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上海空港で地獄のトランジット【地球探究①】

 いよいよ、名古屋を出発し、上海で飛行機を乗り換え、バンコクに向かいます。安さを優先した結果、ぼくが手にしているのは、上海での乗り換えの設定時間が1時間35分しか無いという、吉祥航空のスーパーハードモードのチケット。入国審査も、荷物の受け取りも、チェックインも、荷物検査も、出国審査も、すべて込みの1時間35分。ひとつのミスが命取りになり、バンコクには行けなくなってしまう危険もありましたが、まあ、旅の始まりのスパイスとして、このくらいがちょうどいいかな、と思っていました。

 日本を発った飛行機は、予定より40分早く、上海に到着。最初は余裕じゃん、と思っていましたが、まず、入国審査でやらかしました。ぼくは乗り継ぎで中国に入国するので、次に乗る飛行機のチケットを見せる必要があるのに、チケットの情報が書かれたメールを、ダウンロードもスクショもしていなかったのです。チケットを表示するには、ネット回線が必要です。しかし、上海の空港のWifiは、電話番号を登録しなければ繋げることができません。中国の電話番号など、もちろんありません。
 早速詰んだ、と天を仰ぎ見ると、列の後ろに、日本人のサラリーマンと思しき御一行が並んでいるのが視界に入りました。どなたかポケットWifiを持っていたら、一瞬だけ繋げさせてもらえないか、と冷や汗をかきながらお願いしてみます。するとひとりが快く、あわれなWifi乞食にパスワードを教えてくれました。上海でビッグな商談にも挑むふうのサラリーマン。かたや自分は、いい歳をしてふらふらと放浪しに行くわけで、ありがたいやら申し訳ないやら、大変複雑な気持ちでした。

教訓その1。飛行機のチケットはかならずスクショしておくべし。

 ようやく、入国審査官様が鎮座するブースに辿り着きました。しかし、ここは正規に入国する者の列であり、トランジットする者はフロアの端にある窓口に並び直すように言われてしまいます。20分ほど時間をロス。痛すぎるロス。
 さっき、Wifiを貸してくれた紳士たちの前を横切り、フロアの端へ。並んでいる人数はたいしたことはありませんが、どうやらここで臨時ビザを発給しているようです。一人ひとりの手続きにやたら時間が掛かります。この時点で、バンコク行きの出発まで90分を切っています。焦りのため、気が気でありません。そんなぼくのまえで、楽しく談笑しながら公務に励む審査官たち。3人もいるならもう1列開けてくれよ、と心のなかで叫びながら、じっと耐えます。
 ようやく、自分の番が回ってきました。案の定、バンコク行きのチケットを見せるように言われます。さっきWifiを借りていなかったら、ほんとうに詰んでました。無事入国を許可され、ゲートを通過。

(わずか1時間ほどの滞在のために取得した、中国のトランジットビザ)

 荷物をピックアップし、急いでチェックインカウンターへ向かいます。が、なぜか出口に大行列ができています。勘弁してくれ!と思いながらも、おとなしく列に並ぶしかありません。どうやら、税関のところでトラブっている模様。時間は刻一刻と過ぎていきます。大丈夫、まだ焦る時間じゃない、と自分に言い聞かせながら、10分くらい並んだところで、なぜか突然、出口が開放されます。よく分かりませんが、まあどうでもいいです。ダッシュで出口を突破します。
 タクシーの客引きを、「それどころじゃないんじゃ!」とあしらい、今度は出発ロビーを探します。見つかりません。あっちへうろうろ、こっちへうろうろ。渡り廊下みたいなところに、搭乗口1と搭乗口2の表示がありますが、どちらかが分からず、立往生してしまいます。
 さらにこのとき悲劇が。空港のキャリアに載せていた荷物が、崩壊してしまったのです。テントやらマットやら三脚やら、バックパックに入りきらなかった荷物を、バックパックの上下左右に縛り付け、さらに大きなビニール袋に入れていたのですが、空輸の衝撃で、ビニール袋が破れ、さらに、縛り付けていたアイテムが、ばらばらに解けて散らばってしまったのです。通行人が、「大変だね」というような目で見てきます。もう泣きそうです。
 
 泣いている場合ではありません。何か中国語で話しかけてきてくれた人に、吉祥航空のカウンターはどこですか、と英語で尋ねてみます。搭乗口1でよい、と教えてくれます。搭乗口1に向かうエスカレーターの手前で、また荷物チェックが行われています。ぐちゃぐちゃに崩壊した荷物を一つずつベルトコンベアに載せ、ひとつずつ回収していきます。時間に間に合ったとして、こんな状態で乗れるのか?もう、ヤケクソです。

教訓2。荷物の無理な外付けは無謀。

 チェックインカウンターも、やっぱり大行列です。そしてむちゃくちゃ暑い。全身汗だくになりながら、崩壊した荷物を、なんとか縛り直します。この時点で、出発まで60分を切っています。カウンターの上に掲げられたモニターには、「出発の45分前に受付を締め切る」というアナウンスが流れています。
 たまたま通りかかった係員の女性に、バンコク行きだ!と訴えると、誘導ロープを外して、優先して案内してくれます。何とか、滑り込みでチェックインしてもらいます。ビニール袋を失ったいま、テントやらマットやらは、ただバックパックに縛り付けられているだけです。これは無事にバンコクまで運ぶ保証はできない、とカウンターの男性に言われてしまいます。そうでなければ、取り外して自分で持って行ってください、と言われます。こんなにたくさん持ち込めるのか?という疑問が頭をよぎりますが、四の五の言っていられません。たまたま、カウンターの横にあった無印良品で、丈夫そうな麻袋を購入することができました。無印良品があと500m離れていたら、間に合わなかったと思います。
 それにしても、受付の男性は、ボロボロの荷物を締め切りギリギリに持ってきた、汗だくの訳の分からない外国人にたいして、ほんとうに誠心誠意対応してくれました。吉祥航空は素晴らしいエアラインだと思います。
 背中にも両手にも大きな荷物を抱えて、搭乗ゲートに猛ダッシュします。カウンターから、国際線のゲートが地味に遠い!ゲートをくぐり抜け、出国審査を受けた後、日本の3倍くらい入念な荷物チェックが待ち構えていました。モバイルバッテリーやら筆箱やら、あと預けられなかったキャンプ用の食器類やら、あやしいものをバッグの奥底から取り出されては、これは何だ!と質問されます。ようやくチャックを潜り抜け、荷物を整えた時点で、搭乗口閉鎖まで残り5分!這うようにして、搭乗口に急ぎます。

教訓3。訳のわからないものをたくさん持っていると、たくさんチェックされる。
教訓4。荷物は何度チェックされても詰め直しやすいように、余裕を持ってパッキングすべし。

 こうして、バンコク行きの飛行機の座席に、何とか座ることができました。こみ上げてきたのは達成感ではなく、泥のような疲労感でした。上に羽織っていたパーカーがぐっしょり濡れるほど、汗だくでした。でもそんな疲労感も、離陸する飛行機の窓から、上海浦東空港をオレンジ色に染める夕陽を眺めていたら、少し和らいだ気がしました。

 こうして、ほとんど奇跡のような、無謀なトランジットを成功させ、何とかバンコクに向かっています。何度も諦めかけたけど、その度に、いろいろな人が助けてくれました。何か、この旅がいいものになりそうな、そんな気がします。

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