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第21回書き出し祭り 作品解説



 第21回書き出し祭りも終わりましたね。参加者の皆さん、読者の皆さん、お疲れ様でした&期間中の感想・反応等々ありがとうございました!
 本記事は作者当て企画へのご返信と、参加作品の執筆に際しての意図・計算等の解説になります。まずは作者当て企画の正解者発表から参りましょう。

作者当て企画について


 私の作品はこちらでした。皆さんご存知でしたね?

1-12 殉葬妃は蘇る ~今度こそ愛する貴方と生きるために~

 第一会場2位、総合では3位の成績でした。たくさんの投票をいただき嬉しいです。重ね重ねありがとうございました!
 前回の記事にて開催しておりました作者当て企画に対して、沢山の(ご応募)をいただきありがとうございました。正解者は以下の方々です。

はに丸さん
まさかミケ猫さん
fさん
maforkさん
采火さん
にけさん
智子さん
exa(疋田あたる)さん

 正解者へのプレゼントとして、拙著「あやかし遊郭の居候」または「あなたの作品への長めの感想」、いずれを希望されるか追って伺いに参ります。お付き合いいただけますと深甚です。

 また、企画の「エクストラステージ」にて設定していた「私ポイント」は以下の通りでした。

・アイーダ
 皆さんご存知のヴェルディのオペラです。私がアイーダと言う時はそれを下敷きにした宝塚のミュージカル「王家に捧ぐ歌」になりますが。わただんとうサイコー!
 「どこが?」と思われるかもしれませんが、「愛する男と埋葬される女、と、そのふたりに強い愛憎を抱くもうひとりの女」はだいたいアイーダじゃないでしょうか……少なくとも私はそのつもりです……。この三角関係が好き過ぎて、過去作品でもたびたびモチーフに使っているので、fさんあたり指摘するかも、と思ってました。作者当てとは絡まないご感想で、幾つかエジプトに言及していただいたものがあったのは非常に良いところを突いていましたね!

・糞な状況・風習に置かれたヒロインが歯を食いしばって立ち向かう構図
 これは、書き出し祭りの過去作品でも割と顕著に見えている性癖だと思います。
 第18回参加作「魔王の末裔は奸臣の孫に嫁ぐ」では、ヒロインは家と義母の都合で&謎の黒幕によって理不尽な密命を負わされて政略結婚に臨みました。
 第19回参加作「魁国史后妃伝 その女、天地に仇を為す」では、祖法の名のもとに姉と甥を奪われたヒロインが壮絶な復讐を決意する話でした。
 夫が亡くなれば妻も死ぬ、という風習の理不尽に加えて、近しい人からの手痛い裏切りを被った今回のヒロインは、構図的には魁国史~の翠薇にかなり近かったと思います。そこでバレるかな、と思っていましたが、その点の指摘はひとまずなくて安心しております……!

・愛ゆえに強くなる・憎しみを知るヒロイン
 これは、書き出し祭り参加作品というより、私の過去作を読んでいれば思い当たるかも、という性癖でした。古くは「恋は苦い味がするとか」のリリー、比較的最近の作品では「狼将軍の生贄の花嫁」のエリーゼなど。愛や恋は美しく甘いだけのものではなくて、右も左もわからなかったヒロインが愛する人のために強さを知り、彼の敵への悪意に目覚め、奮い立ったり陰謀にも手を染めたりするとたいへん美味しいと思います。
 ちなみに「狼将軍の生贄の花嫁」は、第10回ネット小説大賞にてコミックシナリオ賞を受賞、コミカライズされていますので、上述の性癖に頷いてくださる方はこの機会にお読みいただけると嬉しいのです。エリーゼの可憐さも覚醒後の強さもとてもよく描いていただいていますので……!

「狼将軍の生贄の花嫁」comico様ほかにて配信中!

 さらに言うなら、この性癖を目覚めさせた切っ掛けはデュ・モーリエの「レベッカ」──を原作にしたウィーンミュージカルです。「Die Stärke einer liebenden Frau(誰かを愛する女の強さ)」というまさにそのものなナンバーがありまして……物語中、終始気弱で自分に自信が持てなかったヒロインが、「夫に愛されているのは私!」という確信を得た瞬間に、夫を脅かすすべてに立ち向かう決意をする流れが素晴らしいのです。
 「レベッカ」は原作小説も非常に面白いので興味を持っていただけたらぜひ読んでみていただきたいです。20世紀初頭のイギリス上流階級の暮らしを垣間見ることができるという点でも楽しめるかと思います。

 作者当てに関して、挙げていた根拠はどれも「確かに!」「ですよね~」となるものばかりでした。嬉しい御言葉もたくさんいただきました。
 いっぽうで、作者的に意図したポイントを射抜いてくれた、という点ではエクストラステージのクリア者は智子さんだけ、ということになりました。

 上記に引用した記事中でのコメントが、まさに「糞な状況・風習に置かれたヒロインが歯を食いしばって立ち向かう構図」を言い当てていただいていましたので……! 智子さんにはエクストラステージの景品(SS執筆)の権利も発生しますが、需要ありますかね……その点も含めて後ほど突撃させていただきますね!

