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もうすぐEU離脱するよ。

来週の木曜だか水曜にロンドンはもう一度ロックダウンの内容を見直すことになる。ただ、今から「もう一段階厳しくなるだろう」と言われている。またレストランパブも閉店になるだろうし、美容院ジムはどうなるかわからない。

現在、パブは開いているようで開いていないというか。食事を供するパブは開けてもいい。ただし、3杯までしか飲めない。ということで、食事を出していない飲みだけのパブは閉店している。私がいつも行っているパットのパブは食事がないので、閉店中。パットのパブからバスで15分くらい行ったところで一日中競馬を見せてくれるパブはキッチンがないのに開けている。店主はどこからか業務用の冷凍ミニピザを大量に買って、そして電子レンジを2台カウンターに置いた。ピザを注文した体にしてビールを出している。電子レンジで調理したピザは信じられないくらいまずい。

大昔、「狼は天使の匂い」という映画を見ていて(セバスチャンジャプリゾ原作、ジャンルイトランティニャン主演、いい映画でした。)主人公が居候するギャングだかの家で、渋いギャングが「年食ったらイギリスに移住する」「どうして」「競馬が毎日やっているから」と言っていたっけ。競馬は毎日だ。コロナがあってしばらく休んだが、今は毎日やっている。そしてイギリスが多少レースがなくても、アイルランドの競馬をやっている。馬関係のギャンブラーに休日はない。

ご丁寧にそのパブの隣は賭けやである。ギャンブラーはパブと賭けやを毎日何往復もしている。

パブのみんなはのんきに競馬見て夜はサッカー見て、コロナの心配をして、来るクリスマスについて思いを巡らせている。

でも、みんな忘れてないかい?EU離脱するんだぜ、イギリス。今年最後の日の夜11時に。

会社にいて、最近、上司は仏像のように固まって動かない。ずっと書類を読んでいる。イギリス内で今まで処理していたビジネスができなくなるものが部分的に発生するので、それをどうするか弁護士などに相談して、その回答などをずっと読んでいる。もうすぐ離脱するというのに、詳しい情報はあんまり出てなくて、正直手探りである。今すぐに「こうしよう」とも決められなくて、様子を見ながらという感じである。もうあんまり時間がないので、3月くらいまでに決めればいいや、もう、みたいな感じになっている。

私は私で「弊社(xx)はEU離脱に伴って発生する関税申告の代理人にxxxを指名します。」みたいな申込書を読まされ、署名を本社などにお願いしたり、申込書を作成したりしている。

BBCのニュースやボリスの言ってることなどを総合するとたぶん、おそらくEUとの協議は難航して、物別れに終わり、「no deal Brexit」になる可能性大。EUとの間に何にも協議ができず(no deal)、ただ、「さよなら」するだけ。

前もってスーパー大手チェーンのテスコなどは「ノーディールになったら、年末年始、スーパーの棚が従来通りになってないかもしれません。税関などで時間がかかって大陸から食料の輸入に時間がかかり、スーパーの店頭に並ぶまで時間がかかる場合もあります。税関や通関の手数料が従来より余分にかかり、それが消費者に還元されますので、物価も上がります」と前もって「余裕ぶっこいているけど、場合によっちゃ相当影響出るぞお前ら」という警告をかましてくれた。

今から食料買いだめするか迷っている。してもいいししなくてもいいのだろうが、こういう声明などを見ると「缶詰や穀物は買いだめした方がいいの?」と思っている。

わたしはたまたま仕事などで「もしかしたらコロナより相当インパクトあるかもしれないことが起こるかもしれない」というのをちょっと肌で感じているが、イギリスにいる人、「わかっていないよ」と思うことが多い。

2016年に行われたEU連合離脱是非を問う国民投票で、イギリスは離脱を選んだ。この国民投票は正直、私の中では大きかった。私の周りにいる人達の本性が見えたというのは大きかった。

前の会社に嘱託で来ていた日本人の女性の結構年配の方で、ご主人はイギリスでもいいところの出身という方は、あからさまに「離脱支持者」だった。「EUに無理やり加盟した東欧からの移民ばっかりで治安も悪くなってどこへ行ってもそういう人しかいないじゃない。イギリスは昔はもっと白人が多くて、平和だったわ。イギリスの純粋な文化なんかなくなったわよ。」と私に面と向かって言った。「お前だって移民じゃないか。」と喉元まで出かかったが、苦笑するしかなかった。こういう意見、イギリス人および他の人からもたくさん聞いたけど。

