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怪談手帖

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禍話リライト 怪談手帖『しし地蔵』

禍話リライト 怪談手帖『しし地蔵』

『自然仏』(じねんぼとけ)という話をしたのをきっかけに、話者の方から採集できた。
『お地蔵さんみたいなもの』についての話。

※怪談手帖『自然仏』

提供者であるAさんが幼少期を過ごした集落には、鬱蒼と樹々の繁る一帯があり、鎮守の森めいた様相を呈していた。

しかし、彼の記憶する限り。
緑の奥にあったのは、社ではなく。

彼曰く『しし』とか『しし地蔵さん』と呼ばれる。
気味の悪い『何か』であったの

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禍話リライト 怪談手帖『天狗××(ペケペケ)』

『天狗』という説明不要なほど有名な妖怪の特徴の一つに、その名を冠した怪異の多さが挙げられる。
天狗倒し、天狗囃子、天狗太鼓、天狗の礫、天狗笑い、天狗火、天狗揺り……。
特に山中や山の周辺で天狗が起こすとされる怪異の話は枚挙に暇がない。

僕(『怪談手帖』の収集者、余寒さん)自身、禍話へ比較的初期に提供した話の中に、とある山の天狗による石投げと子どもの顔の出るお話があった。
これから紹介する怪異譚も

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禍話リライト 怪談手帖〈未満〉『蛸』

禍話リライト 怪談手帖〈未満〉『蛸』

会社員のBさん(女性)が小学校低学年だった頃の話。

「その頃『遺伝子組み換え』って言葉が流行ってたんだよね。だからかなぁ……」

小学校の近所に、お金持ちの中年夫婦の住む大きな住宅があって、いつからか子供たちの間で、
『あの家では遺伝子組み換え動物を飼っている』
という噂が立った。

その生き物は秘密の実験で作られ、足がたくさんあって、普通よりずっと身体が大きい。
そして今は持て余されていて、子

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禍話リライト 怪談手帖『ルドンの沼の花』

十年ほど前。Aさんが四十代の頃の、ある夏の話だという。

厄介な大きな仕事が片付いて、週の終わり、彼は久しぶりに図書館へと赴いた。
鮮やかな印刷でピカピカに光る新刊や幾つかの雑誌を漁った後、のびのびとした気持ちが高じて、普段赴かない『美術』の棚へ足を運んだ。

「……あのぅ、取引相手が西洋の画家が好きって話してたんですよ。
で、その人の話し方が上手くって。なんかすごく魅力的だったんで……」

背表

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禍話リライト 怪談手帖『たんころりん』

太く濃い毛虫眉。
ギョロリとしたどんぐり目玉。
真ん中に胡座をかいた獅子鼻。
のっぺりと結ばれた広い口。
人の倍はあろうかという大きな顔。
そんなものが、窓の外からこちらを覗いている。
曇ったガラス窓の右下に見切れている。
窓の中には他に、一面の薄青い秋の空と、柿の木らしい枝が幾振りか天へ向かって伸びているのが見えるばかり。
(……これはいったい、どこの誰なのか?)


……そうポツポツと語る

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禍話リライト 怪談手帖『変容の実例』

……これはいわゆる『怪談』と言っていいものか。実際のところ、かなり怪しい話である。

ただ、僕(怪談手帖の提供者である余寒さん)が収集した中でも、

『天狗』

というものについて、珍しいアプローチがされている体験談であり、僕自身、話者の方からの聴収において寒気のするような一瞬を味わったので、ここに紹介しておきたい。





世間に災禍が蔓延するよりも前のことである。

「……こういうのって

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禍話リライト 怪談手帖『たどん』

Aさんという方の子供の頃の体験。

彼の住んでいた北九州のOという地域。

そこから一山越えたところにボタ山(石炭の捨て石の集積場)があり、当時そこに行って石炭クズを拾う者たちがいた。専門の業者のところへ持っていけば、その場で買い上げてくれたからだという。