執筆意図について

ジャンル・舞台設定

 智子さんの記事にて看破された通り、私が今回の祭りに参加したのは「ちょうどそのころに「あやかし遊郭の居候」が発売のはず……書籍化作家枠で宣伝して欲しいなあ&あわよくば祭り作品から興味を持ってもらいたいなあ!」という下心によるものでした。
 なので、必然的に女性向け・恋愛のジャンルになります。宣伝なら和風ファンタジーにしたほうが良かったのでは? と今気づいたのですが、ここにも一応事情があります。第12回ネット小説大賞にWebtoon部門が新設されたので、Webtoonで人気の死に戻り/逆行転生ものにしよう→ヒロインの死のシチュエーションとして以前から気になっていたインドの寡婦殉死(サティ)を組み合わせよう! でこうなりました。私にインド風のイメージはないでしょうが、最近書いてる中華も、専攻したはずのドイツも、胸を張って詳しいと言える時代や地域は何ひとつとしてないので、その時浮かんだものやたまたま読んだ(ことのある)ものなどで題材を決めることはままあります……。
 なお、Webtoonの背景や小道具は素材を使うことが多いとのことなので、既存素材が少なそうなインド風はたぶん不利です! ではなぜナーロッパ風にしなかったかというと、「殉死がある世界観」に説得力があるのはアジア~オリエントの文化になるであろうと考えたからです。(南米もあり得るかな? でもインド以上に手に負えないから俎上から除けましょう)この説得力、実際に殉死や生贄の風習があったからこそ生じると感じるのか、それともこれらの文化文明に何となく偏見めいたものがあるのかは、ちょっと意識したほうが良い気はしています。
 夫を火葬する炎でその寡婦を焼くサティを、墓室に閉じ込める形式にしたのは、上述の通りアイーダへのオマージュでもありますし、描写上、ヒロインが「やり直し」を強く願うための猶予が必要だったからでもありますが、それらに加えて、「(現在は廃止されたと言われているものの)かなり最近まで現実に行われていた女性の人権を無視した風習を、そのままエンタメ・ロマンス作品に採用するのはいかがなものか」という考えもあってのことです。その改変自体が現実の問題を歪曲・矮小化するものであると言われる可能性もあるでしょうし、ほんと分からないのですが!

構成について

 実は第1回から書き出し祭りに参加している私、比較的最近まで順位はさほど奮いませんでした。良くて会場一桁後半~会場真ん中くらいのことが多かったですね。第16回くらいから急激に投票先に選んでいただけるようになって、自分自身でも首を捻っていたのですが、会場割り振りの運もありつつ、もしかしてこれかな、という心当たりを挙げるとしたら、「Webtoonコミカライズを経験したこと」かもしれません。
 コミカライズしていただいた「狼将軍の生贄の花嫁」、原作小説は「1場面で区切りの良いところまで」を1話として各サイトに掲載していました。が、コミカライズ版の各話の区切りは小説版とはまったく違う箇所になっていたのです。もちろん、コミカライズの1話に適切な情報量もあってのことですが、「読者にとって『次』が気になるところでヒキにする」が徹底されていたように思います。台詞をキャラクターに言い切らせず、話をまたがせるケースさえありました。
 もちろん自作コミカライズ以前にも、長年マンガ・小説で数知れぬ連載作品を追ってきたわけではあるのですが、自作を例として・自分なりの区切りと比較できる形で「ヒキ」に特化した区切り方を見せてもらったのは良い経験になったのではないかな、と思っています。「連載漫画の第1話として雑誌やアプリに掲載されたとして、続きを読んでもらえそうか」という観点、小説の第1話に対しても有効かもしれません。

 その後、Webtoonの原作を担当させていただけることにもなり、さらに「継続して読んでもらえるような情報量」「ヒキ」の意識のし方を考えるようになったと思います。Webtoonにおいては、1話に「『読者の興味を惹く導入』『山場となるシーンがふたつくらい』および『次話へのヒキ』」「大ゴマ・見せゴマとなるようなシーンを何か所か」を織り込むと良い、と教わりました。構成で言うと起承転結にメリハリをつけるべし、ともいえるでしょうか。その段で言うと、今回の「殉葬妃~」は下記のように分解できそうです。