「イギリス人は民度も高くて日本人よりも政治意識があるから、離脱派が勝つことはない。自分たちで自分の首を絞めることはしないわよ。」と言った日本の人もいたっけね。その人はいつも「日本はダメでイギリスがすごいいい国。」だった。そういう人って日本では税金を納めていないのにちゃっかり保険証もらって安い医療を受け、100円均一でものをたくさん買い込み、日本の上澄みだけ取って帰ってくる。日本の低賃金や物価が上がらないことに怒り、最低賃金がイギリス並みになればいいとかいう癖に、日本に帰ったら回転ずしやサイゼリヤで100円均一でユニクロでしまむらなんだよね。ダメだとしている日本を享受しながら、日本の悪口を大好きなイギリス人の前で吹聴する。でも彼らの大好きなイギリス人は民度なんか高くなかった。

確かに今回の国民投票は特に在英の日本人のイギリス観みたいなのを根本からぶっ壊したような気もする。イギリスにずっといると、自分が白人になったような気分になるんだよね。中国人とも韓国人ともインド系やパキスタン系でもアフリカでもない日本人という自分。白人になったつもりでイギリスに溶け込んでいるつもりの人がたくさんいたが、この国民投票でそうでもないことが露呈した。そういう意味ではある種苦い経験というか、日本人が感じているイギリス的なものやイギリス文化などは日本人各人が生み出したものであって、受け入れられていると感じているのも全部幻想だった。移民が増えたからという理由で、ご主人の家族が、その人のご主人を覗いて全員離脱に投票したという事実を知った日本人の奥さんがあからさまに落ち込んでいるのも見た。「受け入れているようで何も受け入れられてなかったのね、アタシ」とつぶやいていたっけね。

2016年ごろ、私の前の勤め先の肝いりで一週間に2時間、英語のレッスンを受けていた。その先生はマリアンといった。マリアンの本職は日本でいうところの選挙のプロみたいな感じだろうか。立候補する人のスピーチを分析したり、しぐさや話していることを直したり、立候補者と一緒に選挙運動を回って分析したりするのが仕事である。選挙中心の人だから、季節労働者みたいなところがあり、その仕事がないときは英語の先生だった。

ベジタリアンで食が細いせいか、がりがりでいつも寒い寒い言って真夏でもタイツを履いているような人で、顔色が青い人だったが、今でも思い出して気持ちのいいくらい、なんというか、人と話をするのが好きな人だったと思うし、聞き役もうまかったし、話も旨かった。へたくそな私の英語を聞いていろいろ質問をして、話を引き出すのもうまかった。

この先生とたくさんの話をした。前に行ったパブでIRAの幹部がいたという話からアイルランドの独立運動や北アイルランド問題の話をしたり(この手の話はめちゃくちゃ政治的な話で、好き嫌いがはっきり分かれるので難しい。)、何度か二人で食事をして、いろんな話をした。私にとってはありがたい経験だった。この人はやはりEU離脱の件でかなり興味のある人だった。そして、割に根拠のない楽観論は吐かず、「場合によっては離脱もあると思ってる。半々だけど、離脱になったときのことを考えておいた方がいいわ」とはっきり言った。そしてマリアン先生の言った通りになってしまった。

マリアン先生の国民投票の分析の話を聞いていたが、某有名日本メーカーの英国支社があり、工場があり、雇用もかなりその地元に供給しているという町の結構な数の人が「離脱」に投票していたという。今まではイギリスに工場を置いてEU各国向けに製造して、輸出することができたのだが、離脱すればそれが今まで通りできなくなる。メーカーはEU加盟国内に本社を置き、工場を置かないといけない。案の定、メーカーは撤退を決意した。結果的に自分たちの首を絞めることになった。そのメーカーがなくなれば、そのメーカーに勤めている人達だけではなく、そのメーカーに勤務している人が利用しているパン屋からジムから公共交通機関から全部影響を受ける。それもいい影響ではなく、明らかに実入りが減る。それなのに、「離脱」に投票している人達がいたのであるという。

もちろん移民だけではなく、EUに供出している税金を国内の医療などに回せばもっと世の中がよくなる、という離脱支持者の話を信じた人もいただろうし、「イギリスはEUに頼ってなくても自分たちで十分やっていける」という自負もあって投票した人達もいるだろうし、移民が嫌だから投票した、だけではないと思う。

でも、この投票はある種完全に移民がいいか悪いか、イギリスを取り戻せみたいな感情論になってしまったような気がする。イギリスにとってある種思い出したくないことというかトラウマみたいなものになってしまったと思う。そして、日々の生活の中で臭いものにふた、みたいな感じで存在を忘れ去られ、それにコロナが加わり、ほんとに忘れ去られたみたいになってしまった。

が、本当にあとわずかで英国がEUを離脱するのだ。何が起こるかわからないが、この混乱をしっかり見届けて、またいつかマリアン先生とディスカッションがしたいなあ。


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