木村文(リトアニア語翻訳者)

リトアニア語の翻訳をしています。 既刊訳書:「あさはやくに」(ふらんす堂、2020年…

木村文(リトアニア語翻訳者)

リトアニア語の翻訳をしています。 既刊訳書:「あさはやくに」(ふらんす堂、2020年)、「ちいさな ちいさな」(銀の鈴社、2021年)、「へびの王妃エグレ」(ふらんす堂、2022年)、「シベリアの俳句」(花伝社、2022年)

マガジン

  • 翻訳じゃない方の詩

    リトアニア語翻訳者が、翻訳ではなく自分で日本語で書いた詩を紹介しています。

  • 〔訳詩〕「チュルリョーニスの絵画から」シリーズ

    リトアニアの詩人サロメーヤ・ネリスの「チュルリョーニスの絵画から(IŠ M. K. ČIURLIONIO PAVEIKSLŲ)」シリーズの詩の初邦訳です。 リトアニアを代表する芸術家M. K. チュルリョーニスの絵画からインスピレーションを得て書かれた作品群です。 詩とともに掲載している図は、詩に対応するチュルリョーニスの絵画です。

最近の記事

【翻訳紹介】「剥製(iškamša)」

【翻訳】 「剥製(iškamša)」 詩 アウシュラ・カジリューナイテ(AUŠRA KAZILIŪNAITĖ) 訳 木村 文 詩の原文と翻訳: 詩人による朗読の様子 この詩は一見無害に見える存在(=剥製)に蝕まれてから回復するまでの孤独なプロセスを辿ったものである。 剥製は、最初に見つけたときには印象にすら残らないものであることをはじめの連では描写している。 しかし、行を追うにつれて、「私」は剥製が気になっていく。何かを話すことも、接触を図ることもない。剥製は無言のスト

    • リトアニアの詩人アウシュラ・カジリューナイテ(AUŠRA KAZILIŪNAITĖ)の詩を10篇翻訳しました。Lyrikline.orgという詩のオンラインプラットフォーム上で読めます。 https://www.lyrikline.org/en/authors/ausra-kaziliunait

      • 〔訳詩〕オキナヨモギに咲く Diemedžiu žydėsiu

        「オキナヨモギに咲く」サロメーヤ・ネリス もう一度、春よ、 君は勇敢に馬に乗って来る–– そして愛する春よ、 君は私をもう見つけられない–– –– 黒馬をつかまえるとそこで 地面を君は見るだろう: そして大地は花のまだらになりゆく…… 私はオキナヨモギに咲くだろう–– –– 1936年3月3日 出典 Salomėja Nėris, Diemedžiu žydėsiu, Sakalas, 1938 https://www.epaveldas.lt/preview?id=

        • リトアニア出版協会おすすめの児童書と児童文学作家6選(+おまけ)

          2022年10月26日(水)に東京の駐日リトアニア大使館で行わついてれた「Creative リトアニア: Milestones」にて、リトアニア出版協会のルタ・エリヨシャイテエテ・カイカレ氏が「リトアニアのイメージ力」という題でリトアニアの児童文学を紹介するプレゼンを行いました。この記事では、プレゼンにおいて紹介された本をそれぞれご紹介します。 (この記事は元々次の記事に掲載していましたが、分かりにくいので分けました。) „Akmenėlis(小石)“プレゼンテーションは

        【翻訳紹介】「剥製(iškamša)」

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        • 翻訳じゃない方の詩
          2本
        • 〔訳詩〕「チュルリョーニスの絵画から」シリーズ
          6本

        記事

          『リトアニア文化ガイド(Lithuanian Culture Guide)』

          リトアニアに興味を持ち始めた方の中には、今のリトアニアの文化についてのざっとした動向を知りたくなった方がいらっしゃると思います。 そんな方には、リトアニア文化協会(Lithuanian Cultural Institute)による『リトアニア文化ガイド(Lithuanian Culture Guide)』が便利です。紙の冊子として出版されていたものですが、リトアニア語と英語の二か国語でオンラインで全文公開されています。 リトアニアの文化の各分野の沿革、関連団体、主要なイベン

