見出し画像

第19回書き出し祭り自作解説&反省会


初めに

 2023年9月9日~9月30日に開催された第19回書き出し祭り、私の作品はこちらでした。

4-06 魁国史后妃伝 その女、天地に仇を為す

 今回の祭りは、本来は参加表明はしておりませんでした。締め切り間近になって原稿が足りないかも……という運営様のポストを見たこと、また、ちょうど公募向けのネタが降ってきたところだったことから、「書き出し祭りで色んな人の意見が聞けたらラッキー!!」ということでリザーバー原稿として応募した、という流れですね。

 構想一週間、執筆三日くらいで出したので、設定が煮詰まり切っていなかったり、表現が甘かった(誤読の余地がある)りした部分はありましたね……。また、Web連載を想定していなかったので、タイあらでの読者受けやヒキはあんまり意識していなかったりします。とはいえ、公募向けということでせいぜい13万字前後で物語を作ろうとするとちんたらできないのも厳然たる事実ですので、情報の圧縮・スピード感には気を配っておりました。という訳で、書き出し祭りに出すに相応しい原稿にはなっていたと思います。

以前の書き出し祭りからの学び

 上記を前提にした上で、今回の原稿は、直近の書き出し祭り参加作から得た学びを活かしたつもりでした。すなわち、下記作品を分析して導いた下記のポイントです。

第16回 4-16 花旦秘華物語 ~後宮で国一番の女優を目指します~
 
専門用語や漢字をガンガン使った中華ものだから好きな人に刺されば良いな~と思ってたら総合1位を取れてしまった作品です。

第18回 2-16 魔王の末裔は奸臣の孫に嫁ぐ
 
読者は誰も知らないであろう人物を題材にした時代劇だからryと思っていたら会場1位を取れてしまった作品です。

 書き出し祭りの参加者さん、懐深すぎ……! って思いますよね。まあ祭りで成績が良かったからといってWebで連載した時にランキングに食い込めるかというとまた話は別なんですけどね。ただ、成功例に法則を見出すことができたら、狙って上位に行けたら嬉しいことです。意図した通りに読者に訴えかけることができたということなのですから。
 上記2作品が書き出し祭りで票を得ることができた理由、この辺りではないでしょうか。

・主人公の目的が明確に提示されている
 これは特に花旦~について、ですね。タイトルでも示した通り「(女が舞台に立てない世界で)女だてらに国一番の役者になる!」でした。どういう物語かを最初に読者に示せると期待感が持ちやすいのでしょう。っていうか、私がどうこう言うよりONE PIECEの第1話を見ていただくのが早いんですけどね。「海賊王に俺はなる!」を入れようね、ということです。

・主人公の強みを見せると良いかも
 これも特に花旦~についてなのですが、こちらの作品のヒロインは芝居(京劇モチーフなので殺陣も舞もある)が大好きで、すでに実力も十分であることを書き出しで描写しました。このスキルを使って後宮でも活躍するんだな、という期待を読者に抱かせることができたのかもしれません。

・ディテールは強みになる 
 花旦~は中華風異世界、魔王の末裔~は江戸時代を舞台にしています。いずれも馴染みのない読者もいるでしょうが、現代ものや、いわゆるテンプレ・お約束の力を借りて描写を省ける異世界ものに混ざっても票を集めることができたのは、独特な用語を使った描写が世界観の解像度を上げて、さらにはキャラクターの姿にも立体感を与えたからではないか……と思います。だったら良いな。
 「調べて書いてそう」「考えて書いてそう」と思ってもらえれば、続きも期待が持てると思ってもらいやすいのではないかと……もちろん、読者が知らない言葉を使って分かりやすく書く工夫もあるので、詳述するのですが。

