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X Talks 6.4 - みんなが幸せで楽しい社会に

前回は、産休や育休後にも女性の仕事復帰には課題があることをうかがいました。そんな中、規模の大きな動物病院や一部の国立大学で、新しいシステムの導入が始まっているというのは明るい話題でした。

さて最終回の今回は、藤原先生のこれからの目標について聞きます。


医学部のような体制に向けて

--:これまでうかがったお話から、獣医学研究者も臨床獣医師も、それから女性も男性も、キャリアを積むうえで解決すべき制度面での課題はまだまだ多いですね。藤原先生は、今後も臨床研究の中で後進を育てながら、女性の研究者がいればサポートしていかれるのですね?
 
藤原亜紀先生(以下、敬称略)引き続き、女性の獣医師が臨床を長く続けられるような環境づくりに取り組みたいですね。私はある程度の立場もできたので、色んなことを気にせず言えるようになりました。たぶん、10年前じゃ言えなかったようなことも(笑)他の人が言いにくいことを言っていこうかなと思っています。
 
前田真吾先生(以下、敬称略)研究する若い人たち、みんなを支えていきたいよね!個人的に大学教員はメチャメチャ良い職業だと思っているし、僕は研究が好きなヒトが好きなので(笑)応援したいです。
 
--:大学教員の良いところというのは、自分がやりたいことに集中して取り組めるところですか?
 
前田:Duty(管理面などの仕事)もたくさんあって、集中し切れないこともあります。それに忙殺されて、やりたい研究ができなくなってしまうケースもあるとは思います。
 
--:そこにも、会社員と同じような悩みがあるんですね。
 
藤原:学部や学科にもよると思います。獣医学は専門職すぎるので、研究者が学生に直接教えなくちゃいけないんです。でも、もっと大きな学科や大学だと、授業をやらない研究者もたくさんいます。私たちは週の半分くらいは臨床をやっているので、授業など学生教育と研究を残り半分の時間でやる必要があります。
 
前田:大学だから、教育はだいじだけどね(笑)でも、気持ちはわかるな。
 
藤原:医学部は(獣医学科とは)違うんだよ。授業している先生の方がレアで、病院で研究をしている人が大半。
 
前田:授業専門の教員がいるの?
 
藤原:授業をする人は、1つの医局に1人いるかいないかだよ。
 
前田:その人たちで(授業を)全部まわしてるの?
 
藤原:そう、全部やってるんだって。もちろん大学によって違うとは思うけど。
 
--:という事は、授業をする人と研究をする人の評価軸も違うのですか?
 
藤原:医学部では、学生教育に携わる人は昇進に関する評価方法が研究者とは違うみたいです。論文数は少なくても良いけど、学生教育における成果に基づいて昇進していきます。
 
前田:それはメチャクチャいいシステムだね。
 
藤原:逆に、教育にあまり向いてない人は研究で業績を上げればいいんだよ。でも、獣医は全員、両方しなければならない…。
 
前田:アメリカの獣医学科は、今言った医学部のようなシステムらしいね。教育と研究、臨床が分かれていて、お互いに尊敬しているし、上下関係みたいなものもない。
 
--:そういえば、日本獣医生命科学大学は日本医科大学(日医大)の運営ですね。
 
藤原:そうなんです。医学部は女性医師をサポートするシステムの構築が進んでいます。日医大がそのシステムをウチ(日獣大)にそのまま入れてくれるので、復職後のサポートがあります。医学部のおかげで働きやすい環境になっていると思います。日医大とは、ダイバーシティ関連の合同イベントも結構あります。
 
--:そうしたシステムが、獣医学の分野にも少しずつ広まって行くといいですね。
 
藤原:そうなるように、がんばっていきたいです。


夢はイヌとネコ

--:対談も佳境になってきましたので、VET X Talks恒例の質問をさせてください。藤原先生にとって獣医学研究とは?
 
藤原:そんなのがあるんですね。全然考えてなかった。うーん、、なんだろ…。あらためて聞かれると難しいですね(笑)。そうだな…。
私にとって獣医学研究とは、「今の私を形づくるもの」、かな?
 
前田:おー!かっこいい!それ、すごくいい!
 
