列した。

アキラくん、亡くなる日の朝は自分の部屋をきれいに整えてから家を出たんだって。

最後までカッコ良かったね。


それから数ヶ月経ったあとに、親友のTちゃんといっしょにアキラくんちを訪ねたことがあった。

アキラくんのお母さんは、私のことを知ってか知らずか

とてもやさしく迎えてくれた。


アキラくんは、たった12年の人生の

半分を私といっしょに過ごしたことになる。

アキラくんを好きな子は何人もいたけれど

浮いた話は自分以外に聞いたことがなかったから

アキラくんにとって、私は人生唯一の彼女だったのかもしれない。

交換日記以上のことはなにもなかったけど。


それからの人生でいろんなことがあり過ぎて

アキラくんを思い出す暇もないのだけれど

今日、なんかフッとアキラくんを思い出して

書いてみたくなった。


私の、ちいさな恋のものがたり。

未来はいつも面白い!