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幸福なからあげ|ネガティブな心をカラッと揚げる

唐揚げを揚げたい。パチパチと飛んでるあれを聞きたい。もも肉も胸肉も両方入っているのが好き。食べながら選べる。

大量のモモ肉を目の前にして、焼き鳥という選択肢も浮かぶ、皮とももを分けて。胸はネギマにすればいい。いや、つくねにしてもいいなあ。色々とアイデアが浮かんでは消える

生の食材を前にしてこれだけの新鮮なアイデアが浮かぶのに。自分の人生という素材を持て余しているのは、何かわたしに欠陥があるからなのだろうか。


やっぱり唐揚げにしよう、決めてすぐにニンニクと生姜をたっぷりすりおろす。醤油と酒、オイスターソースをよく混ぜ込んで、半日寝かせておく


先日、カウンセラーさんと会い

なぜ人は(私は)ネガティブになるのか、という質問をした。

ネガティブになっちゃうのは、あなたが子供の頃、とても健康だったからといえるよ。

と教えてくださった。

なので、ネガティブが顔を見せても、そんな自分を責めないことにしている。

小さい頃、圧倒的な存在が不安定なとき。
具体的に言えば「父と母はあてにならない、頼れない」と思ったとき。
子供の頭には、「この人たちのいうことを聞くのをやめよう」という無意識的な発想が浮かぶらしい。

でもこれを認めてしまうと自分の頼るべきものは無くなってしまうから。ひとりぼっちになるから。
ものすごく不安になる。
その不安を乗り越えるために、これらを全て自分に当てはめるのだそうだ。

親が間違っている→わたしが間違っている

それで安心する。少なくとも頼る場所はある。

間違っているのはわたしなんだから。父さんや母さんではないのだから。

しかし、幼い頃からそれを繰り返すと、
自分がすることに自信が持てなくなる。
いつも懐疑的な目で見るようになる。
健康児ならそうなる。

という話だった。


確かに、自分はダメ人間だ、怠け者だ、生きている価値がない、とネガティブな理由で責め立てるのは辛い。苦しい。

しかしその背景には、もっと大きな本能的な苦しみがあった。それは自分の両親を信じられないということ。その苦しみから身を守るために、わたしはダメ人間だ、怠け者だ、と言っていたのだとしたら。


お肉がたっぷりと水分を含んでツヤツヤしている。ここに片栗粉を加えて混ぜる。両手を使ってしっかり混ぜて、全体が白っぽいとろとろになる。

このまま揚げると弁当屋さんの唐揚げみたいにジューシーになって美味しい。でも、少しはねるしカリッと感が少なくなるので、さらに衣をつけるのがうちのやり方だ。

表面に粉がふいたみたいな、かりかり、じんわり美味しい唐揚げになる。

たしかに、私の両親は二人とも、大きく道を外していたなア

熱くなった油の中にお肉を入れる

ジャーーーーーーーー

勢いよく揚がる音で思考がかき消される。

気泡が一斉に集まる、透明な油がせわしなく揺れる。


見ながら思った。

もういいじゃない、父と母さんのことは。二人は出会って、それぞれが暗い、辛いときに恋に落ちて、それが間違った感覚だったのかもしれないけど。でも惹かれあったりした。結婚して苦しんで、お互いにうんざりして私たちを育てた。そしてその20年後にさらに苦しんで別れた。なんだかこう話すとあっけないような気もするけれど。


子供である私はそれを俯瞰してあげることで許容してあげられる気がする。許すのではなく、許容する。


わたしは父が一度だけ、母さんのことを自慢するのを聞いたことがある。
母さんについて、悪口以外のことをはなしている父を見たのは、後にも先にもそれだけだった。


東京から美人が来た。会社中、噂していた。
とても気取っていて嫌なやつだとか、化粧が濃いとか、いい匂いがするとか
いろいろな噂が飛び交っていた。


お父さんは、どうしても自分で確かめたくなって、経理課にわざと用事をつくった。
そこにはコピーをとっているお母さんがいた。


一目で好きになって、その日のうちに食事に誘った。すごく勇気がいった。
お母さんは意外にも声をかけられるのは初めてだったようで。お父さんを始めての同僚で友達と思ってくれたらしい。


みんな噂しているだけで近寄ることができなかったんだ。話しかけたのはお父さんだけだった。ラッキーだった。


この話を聞いたとき、私と私の弟の幼少期の幸せは濃縮されてぎっちりとそのまま真空保存された。
封を切って取り出せばいつでも、ここに幸せが見える。
ただの一度だけだったけど。こういう話を聞けてよかったな、と思う。


子供は自分たちが愛されているより、両親が愛し合っていた方が安心感を得られるのでは、と思ったほどである。


唐揚げが揚がった。
初めてのデートで母さんが作り、父が絶賛した唐揚げ。
以降、家族が一緒に暮らした時間の中でこの唐揚げは一度も作られなかったけど。でもこの唐揚げは幸福だと思う。

作ったのは離婚して引っ越した後。母さんがまた家族のために料理する、と決めたあとのこと。

この唐揚げを食べると、なぜか小さな頃、母さんと寝ていたことを思い出す。

微熱は体温が高いから、一緒に寝るとあったかくて気持ちいいの

と夜中に布団に入ってきてくれてうれしかったんだよな。でも母さんには父と一緒に寝て欲しかったんだよな。

今夜もいただきます。

唐揚げはなぜか、月の色とよく合う。ビールと唐揚げがよく合うからかな。月はビールに似てるもの。


ええと、何を話していたんだっけ。そうそう

あなたがネガティブでもそれはあなたのせいじゃない

誰のせいでもないから、自分もだれのことも責めないでね


最後まで読んでくれてありがとうございました。気軽にコメントくださるととても嬉しいです。ゆっくりとした良い夜を

微熱より

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