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10月の読了

クジラアタマの王様

伊坂マジック、最前線にして最高点

この帯を読んで気にならない人います?笑 

伊坂幸太郎作品と言えば疾走感、爽快な伏線回収、大どんでん返し。語弊を恐れず言うならば今回の作品は疾走感とも爽快感とも表現できない、クライマックスにかけて「あ、え、そういうこと?」とだんだん理解し、自分なりの解釈や読解が求められるような新しいパターンだった。

途中で感染症パンデミックの描写があるのだけど、本当に怖いのはウイルスよりも人間ではないかという、ここ数年で私達が通ってきた情景が描写されていた。でも何が一番怖いかってこれ書かれたの2019年夏。つまりコロナ禍前。預言書だと読者界隈では噂だったらしい。

クライマックスでやっと「クジラアタマの王様」とは何かが明かされる。
この王様がタイトルになった意味、この作品中ではまさに“王様”であるという圧倒的黒幕感と存在感、全てを読了後の考察が包み込んでくれて満足感がすごい。

これまでの伊坂作品が大好きな人にとっては新境地すぎてある意味「裏切られた感」が物足りないかもしれない。(実は私もそう感じている節はある)
でもこれは「最前線」なのだ。こうくるか!という目線で楽しめると思う。

幻夏(太田愛)

先月読了の「犯罪者」に出てきた相馬、鑓水、修司の3人が再び出てきます。彼らの性格や関係性を知っっているとより物語が入ってくるので、余裕があれば「犯罪者」→「幻夏」の順番でぜひ。

個人で興信所を営む鑓水に突然「23年前に失踪した息子の尚(なお)を探してほしい」という依頼が舞い込む。依頼料としてはあまりの大金である300万円を鑓水に託し、母の香苗はそのまま姿を消した。

尚の失踪の原因は何だったのか。
彼はどこへ行ってしまったのか。
なぜ23年も経ってしまったのか。
香苗はなぜ姿を消したのか。

小さな家族の深すぎる愛の話であり、子供が背負うにはあまりにもつらすぎた話。尚と弟・拓(たく)が何が何でも守っていた「」と、それがもたらした結末に涙ぐんでしまった。

家族の物語であると同時に「司法制度」「冤罪」にも深く切り込んでいる。複数の事件や人間関係を緻密に交錯させながら大きなテーマにまとめるこの感じ、、、さすがすぎる、、、。

一点だけ「うーん」という点をあげるならば、
すべて明るみになったクライマックスの、話中の悪人たちへの成敗が物足りない。「もうちょっとしっかり懲らしめてよ!」感が否めないなと感じてしまう。(「犯罪者」読んだときも感じてしまったのでこの作家さんの特徴なのだろうか)
何事も白黒はっきりつくわけではないというのがリアルな描写で、”悪いやつは最後にとんだ目にあう”というわがままな期待を私が小説に抱いているだけなのだろうか。

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