藤原:いや…、でも、それをなくしたら、私は何の人なのか分からないかも。少なくとも人生の半分以上は関わってるわけだから。獣医学がなくなると、ネコ(の診察)も無くなるし、ネコと暮らす趣味がなくなっちゃうじゃん。あと好きなのは、ゲームくらいだし。
 
前田:たしかに(笑)。僕も「Life is Research、人生は研究だ!」なんて言っちゃってるくらいだから同じだわ(笑)
 
藤原:私は、Clinical and Researchだな。臨床だけでも研究だけでもないから。
 
--:藤原先生はネコ派ですか? 
 
前田:僕と同じで完全なネコ派だよね。めちゃくちゃたくさんいるもんね。
 
藤原:ネコ派ですね。でも、今は5匹だよ。
 
前田:あ、だいぶ減った?
 
藤原:前は8匹いたね(笑)
 
--:私はイヌ派なのですが、ネコの可愛さも知ってみたいです!
 
前田:両方飼えばいいじゃないですか。
 
藤原:イヌとネコがワチャワチャしてるって、めっちゃ可愛い!
 
前田:実はそれ、僕の夢。
 
藤原:おんなじ!
 
前田:SNSで、イヌとネコが仲良くしてる写真見るよね。
 
藤原:めっちゃ、可愛い!
 
--:イヌもお好きですか?
 
藤原:本当はイヌも一緒に飼いたいんです。散歩のことなどを考えると、今はネコだけなんです。家から大学は近いですし、イヌを連れて行けるので、子どもが小学生くらいになったら飼いたいと思っています。研究室の居室で愛犬をフリーにしている先生もいるので、それができたらいいなと思っています。
 
--:イヌを迎えるならどんな犬種?
 
藤原:10キロくらいの、中型の雑種が好きなんです。地味だったり、あんまり愛想が良くなかったりして、もらわれなさそうな子が好きなんです(笑)


臨床獣医学の未来に向けた土壌づくり

--:では最後に、藤原先生が力を入れていきたいことについて包括して頂けますか?今後、どうしたいかという夢や志を教えてください。
 
藤原:今は後進を育てるのにエネルギーを注いでいます。今取り組んでいる研究分野には専門家があまりいないので、後進を育てたいと思っています。

--:特に臨床の方でしょうか?

藤原:臨床がメインですが、臨床をもっと発展させるには研究も続ける必要があります。(臨床と研究の)バランスは人それぞれだと思いますが、私は臨床にかなり比重を置いています。

私のやっていることに賛同してくれる大学院生や研究生、獣医の先生たちが見学に来てくれることもあります。若い人たちを育てていって、日本で専門家が少ないこの領域を発展させていきたいと思っています。

--:その中で、女性のサポートにも取り組んで行かれるのですね。

藤原:生活面の事情で、思うように仕事ができない女性もいると思います。自分が苦労した経験を生かして、女性が働きやすい環境づくりにも引き続き取り組んでいきたいです。

でも、ガツガツ女性の権利だけを訴えるというわけではないですよ!(笑)

それで勝ち取ったモノって、実力が伴っていないと批判の対象になることがあります。一生懸命頑張ってきた女性が、結婚や出産後も諦めることなく仕事を続けられるような環境を作って行きたいと思います。
 
前田:みんながハッピーになれる世界を目指して、お互いがんばりましょう!
 
--:イチ飼い主としても、獣医療の発展には期待しています!どうもありがとうございました。

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ネコとイヌをできるだけたくさん呼吸器の病気から救いたいと、臨床と研究に取り組む藤原先生。「特にやりづらさを感じたことはありません」とおっしゃっていましたが、実際には色々なハードルを越えて来られたのではないでしょうか?

女性だけでなく、男性だけでなく、動物たちも飼い主さんも、今よりもっとみんなが楽しく幸せに暮らせる社会になると良いですね。そんな波が、獣医学の世界から広まったら素敵だなと思った今回のVET X Talksでした。

最後に、藤原先生から飼い主さん向けにアドバイスを頂きました。咳やくしゃみなど呼吸器系の病気と思われる場合は、動画が診断にとても役立つそうです。病院で緊張している状態では、多くの場合、症状が出ないようです。お家にいる時にスマホを手元において、心配な症状が出たら録画しておくようにしましょう。

VET X Talksでは、これからも様々な角度から「獣医学研究はおもしろい!」ということを分かりやすくお伝えしていきます。次のゲストも、最先端の研究に携わる専門家をお迎えする予定です。ご期待ください。

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