・主人公にスポットを合わせると良いかも
 花旦~はヒロインの芝居大好き! もっと演じたい! を前面に出しました。夢に向かってひたむきな・ポジティブな子が読者に好まれそうなことは理解できます。
 いっぽう、魔王の末裔~のヒロインは微妙に性格キツく描写したので、票を集めたのは私としては結構意外なことでした。武家の姫君だから、という設定からの納得感もあったのかもしれませんし、実家からの冷遇、からの不満や諦めや絶望の心理描写を手厚くしたので感情移入してもらえたのかもしれません。
 ですので、一般的には欠点のある造形の主人公でも、そうなるよなあ、という背景を描写できれば読者の応援を得ることができるのかも、と考えました。

今回の狙い

 上記ポイントを押さえたところで、今回の「魁国史~」を振り返ってみましょう。

・ヒロインの動機をぶち上げる
 姉と甥を殺したクソな制度をぶち壊す、ですね。明確に盛り込めました。
・主人公の強みを見せる
 姉と似た容姿を利用して皇帝に近付く、ですね。ちゃっかり皇太子を死なせた過失からも自らを安全圏に置く強かさも見せています。こうやって後宮でのし上がっていくんだな、という期待と保証のつもりです。
・世界観のディテール
 モデルにした時代は花旦~とまったく別なので、現在絶賛付け焼刃中なのですが。復(たまよばい)など、その世界を感じさせるワードを入れて雰囲気の演出に気を配りました。指摘してくれた方はたぶんいませんでしたが、皇帝が毛皮の敷物に直で座っている=椅子がまだない時代であることもこだわりでした。(でも、モデルにした国は遊牧民族由来なので椅子文化あったっぽい……い、いや中華王朝に変容しつつあるころだから漢族の風習を取り入れているころかも。この辺はもっと煮詰めないとですね……)
 というか、そもそも「皇太子の生母は殺す」という設定からして独特の世界観と感じられるのかもですね。設定というか普通に史実なんですけどね……というところは後述します。
・主人公にスポットを合わせる
 復讐に燃えるヒロインは、それ自体だと読者の支持は得られなさそうなんですが、復讐心を抱く経緯・動機を丁寧に描写することで感情移入してもらえると良いなあ、という計算です。
 当初は、死に戻りものにすることも考えたのですが(処刑されたと思ったら、気付いたら寵愛を受ける前に戻っていた! さあどう立ち回る? なパターン。Webtoonでよくあるやつ)、公募先のレーベルにすでに死に戻りものがあること、また、自分が殺された怨みよりも近しい家族の死に関する怨みのほうが共感されるだろうな、という目算のもとで現在の形になりました。

 自分なりのメソッドを実現して臨んだ今回、反応も悪くなくて安心しました。多かったコメントへの回答は以下です。

◆きっと書籍化作家
 書籍化してないんだ。ごめんな。
 書籍化、したいし狙って書いたり応募したりしてるのになかなか儘ならないので、悔しいお言葉ではありましたね。
 とはいえ公募に殴り込みたい作品ではあるので、商業レベルと思ってもらえたのは嬉しいです。

◆中華ものなのに/漢字が多いのに読みやすい
 これは気を付けているので嬉しいです。ありがとうございます。
 一般化できそうなメソッドとしては、・ルビは適度に振る ・人名は読める漢字を使う というものがありますね。
 書籍だとレーベル・出版社の方針によって初出時しかルビが振れないことがあるそうですが、Webだと作者の匙加減で設定できますからね。キャラ名についても、丹、婉蓉、翠薇、絳凱……読み方に迷う漢字は少ないのではないかな、と(絳凱は読めないというお声がありましたが)。
 また、今回の復(たまよばい)、花旦~での京劇用語、魔王の末裔~での武家の婚礼式次第の用語など、読者が知らない可能性が高い単語を使う時にはコツっぽいものがあります。
前後の描写で(さりげなく)補足する
 例えば花旦~の下記のような描写ですね。

第十六回書き出し祭り 第四会場「4-16 花旦秘華物語 ~後宮で国一番の女優を目指します~」
(https://ncode.syosetu.com/n0930hv/17/)