一般的には、こういった『ボタ拾い』はあまりお金にならないものだったと聞くので、僕(怪談手帖の収集者である余寒さん)は驚いたのだが、Aさん曰く

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禍話リライト 怪談手帖『自然仏』(じねんぼとけ)

昭和の半ば頃のことだというから、昔話というほどではない。

Aさんのおじいさんが住んでいた集落のすぐ近く、山の麓で起きた奇妙な話だという。

ある昼過ぎ。山菜取りに行っていた老人たちが、興奮しながら駆け戻ってきた。

山道に入ってすぐの古い大きな樹の根元に、

『仏像』

がある、というのだ。

何人かでその様子を見に行くことになり、まだ少年だったおじいさんもついていった。

件の樹のところにやっ

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禍話リライト 怪談手帖『ミドチ』

「……あれはね、甲羅のことですよ。スッポンかカメかとか、そういうことじゃないんですよ。どっちでもないんですよ」

河童の話題を振った時、Aさんはそう強く主張した。

「よくあるでしょ? 絵に描かれてるような。頭に皿があってクチバシがあって、いかにもひょうきんなやつ」

「……あれはねぇ、大嘘なんですよ」

僕(怪談手帖の収集者である余寒さん)は学者でも専門家でも何でもないので、

「嘘、というのは

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禍話リライト 怪談手帖『ギガ母さん』

妹さんとの幼い頃の思い出だという。

「……妹は何と言うか、フワフワした子でした」

歳の離れた姉妹のことを、Aさんはそう例えた。

物心のついた時から、どこか地に足がついていなかった。話していても急にフッと黙ってしまい、何か別のものに気を取られている。ご両親も心配して、いろいろ病院に連れていったりしていたそうだ。

それでもやがて姉であるAさんと同じ小学校に通い始め、二年生になった頃……。

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禍話リライト 怪談手帖『在りし日の詩』

『中原中也のおばけ』

確かにそう言われたので、些か面食らって僕(怪談手帖の収集者である余寒さん)は聞き返した。

「……中原中也って、あの詩人のですか?」

「そうです。ええ、あの有名な。母から聞いた昔の話なんですがね……」



Bさんの故郷の街に、それなりに長いが長いだけの、何ということのない塀の続く道がある。

そこに夕暮れ頃、変なものが出た。

あのあまりにも有名な詩人の肖像が、モノク

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禍話リライト 怪談手帖『人面樹の旅館』

今は定年退職して暮らされているAさんが、昔おじいさんから聞いたという話。

若い頃、おじいさんは旅行好きで、それもいわゆる出たとこ勝負というか、ある地方へ出向いたら明確な目的地を定めずにブラブラするタイプだったらしい。

その日も仕事の予定がなくなってしまったのを良いことに、地方を荷物だけを持って放浪し、その日の宿を求めて山沿いの街に入った。

都会というほど栄えておらず、しかし田舎というほど寂れ

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禍話リライト 怪談手帖『紙芝居屋』

怪談手帖の収集者である余寒さんが縁あって地方の行事に参加した時、スタッフのひとりとして来ていたAさんから雑談の合間に聞いた話。

「今思えば子供の記憶だし、何かの見間違いか勘違いで覚えてるんだと思うんですけどねぇ……」

と、Aさんは前置きした。



昭和の終わり頃、小学校低学年の頃の記憶だという。

Aさんの住んでいた街には公園がふたつあった。

大きくて遊具も充実しており、子供で賑わってい

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禍話リライト 怪談手帖『天狗のこと』

『……天狗と申すは人にて人ならず、鳥にて鳥ならず、狗にて狗にもあらず、足手は人、かしらは狗、左右に羽生えて飛び歩くるものなり』

『平家物語 巻十』より

「……俺、天狗を見たことがあるんだよ」

薄く紫煙を立ち上らせる煙草を指の間に挟みながら、ふざけている様子もなくAさんは淡々とそう言った。

「……そのせいで死生観、というか。

『幽霊観』

……っていうの? 変わっちゃってさあ……」

何と

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