          『リトアニア文化ガイド(Lithuanian Culture Guide)』

          リトアニア最大の本の祭典・ヴィリニュスブックフェア

          リトアニア語翻訳者の木村です。 今回は、リトアニアの本に興味がある方に向けて、リトアニア最大の本の祭典・ヴィリニュスブックフェアについてご紹介します。 ヴィリニュスブックフェアとは毎年2月にリトアニアの首都ヴィリニュスでVilniaus knygų mugė(ヴィリニュスブックフェア)が開催されます。LITEXPOという巨大な屋内イベント会場(東京でいえばビックサイトのような場所)で開催され、出版社や文化団体のブースが立ち並び、大小様々なステージで朝から晩までトークショーが

          リトアニア最大の本の祭典・ヴィリニュスブックフェア

          Creative リトアニア: Milestones(大使館イベント)レポート

          2022年10月26日(水)に東京の駐日リトアニア大使館で行われた「Creative リトアニア: Milestones」に参加しました。リトアニアから来日した文化関係の代表団の方々による、リトアニアの文化についての発表を聞いてきました。 イベントウェブサイト 大使館ウェブサイト アジェンダ(表記は当日配布資料に基づく) 18:00 文化担当官ガビヤ・チェプリョニーテ(Gabija Čepulionytė)氏 挨拶 セルゲイ・グリゴリエフ(Sergej Grigorje

          Creative リトアニア: Milestones(大使館イベント)レポート

          翻訳じゃない方の詩/投稿の6篇

          これまでに書いた詩の一部は詩誌に投稿して、そのうちのいくつかは掲載していただきました。掲載から1年以上経ったもの詩を6篇ご紹介します。 三〇一教室 螺旋階段を一段飛ばしで駆け上がり 七分遅れで三〇一教室に入った 大きな階段教室の後ろの二列だけ埋まっていて 先生はこちらも見ずに口ずさんでいた 住人のいない金魚鉢に水をなみなみ注いだら その中にコインを一つずつ入れなさい 水があふれてもそのまま続けて それこそが学ぶってことそのもの 隣の席の中山さんはあのグリッターグルーを持

          翻訳じゃない方の詩/投稿の6篇

          翻訳じゃない方の詩/受賞作

          サロメーヤ・ネリスの詩集『あさはやくに』(ふらんす堂、2020年)をリトアニア語から日本語に翻訳していた頃、私は日本語で自身の詩を書き始めました。そのうちのいくつかを文芸祭等に応募したところ、ありがたいことに賞をいただきました。 ここでは、これまでに受賞した5篇の詩(すべて全文)をご紹介します。 テーブルのカエル 喫茶店でコーヒーを飲んでいると 食器が下げられたばかりの隣の席では カエルがその表面をすべっていた 小さな体が通り過ぎていったあとは テーブルがきれいになってい

          翻訳じゃない方の詩/受賞作

          わたしのおくりもの~こどもたちのための16のおはなし〔翻訳・リトアニアの童話〕

          「わたしのおくりもの~こどもたちのための16のおはなし」原題:16 pasakėlių mažiausiems skaitytojams ir klausytojams)は、1913年に出版されました。その題のとおり、16話の掌編が収録されています。 プラーナス・マショータス(Pranas Mašiotas)は、リトアニアの児童文学・童話の作者の祖と言われています。1863年に生まれ、1940年に死亡しました。500冊以上の著作を残しており、教科書の著者でもありました。翻訳

          わたしのおくりもの~こどもたちのための16のおはなし〔翻訳・リトアニアの童話〕

          〔訳詩〕災いの黒が飛んでいく SKRENDA NEGANDA JUODA

          「災いの黒が飛んでいく」 サロメーヤ・ネリス 災いの黒が飛んでいく…… 大地のよろこびの時間: 絶壁の上のちょうちょたちは–– 一日だけの草原の花々。 草原のまんなかのノゲシは–– 風にのって–– そのノゲシはまるでこどもが 草原で風にのってあそぶようだ: 「ぼくのノゲシ ぼくに花のぼうしがおじぎする。 そして絶壁の上のちょうちょが 羽ばたいて、ぼくにあいさつする。 ぼくの太陽は––ずっとだ!」 災いの黒が飛んでいく。 大きな影が這っている。–– 太陽が自転して