 「水袖」について、中華ものにあるていど接している方なら「アレのことかな」と思ってもらえそうですし、分からないなら分からないで「舞踏用のひらひらした衣装なんだな」と分かってもらえばOK、という考えです。

・ルビで意味を補足する
 
今回の復(たまよばい)が該当しますね。魂呼ばい=死者の魂を呼び戻そうとしてその名を呼ぶこと、が一般知識かどうかは微妙なので、一度ルビに頼った後で実際に何をするかを描写するという二段構えにしております。
 またも第16回の花旦~から引用するのですが、漢字+意味ルビは世界観の雰囲気を出して表現の幅を広げる手法として有用ではないかと思っています。

第十六回書き出し祭り 第四会場「4-16 花旦秘華物語 ~後宮で国一番の女優を目指します~」(https://ncode.syosetu.com/n0930hv/17/)


・最悪、意味が分からなくても良いや、と思うこと
 諦め大事。書いているのは小説であって辞書ではないので、伝えたいのは言葉の意味ではなく雰囲気や世界観なんだよ! と割り切る考え方もアリではないかと思います。もちろん、単語の意味が分からなくても物語の筋を追うのに支障はないように調整はしますけれども(意味が分からない単語があると引っかかってもう読めない、という方はいるでしょうが、こちらにも醸したい雰囲気があるのでしょうがない)。

第十八回 書き出し祭り 第二会場 2-16 魔王の末裔は奸臣の孫に嫁ぐ(https://ncode.syosetu.com/n3137ie/17/)

 これは前回書出し祭り作品の一冊ですが、たとえば上記の記述において、御箸初や式三献がどのような手順で何をやっているか、読者が把握する必要はない訳です。「なんか武家の婚礼でやりそうな重々しい儀式があるんだろうなあ」と思ってもらえれば十分。っていうか私も分かってないです。いっぽうで、婚礼の場面なんですよ! ということは分かるようにしておく……という加減でやっております。

反省点

 以下、反省文です。字数制限と締め切りはありつつ、ここもっとこうしておけば良かった、今後の課題なところです。

・情景描写が少ない
 翠薇にカメラを寄せた関係上、彼女の視点であえて描かなくても良い部分は省いたというか描けなかったんですよね。狙っているレーベルが情景描写を評価する傾向があるっぽいので、公募に出す際は盛っていきたいところです。

・どうなり上がっていくかのプランがもっと見たい
・生母殺しの祖法の有効性
・この国の皇后ってどうなってるの?

 この辺りまとめて言い訳すると、字数不足・検討不足ももちろんあるのですが、史実を参考にしているため「だってそうだったから」で作者側では思考停止していた面がありますね! 読者目線ではもっと補足・説明が必要だったということを痛感しましたので、もっと本作上での設定を煮詰めつつ、自然に説明を盛り込んでいけたら良いと思っております。

元ネタについて

 この項目作っておいて説明するのが分かりやすいと思うのでここでぶっちゃけますが、「皇太子の生母は死を賜る」という法(しきたりといったほうが良いかも)は中国は南北朝時代の北魏にて実際にあったものです。「本当にありそう!」というご感想もいただいておりましたが、作者の発想力とは関係のないただの史実です。
 こんな法がまかり通っていた背景として、「北魏は遊牧民族である鮮卑族を主体としており、元来は部族の連合体であったため、皇后の実家はそれぞれ有力な部族を後ろ盾に持っていた。それらの部族が指導者の後継争いを左右した歴史的背景もあるので、その二の舞を避けるため」という説明もありますが、生母を奪われた皇太子は皇太后のもとで養育され、その皇太后が実権を握った場面も多々あるので、これでは十分ではない気がします。あと、生母亡き後、乳母に親しんで育った皇帝が、乳母に皇太后に並ぶ地位を与え、その元乳母がまた権勢をふるうというちょっと意味が分からない事態も発生していたようなので、ぶっちゃけ女禍は避けられていないんじゃ……と思ってました。むしろ、(名族出身の)皇太后が権力を握るための制度にすらなってる気がします。
 また、「従来、部族間の合議によって後継者を定めていた鮮卑族が、中華的な国作りを目指すにあたって『皇帝の独断によって・生前に』後継者を定める制度として定めた」という説明をしている本もあって、こちらのほうが納得感があるようにも思います。

