(大人の)熱海の暮らし方 ~坂と階段との付き合い
熱海といえば、海、そして山。
その海と山を繋ぐものといえば、そう、それは坂。急坂。急階段。
観光客にとっての、熱海らしい情緒ある景色のモチーフは、生活者になった途端、敵に変わった。
先に何が待ち構えているかわからないような階段が、行く先々で目の前に立ちはだかるのだ。その度に絶望的な気分になるのは仕方あるまい。
溜息交じりに階段を見上げるわたしの横を、軽やかに駆け上がっていく小学生の元気がただただ眩しい。わたしは目的地に行くために仕方なく、粛々と歩を進めるだけだ。戦う気など元々ない。平和主義なのだ、わたし。
今まで埼玉・千葉・東京と関東平野でしか生活してこなかったわたしにとって、激しいアップダウンに満ちた街は、見た目にも体感的にもかなり刺激的で新鮮だ。
熱海で物件を探し始めた時から気づいていた。ええ、知っていましたとも。どの家に行くにも坂か階段があるということは。
ただ、不動産屋さんの車の車窓からは、周りの緑あふれる景色しか見えてなかったんだなあ。山を上ってたということには、遠くを見渡したときに気づくのだ。
個々の家に続く階段も、物件の見学の時には文字通り浮足立ってぴょんぴょんと上がれた。物件を見て回るのは、かなり楽しかった。
最終的に決めた家にも、石段と坂がもれなくついてきた。
熱海駅から約20分。ちょいと頑張れば駅から歩ける場所である。
ちょいとの頑張りにはもちろん高低差への頑張りが含まれるが、何度か下見で歩いてみて、これくらいなら大丈夫だとふんで物件購入にいたった。
車無しの生活を始めたわたしたちにとっては、自分たちの足が移動手段の主たるものになる。移動ついでに健康にもなるに違いない。
ラッキーなのだ、ラッキーだと考えよう、わたし。
不覚だったのは、下見で歩いたときには、買い物の重い荷物を持って歩くことまで想定しなかったこと。
マックスバリュー(熱海市民の御用達スーパー)でしこたま買い込んだ日の帰り道は、訓練或いは修行に等しい。
ジムに行く必要がないぞ、よかったのだ、よかったと考えよう、わたし。
さて、地元の人がどうやって坂を乗り越えているかといえば、やはり車。
本当に熱海が車社会だということは、暮らし始めて実感した。
免許の更新のときに気づいた、ゴールド免許じゃない方の講習に行く人の多さ。ちなみに年齢層は高め。なるほど。これが車が必需品の町の現実なんだろう。
とにかく、観光スポット以外歩きづらいのが熱海だったりする。観光地なのに、歩行者にやさしくないの。
ちょっとでも冒険心を出して、山の上の方にあるカフェに歩いて行ってみよう、などと思おうものなら、思っていた以上の冒険が体験できる。狭い上に曲がりくねっている山道に歩道はまずないし、ショートカットできそうな階段は草で埋もれている。
暗くなってから歩くときは、わたしはイノシシじゃないからね~、ひかないでね~と思いながら、できるだけ端を歩き、後ろからかなりのスピードで走ってくる車をやり過ごすのが常だ。
ただ、どこに続いているかわからない階段を歩いて、知らない景色やお店に出会うのはやっぱり(体力に余裕があるときには)面白い。
ところで、残念なことに、歩いてたらそのうちに坂に慣れるだろうという希望的観測はいまだ希望のままで、わたしの腿も呼吸も坂と階段を嫌がることに変わりはない。
変わったのは、歩いているときのしんどさで斜度の違いがわかるようになったことか。そのうち、歩行スピードと傾斜度の関係についての考察がまとめられるに違いない。
ただ、毎度毎度泣き言を言いながら歩いているわけではない。歩くのが面倒な時は、迷わずタクシー。重い荷物は配送プリーズ。という知恵もついた。
タクシーの運転手さんは、雨や花火で道路が混んでる日以外は、おおむね優しい。
遠回りながら、バスに乗ると熱海の景色を楽しみながら楽に帰れるということもわかって、時間があるときはバスを利用することも増えた。
この熱海のバスというのが、車窓から海の景色も街の景色も山の景色も楽しめる上に、運転手さんの運転テクニックに感動するしかない、という素晴らしい代物なので、機会があったらぜひ乗ることをおすすめしたい。
それはそうと、歩くのがしんどいなら、電動機付き自転車はどうなの?と勧められたのだけど、これがなんと熱海の坂には通用しないらしい。
実際、自転車はもちろん、電動機付きさえほとんど見かけないので、わたしの中では自転車を見かけた日はラッキーデーということになっている。
ちなみに、熱海にずっと住んでいる人には、自転車に乗ったことがない人もいるとのこと。
関東平野ではひとり1台が基本だったのに、ところ変われば、で面白い。
さて、いつかわたしは熱海の坂と階段を当たり前のものとして、共存していくことができるようになるのだろうか。
関係性が変わったら、またここでご報告します。
それでは、気合を入れてマックスバリューに行ってこよう。
(下り坂を踏ん張りながら歩き過ぎたせいで、足の親指の爪を傷めました。)
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?