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(大人の)熱海の暮らし方 ~熱海で山遊び ートレッキング


「あれが初島かあ~」海を眺めているそこのあなた。ちょっと振り向いて。
熱海には、海もあるけど山もあるのです。
今回はトレイルを歩いた、そんな話。


特に山歩きをしなくても、ちょっと歩くだけでそこそこ運動になる程度には坂道を上がってるのが熱海。けれど、山がある以上、ちゃんとした山歩きのコースもあるのだった。

IZU「伊豆の 山歩き 海歩き」



「伊豆の 山歩き 海歩き」というガイドブックに出ているコースを歩いてみたのは、冬、寒く空気が澄んだ日のこと。
歩くのはアウトドア好きの友人夫妻とわたしと夫の4人。

わたしは特にトレッキング好きなタイプではないのだけど、同調圧力にはすぐ屈するタイプなのでしぶしぶついていく。


ルートは「十国峠~伊豆山神社」

スタートの十国峠までは、バスで向かった。そこから、ケーブルカーに乗って、山頂に向かう。

ケーブルカーに乗ったのなんて何年振りだろう。そもそもどこで乗ったんだっけ。
実際に乗ったことがあったかさえも、霞がかった思い出のかなた。

バスくらいの大きさに見えるけれど、実は定員96人という、大きいか小さいか表現に悩む車両は、斜面に沿って斜めに造られている。
乗り込んだ途端に、気分は遠足。
窓の外を眺めている間に終点に着いていた。あっという間。実際3分で着いちゃう。

先頭を陣取る



展望台からは、それはそれは素晴らしい景色を臨むことができた。
人は、富士山が見えると無条件に興奮する生き物だけど、青い空の下、遮るものなく、大きく見える富士山は圧巻で声を出すのが憚られるほど。

お決まりの構図



十国峠は、十の国が臨めるということからその名がついている。
「伊豆」「駿河」「遠江」「甲斐」「信濃」「相模」「武蔵」「上総」「下総」「安房」。
方角を示す看板に書かれた文字が、日本史を思い出させる。

ところで、「遠江」ってどこよ。
十国の中で一番なじみがない遠江は、静岡県の中央を流れる大井川の西側一帯。昔の国の分け方だと駿河と三河の間ということだ。ちなみに「とおとうみ」と読む。ご存じでした?あら、失礼。

熱海越しに安房の国を望む



いざ出発

十国峠からの素晴らしい景色を楽しんだら、いよいよ出発。
10kmちょっと、3時間半くらいのコースだ。

ちなみに、このトレイルはずっと下り道。
下りなら楽勝!10㎞くらい楽勝!と思って、特にトレッキングらしい装備はしていない。

普通の恰好で歩けないことはないけど、靴はせめてトレッキング用のシューズにすればよかった。ストックを持っていたら便利だったな、とも思う。

気持ちいいスタート


遠くに雄大な景色を眺めつつ、広くてなだらかで、とてつもなく歩きやすい道を歩き始めた。

のほほ~んと景色を楽しむ


傍に新しいグランピング施設が見える。こういうところに泊まったら、星がきれいに見えるんだろうな。視界を遮るものが綺麗さっぱり何もない。夜は寂しいんじゃないかな。


日金山東光寺

このまま続けばいい、と思っている時間がすぐに終わっちゃうのは世の定め。トレイルはすぐに鬱蒼とした山に入った。

足元は湿った枯れ葉で覆われていて、ふかふかしている。
土があらわれているところには霜柱。しゃくしゃく踏みながら歩く。
霜柱は、己の靴で踏みつけなければならないというルールがわたしの中にできた。スニーカーはじわじわと汚れていく。

5㎝くらいある、立派な霜柱


歩き始めて20分ほど。このトレッキング中唯一の立ち寄りポイントである日金山東光寺に着いた。

ご本尊の延命地蔵菩薩は頼朝公による建立


ご本尊の手前に、閻魔様と奪衣婆(だつえば・三途の川の渡し賃を忘れた亡者の衣服をはぎ取るばばあ)の像。迫力がある。
歴史のある古刹は、かつては山岳信仰の修行の場だったそう。


迫力があります


後から調べると、このお寺は昔は死者の霊の集まる場所として信仰があったということで、何と言おうか、歩く前に知らなくてよかった。
気になる人は、お寺にまつわる言い伝えを調べてみてください。

このお寺の近くでは、ぽつんぽつんと建っている道端の小さな石仏が目についた。

苔で覆われて、なんともいえない趣、を超えたものを纏っている石仏を見るたびに、昔の人の信仰の力ってすごい、という思いが募る。


石仏のある道を黙々と歩く


笹との戦い



道のないヤブの中を木や笹をかき分けて進むことをヤブ漕ぎというそうだ。そんな言葉があることを初めて知った。知る前に体験してしまった。

緑の濃い信仰の道を抜けた後に待っていたのは、笹の林だった。
最初は、京都の料亭の入り口のようで風情があると思ったら、だんだんと密度が濃くなり背が高くなり足元が見えなくなった。


笹の中のトレイル


手で笹をかき分けて進んでいくのだが、顔周りにかかってくる笹を払うのがとにかくやっかいだ。
わたしは肌が弱いこともあり、植物に直接触れるのがとにかく苦手。顔の前で腕をクロスし、それをパーっと広げて笹を追いやりながら歩く。さながらジャンプしないX Japanファン。
ストックさえあれば、笹なんぞバッタバタとなぎ倒してくれるのに!