導入:殉死制度の説明
見せゴマ:アルジュンに寄り添うアイシャ

山場1:ダミニの裏切りの発覚
見せゴマ:ダミニの憎しみの表情

山場2:暗闇の中で息絶える
見せゴマ:復讐を望むアイシャ

ヒキ:十年前に回帰した! やり直しの決意
見せゴマ:アルジュンに抱きつくアイシャ/ダミニを睨むアイシャ

 ……という感じで、事件を起こしつつ絵的にも映えそうな描写を挿入していった、という感じになります。導入にインパクトを与えるために、暗闇の中で足掻くシーンを冒頭に置いて、回想で状況説明する流れも考えましたが、時系列が前後することになって分かりづらくなるため&場面の繋ぎに字数が嵩むため断念しました。あと、世界観の説明は冒頭に置いたほうが良いだろう、という判断もあります。

 改めて分解してみて思ったのですが、1話4000字(書き出し祭りの規定であって、連載時にはもう少し少ない字数の場合も多いでしょうが)にギチギチにならずに収まる場面数・情報量としてはこれくらいになるのかなあ、という所感です。
 つまり、裏を返せば、面白さの紹介にそれ以上の尺が必要な物語は書き出し祭りには向かないということ……。書き出し祭りでなければ数話かけて世界観やキャラクター紹介をじっくり描くことも可能でしょうから、祭り攻略をどこまで意識するか、という話にもなるでしょうが。とはいえ第1話=ワンクリックで読める範囲であるていどの満足感があったほうが良いであろうことも事実なので難しいですね……。

 ちなみに、山場やヒキを毎回意識して原作を作っているWebtoonがこちらです。例によって理不尽な逆境を切り抜けるべく・歴史を変えるべく、逆行転生したヒロインが奮闘するお話です。この機会に読んでみてくださいね!


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ヒロインの造形について

 前回参加した第19回の振り返り記事でも言及した通り、過去の参加作への反応を振り返って主人公にスポットを合わせると良いかも、という知見はありました。主人公にカメラを寄り添わせて、感情を細かに描写することで読者に共感してもらう、ということですね。エモは強いとも言います。主人公の目的を明示する・ディテールの描写で差をつける、も挙げましたが、前回との繰り返しになるので&本作についても読めば分かるので割愛します。

 前回の「魁国史后妃伝」でも「愛ゆえに復讐に燃えるヒロイン」をあるていど支持してもらえたと思うのですが、何しろ「姉と甥を殺した連中をぶっ殺す」という苛烈さ・悪女ヒロインの造形は素直な共感や応援への壁にはなり得るとも思っていました。なので今回のアイシャは、より可憐に健気に、異世界恋愛ジャンルの読者に受け入れられやすいであろう造形を目指しました。具体的には、夫への愛、夫を助けたいという思いをメインに据えることで、復讐のえぐみを薄めるということになります。
 前回の振り返り記事でも自分が殺された怨みよりも近しい家族の死に関する怨みのほうが共感されるだろう、と述べていたのは今回の作者当てへの大ヒントだったかもしれませんね。死に戻りものにも言及していたし……。
 (Webtoonの死に戻りもの、韓国産であるがゆえの国民性の違いもあるのでしょうが、ヒロインの性格が苛烈で好戦的過ぎて「そんなだから嵌められたのでは~?」と言いたくなることがあるので……夫を守りたい、なら状況の変化に関わらず普遍的な動機になりますからね)

 愛ゆえにダミニとの対決を決意するアイシャの造形は、書き出し祭りの読者には受け入れてもらえたように感じています。いっぽうで、前回記事で触れた主人公の強みを見せるという点については不安もありました。「魁国史后妃伝」のヒロイン・翠薇が自らの容姿を利用して寵愛を得ようとする強かさを第1話から見せていましたが、今回のアイシャには愛と前世知識(裏切者がいる)しか武器がないので、今後の展開への期待を持ってもらいづらいのでは、と。感想依頼で「今後の展開予想」「アイシャの立ち回りの予想」について伺っていたのは、この辺りどう見えているかを知りたかったからです。コメントいただいた範囲内では、明確に不安視されている・続きを読むかどうかのネックになっている、という感じはしなかったので一安心、でしょうか。