 いずれにしても、本作のヒロイン・翠薇にとっては皇帝だけでなく皇太后も、国の制度そのものも「敵!」と認識するに十分である、という流れにしたかったのでした。(作中世界の歴史・現状をどこまで史実通りにするかという問題はありますが)

 また、前節で寄せられた疑問「この国の皇后って?」についても、北魏の制度を想定していたので読者置いてけぼりになってしまっていたところでした。
 北魏においては、皇后は二通りあります。ひとつは、皇帝の伴侶として冊立された女性。もうひとつは、皇太子の生母で死を賜った女性が、実子が即位したのちに皇后位を追贈されたもの。
 つまり、翠薇の姉は甥っ子が無事に成長して即位していれば皇后として祀られるはずだったのですが、我が子の死により死後の栄光も失ってしまった、ということになります。翠薇としてはそもそも何の慰めにもならないことではあったでしょうが、形ばかりでも姉の死が報いられることがなくなったので一気に復讐に傾いた──という流れになります。また、死後の栄光なんてアテにならないからこそ、生きて何もかも手に入れる! という決意に繋がったのです。
 改めて書き出すと、どう考えても本文中に述べておくべきことでしたね。
 まあ、気付かなかった大事なことを教えてもらえるのも書き出し祭りの素晴らしいところなので……。

 大事なことといえば、野菜ばたけさんの記事で言及していただいたこともたいへん参考になりました!

>大切な姉を殺された上にその死の意味まで奪った彼らへの復讐として、「法改正してもう二度と法のせいで誰も死なない世界に」という綺麗な結末を望むのなら

 ここですね。
 このご指摘、作者の意図とは異なっていることはまず弁明させていただきます。翠薇のモノローグ「祖法など覆す」というのは、法改正という正規の手段は想定しておらず「法律なんて気にしなくて良いくらいの寵愛と権力を得てやる!」という意志表明です。「生母殺しの法があるから、誰かに貧乏くじを引かせよう」という後宮の女たちの魂胆を愚かで卑小なものだとあざ笑い、盤面からひっくり返してやる! というのが彼女です。姉を生贄に差し出して安全圏を確保したつもりかもしれないけど、黙ったままでやられないよ? お前たちも巻き込むよ? ということですね。
 その試みの中で当然のことながら政治は乱れ国は揺らぐので、それを踏まえてのサブタイ「その女、天地に仇を為す」でもありました。

 ……ではあるのですが。現代人の読者から見て、物語のヒロインは「正しい」手段を使うであろう、と考えてしまうのももっともな読解だと思いました。事実、野菜ばたけさんのように明確に言語化していただかなかったものの、ほかの方のご感想でも「法改正頑張って!」という感じのものはいただいておりましたしね……この点、冒頭から誤読が発生し得る状況になっていたのは大変よろしくないと思って大いに反省しているところです。ヒロインの心の強さ、「悪事」にも怯まない憎悪の強さ、冒頭から大いに強調しないといけないですね!

最後に

 今回はWebの流行とはかけ離れたジャンルで臨みましたが、それでも好意的なご反応を多くいただいたのはたいへん励みになりました。また、執筆・改稿にあたっての重要な指針をいくつもいただくことができました。
 応募先のコンテストは来年1月が締め切りですので、書き出し祭りに提出した作品および本記事は年内めどで非公開にする予定です。それまでに、どなたかの参考になれば企画に参加した甲斐もあるというものです。今回の参加者も、次回以降に参加を検討されている方も、ご覧になっていただけますように。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?