それにしても、本当に正しいトレイルなんだろうか。

笹め!


ガイドブックには、笹の薮の辺りに岩戸観音があると書いてあったけど見つけられなかった。

こういう場所なので、トレイルの案内表示を見逃した可能性もあるし、案内自体なかったのかもしれない。
そんなわけで、歩くときには山歩きのアプリはちゃんと機能させておくのがお勧めというか必須。
それを頼りに歩いてたのに道をを間違えるほど、自然は歩く人のことなど知ったこっちゃない。

辛い時間もいつかは終わるというのも、世の常だ。深い笹地帯を抜けると、普通の山道に戻った。

ときどき、ポカンと視界が開ける場所がある。心底ホッとするのだこれが。
富士山の見える方向が変わっていると、歩いたことが実感できて、自分で自分を褒めたくなる。

淋しい山歩きでは鉄塔にさえ安心感を持つ


別荘地を歩く


ルートの三分の二くらいを過ぎ、山道を抜けると、急に舗装された広い道に出た。別荘や企業の保養所などが点在する辺りを歩く。

当然、道はグッと歩きやすくなった。けれどそれはそれでつまらない、と思ってしまうわたしはどこまでも天邪鬼。
話す内容も、この会社は景気が良かったんだねー、とか、このテニスコートいつから使われてないんだろう、とか下世話になりがち。

急に道路が終わっていたりする場所も



歩道は雑草に奪われているので、仕方なく人間たちは車道を歩く。車はほとんど通らない。
保養所などは一つひとつの敷地が広いので、立派な建物を眺めながらのうっとりエリアと森林横のおさびしエリアが交互に現れる。

途中、お洒落なカフェが目に入った。このルートで出会った唯一の商業施設。
かなり心ひかれたけれど、ゴールの伊豆山神社まで歩ききってしまおうということで、今回はスルー。     

その後、急な上り坂にアップアップしながら住宅街を歩いていると、唐突に表れたのが、今回のゴール地点伊豆山神社。

ゴールの伊豆山神社本宮



小さな公園に着いた、と思ったら伊豆山神社の本宮だった。
横から入ったのでそう感じてしまったのだけど、正面に回ると参道からまっすぐに小さな社殿があった。

自分たちがここに来られたことの感謝を込めて、手を合わせる。

伊豆山神社本宮


本宮の隣に、水神社という新しい小さな神社が祀られていた。
2年前の伊豆山の土石流災害を機に、二度と同じような災害が起こらないようにと、以前この場所にあった水神社を再建したとのこと。

実際に、災害の傷跡は、神社のすぐ横にまだ生々しく残っている。被災された方へのお見舞いと、自治体が責任ある対応をとって近隣の方々が安心安全に暮らせますように、との願いを込めて手を合わせた。本当に1日も早く。お願いします。


本当のゴールの伊豆山神社本殿



さて、ここまで来たら伊豆山神社の本殿までは、あと一息。
そんなつもりで歩き始めたが、一向に着かない。

それもそのはず、伊豆山神社の参道は本宮から海まで続いていて、階段の数は837段あるそうだ。いやあ、下りでよかった。本殿から本宮まで歩く場合は、小1時間かかるようだ。

途中、伊豆山子恋(こごい)の森公園というメルヘンチックな名前を持つ公園横を通る。メルヘンのかけらも可愛げもない、なかなかハードな森のトレイルだ。

下りが多い道は楽勝だと思いきや、湿った枯れ葉の上は意外と滑るので、膝と腿と足首が、要するに足全体がまんべんなく疲れる。

油断した途端に滑って尻もち一つ。お尻もジーンズも靴も泥だらけになる見事さで、なかなかの出来栄え点を回りからもらった。

そして、ようやく本殿に到着!
ゴールが神社というのは、清々しさも格別だ。

茅の輪くぐりの時期だった
無事の到着を感謝


3時間ちょっととはいえ、富士山あり、信仰の道あり、笹の藪あり、と変化にとんでいて、歩きごたえのあるトレイル。
他の人が知らないワイルドな熱海を体験したい人には面白いかもしれない。

注意点は、スタート地点が一番景色がいいこと。山の中に飲食店は一切ないこと。水は忘れずに。靴もちゃんとしたものを。
それから、翌日には筋肉痛のおまけがつくこともお忘れなく。





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