ヒーローについて

 冒頭で腐乱死体になっている斬新なヒーローでした。ヒーローの掘り下げやキャラ付けが甘いのが自作の弱さであるという自覚はあり(逆に言えば、ヒーローに濃い目の味付けができた作品は比較的好評をいただいていますね)、本作についてもヒーローの造形について懸念がありました。
 何しろほとんどの尺で死体として横たわっているだけですし、ラストシーンでも「優しいイケメン」ていどの印象でしかないでしょうし。何より、こいつ「十年後」の世界線ではダミニを側室にして手を付けているので(ダミニの懐妊が疑われていないのはそういうこと)異世界恋愛もののヒーローとしてはヘイトを買いかねないんですよね。アイシャ視点のモノローグで愛を捧げられるのに相応しいキャラクターだと思ってもらえるかどうか、という不安はありましたし、感想依頼でも質問させていただきました。
 この点についても、感想で見かけた範囲では「こいつどうなの」というお声はなかったので、ヒロインの言葉を信じていただけている、ということでしょうか。連載版では、ヒーローとして早めに良いところを見せられるようにしたいものです。

感想でのご指摘について

・あらすじの注意書きはどういう意図? 必要だった?
 前回の魁国史~にて、「冒頭で子供が死ぬ展開にショックを受けた」という感想をいただいたため、「地雷もまんべんなく踏むことになるかもしれない祭りの仕様上、注意書きは丁寧にしておいたほうが良いかもね!」という考えのもと、念のために付したものです。連載時は、小説家になろうなら前書きに記載することもできますが、祭りの時はそうもいかないですからね。

・あらすじの「国の在り方を変えることができるのか……!?」という記載が気になる。
 国の在り方が変わらない場合、アイシャは結局のところ夫より先に死ぬか夫に殉死するかの二択になります。現代の倫理観・価値観を持った読者は、五十年連れ添った後なら殉死しても良いよね☆とは決してならないでしょうから、エンタメとしてお出しする以上は、ハッピーエンドの前提として殉死制度は廃止しなければなりません。そう、そんな展開になるんですよ。
 「どの道殉死することにならない?」という突っ込み回避のため、エクスキューズとして挿入したフレーズですが、意外と突っ込まれなかったのが不思議だったんですが、あえて感想として表に出さなかった方も安心していただけると良いです。

・ダミニの動機が気になる。
 悪役女の背景・嫉妬を抱くようになった動機の掘り下げを期待するお声が思った以上に多かったですね……そ、そんなに気になりますか……? と震えながら設定を練ったので、連載版では上手いこと上手い感じになってるはずです!

・アイシャがミーナ、ダミニがエルジー
 過去作「雪の女王は戦馬と駆ける」のキャラクターになぞらえていただきました。その通りです。アイシャ≒ミーナのような、世間知らずのお姫様が現実に叩きのめされて成長する展開も大好物です。上記のWebtoon「娼婦は女王を演じる」にもそんな要素がありますね。エルジーがミーナを妬み陥れる世界線もあったかもしれないですが、そうはならなかったんですよね……。

まとめと宣伝

 今回の書き出し祭りについては、反省点はないです。想定外の矛盾の指摘や、誤読の余地はなかったようですし、狙っていた異世界恋愛ジャンルの読者以外にも興味を持っていただけたのは嬉しい驚きでした。あとは書き出しの勢いを失わないままに書き上げられると良いですね。

 書き出し祭り歴もだいぶ長いのですが、狙ったところにボールを投げる、がようやくできるようになってきた気がします。
 こういうキャラ設定をこういう意図で並べたら面白いと思ってもらえそう→もらえた! というPDCAが上手く回ってきたと言いますか。初見の読者が処理できる情報量が何となくわかってきたのもあるかもしれません。また、インパクト狙いの一発ネタよりは、連載を想定して・あるていどのプロットを用意した上で第1話を書いたほうが世界観が地に足ついていたり、想像を膨らませる余地が確保されていたりするのかな、という感触があります。

 本記事は個人的な備忘録でもあるし、今後の書き出し祭りの参加者の方々の参考にもなれば、の想いもあります。こうすれば得票に繋がる、と断言はできないのですが、適宜取り入れたり取り入れなかったり逆を行ってみたりなど、良い感じの踏み台にしていただけると幸いです。

 今回の参加作「殉葬妃は蘇る ~今度こそ愛する貴方と生きるために~」は、すでに小説家になろうとカクヨムにて連載開始しております。
 書き出しからどのような物語が展開されていくのか、覗いてみていただけますように!

なろう
https://ncode.syosetu.com/n8541ir/

カクヨム


 また、初の単著が2024年5月15日に発売予定です。
 今回の書き出し祭りから作者に興味を持っていただけましたら、手に取っていただけるとこの上なく嬉しく思います。どうぞよろしくお願いいたします!!

2024年5月15日発売予定!!

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