          〔訳詩〕災いの黒が飛んでいく SKRENDA NEGANDA JUODA

          〔訳詩〕射手座 ŠAULYS

          「射手座」 サロメーヤ・ネリス ころがる太陽は–– 炎の球体。–– 世界中で 銃弾が闊歩する。 地面の中はつめたく、そこは悲しい: 黒い竜が太陽をおおっている。 黒い鳥の大きなつばさは、–– 影ごしに見通すことはできない。 太陽によって燃えている 射手座に願う: —黒の災いの 鳥を射て! 張りつめたたくましい鉄、— もし自由がうつくしい大地であったなら、 もし自然が暖まり活気をとりもどしたなら、— たくましい鉄は張りつめている。 太陽は暖めるだろう ふたたび海を、大

          〔訳詩〕ノゲシ PIENĖ

          「ノゲシ」 サロメーヤ・ネリス ノゲシよ、ノゲシよ–– 素晴らしい花よ なぜきみは風の穀物庫で休むのか?–– どこに白いあたまを横たえるのだろうか? どこの風の晩餐会で居眠りをするだろうか? 風が吹いて、綿毛を解き放つ、–– 白い髪をあたまから引きぬく。 休耕地を、秋の野原をこえて ノゲシの白い柔毛をはこぶ。 ノゲシよ、ノゲシよ–– 私の花のきみ、 私にはざんねんなきみの白いあたま! ざんねんな私のひどい青春は–– 風の穀物庫でばらまかれた。–– もし灰色の草

          〔訳詩〕春 PAVASARIS

          「春」 サロメーヤ・ネリス 春 –– –– –– オリーブが歌いはじめる–– 小川がふるえて––また生きる。 天空の春の泉で南の風が 雲の流氷を転がしていく。 春 –– –– 白樺の小枝と流れるのは その緑がかった血––私の血だ。 そして自由の落ち着きのない不安が 風とともに草原を吹く。 白い雲の上を飛びおりると それは川辺でやなぎとともにたわみ、 つばめとともに草原を飛びたつのは その自由の落ち着きのない不安だ。 そして鐘が私に百回さけぶだろう–– いつも愛を、よろ

          〔訳詩〕太陽が花咲く ŽYDI SAULĖ

          「太陽が花咲く」 サロメーヤ・ネリス 赤い花々とともに太陽が咲く。 さいごに太陽が咲く–– –– わたしひとりに黒く咲くだろう…… そしてうつくしい、歌う世界よ! やなぎが糸杉の塔とともに封じるだろう。 こころはもう泣くことも愛することもない–– そしてもう渇かないことにこころは慣れていく–– –– しずかに手折られた花がしおれる。 愛するひとよ、きみは重荷に青ざめ、–– つめたい甕を––あたたかな掌が封じる。–– それは心臓のもっとも熱い血のしずく。–– それはわたし

          〔訳詩〕太陽が花咲く ŽYDI SAULĖ

          〔訳詩〕友情 BIČIULYSTĖ

          「友情」 サロメーヤ・ネリス くちびるがかわくと予言者たちは 呪いで世界をただよわせる! –– 君のために友情をおもう––まるで太陽のように。 わたしが光のあこがれを運ぶように。 ああ、長い夜、月の黒く欠けたぶぶん、–– 空には雲がみちている。 そうだとしても––なぜここなのか教えて。 なぜ大地はこんなにかがやいているの? 太陽のせいだと見るのは、––それはまちがい! 毎朝わたしたちをてらすのは太陽じゃない。–– それはわたしたちの大いなる友情、 わたしたちの血の